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VRゲームで遊ぼう  作者: イントレット
Unlimited Space Adventure(スペースコンバットシム)
24/72

Unlimited Space Adventure 3

 いくらワープできるからといって本当に一瞬で辿り着けるわけもなく元いた宙域から姿を消した俺達はワープ空間の中を高速で移動していた。

 到着するまで暇なのでその間もトミーさんとの会話を続けている。


「それにしてもこんなに大きな船なのに一人で動かしてるのか?」

「まあね。大きいアライアンスだと複数人プレイヤーが搭乗して動かすこともあるようだけど私はほとんどAIとアンドロイドに任せているよ」


 そう言ってトミーさんが手の甲に嵌めこまれた菱型の金属片を見せる。

 確かにこのゲームでプレイヤーに与えられている補助AIはかなり高性能だし、オートパイロットも簡単にこなしてくれそうである。

 おまけに艦内スタッフとしてアンドロイドが配置されているらしい。

 そうなると確かに大きな船といえども一人で動かすのに支障はないだろうな。


「でもそれって少し退屈じゃないか? タクシーにずっと乗ってるみたいなもんでしょ?」

「そうでもないさ。これはこれで艦長気分を味わえるし、戦闘よりも運び屋(ポーター)として輸送依頼を受けたり、交易に励むほうが好みだからね」

「なるほど。言われてみれば艦長って指示はするけど自ら操縦したりはしないよな」


 トミーさん的にはそれで全く問題ないらしい。

 俺的にはやっぱり自分で操縦して細かい操作を交えたドッグファイトのほうが好きだが、好みは人それぞれってことだな。

 そもそも大型艦を個人で操縦も武装もなんてできるわけもないし、そもそも小回りの効かない大型艦では操縦の腕なんかよりも装備の性能が重視されるだろう。


 そうなるとこのまま、ドッグファイトを楽しむなら下手に大型艦に乗り換えることはできないか。

 でもやっぱり宇宙ゲーっていったら大艦巨砲主義だし、大型艦には乗ってみたい。

 一応エリート艦という小型艦の範疇であっても大型艦に対抗できる性能を持った艦もあるから大型艦に乗りつつ、たまにエリート艦でドッグファイトって形にすることにしよう。


「さて、もうそろそろワープ空間から出るよ」

「随分速いな」

「交易には積載量も重要だが何より速さが重要だからね。ワープドライブにはそれなりに投資しているのさ」


 俺が今後の方針について考えていると何かを確認したトミーさんが声をかけてきた。

 まだワープし始めてから10分も経っていないがどうやら目的の宙域に到着したようだ。

 宇宙マップを見て移動距離を確認すれば、既に500光年も離れた場所まで来ていたらしい。

 俺の現在の機体であるヒューパが10光年の距離を一度に飛べるのに比べればこの大型輸送艦ベクターのワープドライブは50倍以上の性能を誇るようだ。


 そしてトミーさんが告げたとおり、ワープ空間から通常の宇宙空間へと戻ると目の前に現れたのは一つのステーション。

 あのステーションの中に『桜花』本部があるのかと感心しているとトミーさんが驚きの事実を告げてきた。


「さて、到着しましたね。あれこそが我らが『桜花』の本部です」

「え……あの中にじゃなくてあれが?」

「ええ! 驚いたでしょう? ステーション丸ごと『桜花』の所有物なのですよ」


 驚かないわけがない。

 まさかステーション丸ごと保有しているとは予想外もいいところだ。

 驚く俺を他所にトミーさんが操作して輸送艦ベクターはステーションへと近づいていきやがてはドッキングを完了する。


 ベクター内部にヒューパを格納したままだが、勝手に整備エリアへ搬送されるらしいので放っておきベクターからステーションへと移動した。

 すると『転生』で見慣れたアバターの人物が出迎えてくれたので軽く手を挙げつつ近寄っていく。


「よう、ヘーテル。まさかここまでとは思わなかったぜ」

「このゲームでの活動はそれなりに長いから。でも流石にこれを手に入れるまで相当頑張った。褒めろ」

「わーすごいでちゅねー」

「殺すわよ?」

「なんて理不尽な」


 挨拶を交わすとなぜか『転生』プレイ時にも見せていたキャラを作って褒めろなどと抜かしてきたので素直にほめてやったら何故か真顔でキレられた。

 要望に答えてやったというのになんとまあ理不尽な返しである。


「ハッハッハ! 随分仲がよろしいことで」

「でしょう? 『転生』で一緒にパーティを組んでいた時は完全なる相棒(パーフェクト・バディ)なんて呼ばれていたんだから!」


 そんなやりとりを見ていたトミーさんが会話に参加するととヘーテルはなぜかドヤ顔でそう告げた。

 普通は「そ、そんなんじゃないわよ!」というのがお約束だというのになぜそこでドヤ顔。


「へえ、そうなのかい?」

「いえ、全く」


 トミーさんも思わぬ返答に少々戸惑いつつ俺に確認をとるが、当然の事ながらそんな風に呼ばれた記憶は一切ない。

 多分彼女の中ではそういうことになっているのだろう。

 相変わらず通り名とか考えるのは好きらしいな。

 センスはちょっとあれだけど。


「つまんないわね。それでもあんた私の彼氏なの?」

「……誰が彼氏って?」

「あんた」


 彼女の言葉に対して面白い反応をしなかったからか不機嫌な顔をして文句を言ってきた。

 はて、いつ彼氏彼女の関係になっただろうか。

 いや、なってない。


「俺ってヘーテルの彼氏だったんですか?」

「私に聞かれても。本人に聞きましょうよ」


 訳が分からなくて思わずトミーさんに聞いてみたが、ごもっともな答えが返ってきた。

 そのアドバイスに従ってヘーテルに問いかける。


「俺たち付き合ってたのか?」

「ええ、当然じゃない」


 Why?

 告白した覚えも無ければされた覚えもないぞ。


「俺の認識だと付き合っていないのだがなぜ付き合っていると?」

「え? 説明いる?」

「いる」


 俺の言葉にヘーテルは本気で何いってんのこいつと言いたげな表情で首を傾げ説明がいるのかと返してきた。

 いるだろ普通に。


「えっと、『転生』でそれなりに長い間パーティ組んでたじゃない?」

「そうだな」


 なんやかんやで半月くらい毎日ずっと一緒に遊んでたな。


「で、私達すっごく気があって楽しかったし、連携もかなりいい感じだったでしょ?」

「まあ、そうだな」


 確かに彼女と組んだパーティは楽しかったと思う。

 彼女をからかった時の反応は飽きなかったし、からかわれても嫌な気にはならなかった。

 それなりに長い間一緒にプレイしていたから連携も良くなったのは間違いない。

 能力自体の相性も良かったし。


「じゃあもう彼氏彼女でしょ」

「そこが分からない」


 それなり長く一緒にいて楽しくて連携が取れたからカップル?

 それはないだろう。

 ないよな?


「実は世間一般では彼氏彼女なんですかね?」

「いや、私もそれは違うと思うよ」

「ですよね」


 一応トミーさんに聞いてみたがやはり彼女の説明の流れ=カップルというわけではなさそうだ。

 俺の常識がおかしい訳でなくてホッとした。


「じゃあ、ちゃんとしたカップルってどう作るのよ?」

「そりゃあ告白してOK貰えたらだろ?」

「そう、じゃあヒュージ。私はあんたのこと大好きだから今日からあんた私の彼氏ね」


 やっべえなんでこの人一切恥ずかしがることもなく告白してんの?

 しかも返事する以前に決定されたよ。


「……」

「ちょっと! そのスクショまだ保存してたの!? やめて! 物作ってる時の顔恥ずかしいからやめて! 消して!」


 恥という概念がないのではと、『転生』でプレイしていた時に散々見た武器を作っている時の真剣で凛々しいヘーテルのSS(スクリーンショット)を無言で表示したら急に顔を赤らめて慌て始める。

 恥という概念はあるらしい。

 それが確認できたのでSSは閉じればしばらくしてヘーテルも落ち着いたようだ。


「……ん? でも彼氏なんだしいくら見られてもいいか? うん、問題ないね。やっぱ別に消さなくてもいいから他の人には見せないって約束してね」

「あ、はい」


 別の意味でも落ち着いたらしい。


「で、実際どうなん? マジなの?」

「え? このタイミングで冗談言うひとなんていないでしょう? あんたのこと大好きよ。ライクじゃなくてラブよ?」


 そもそもからかわれてるだけじゃねと思って改めて確認してみたが、ヘーテルはポカーンとした表情を浮かべてそんなことを言ってきた。


「いやはや、ヘーテルさんは……私が思っていた以上に独創的な方だったようですね」

「あれは頭のネジが何本か逝ってるね」

「失礼な。好きだから好きって言って何が悪いのよ」


 悪くはないけど少しは恥じらえ!

 こっちが驚くわ!

 いや、驚く以前に唖然とするわ!


「で?」

「いや、何が?」

「結局あんたはどうなの? まあ、どちらにせよあんたは私の彼氏だけど」

「なんじゃそりゃ」


 それからヘーテルが俺の方はどうなのかと聞いてきた。

 もっと速く聞けよと思ったし、この期に及んで尚彼氏だと確定されてるのはどういうことか。

 だが、冗談でも何でも無く本気で言っているらしいことはビシビシと伝わってくる。


「……まあ、俺も別に文句はねえよ。今後ともよろしく」

「最初からそういえばいいのよ! よろしく!」

「若いっていいですねえ……私も嫁の顔が見たくなってきました」


 いろいろとうだうだと言いつつも結局は俺もヘーテルに惹かれていたのは否定出来ない事実だった。

 最初は戸惑ったが、彼女が冗談でも何でも無く俺のことを好きだと言ってくれているのが分かって嬉しいと感じた。

 それを自覚した時点で認めないという選択肢など残っていなかったのだ。

 そんなわけで俺とヘーテルは晴れて彼氏彼女の関係になった。

 VR技術の発展した昨今、VR世界で出会いそのまま彼氏彼女の関係になるのも珍しい事でもない。

 トミーさんはちょっと引きつった笑みを浮かべていたが。

 ってか嫁さんいたのか。


 まあでもそれはそれとして、だ。


「これ以上はゲームの趣旨と離れ過ぎなのでそれは横に置いておこう」

「それもそうね。じゃあ、早速今回試す装備を見せてあげる。こっちよ」

「おう」

「……いや、切り替え速すぎませんか。それとも最近の若い子ってのはこんなものなのでしょうか……」


 俺はあくまでこのゲームをプレイしているのだ。

 恋愛云々にうつつを抜かしに来たのではない。

 だから本題へと移ろうとすればヘーテルも即座に呼応するようにあっさりと話題を変えた。

 さすが、ヘーテル。

 よく分かってらっしゃる。


 そんな俺達にどういうわけかトミーさんは酷く疲れた様子で引きつらせた笑みを浮かべていた。

 俺たちはゲームをプレイしているんだからゲームについて話をするのは当然だというのにどうしたのだろうか。

 不思議に思ったがまあ、いろいろあるのだろうと結論づけて特に触れる事はしなかった。




 その後俺はヘーテルに案内され整備エリアへとやってきた。

 トミーさんは「ちょっと癒やされてきます」と言ってログアウトしたので今はふたりきりである。

 だからといって浮ついた空気の欠片も無いが。

 いや、重力は地球よりも軽いから浮いてるかも。

 

 で、整備エリアには俺の機体であるヒューパがあって既に彼女の作った装備が装着されていた。


「いや、いやいやいや。お前これはねえだろ」

「でも理論的にはこれを使った時に機体にダメージはいかないはずよ?」


 見せられた装備に俺はこれはないだろと呆れ果てた。

 だが、彼女的には自信作のようで実にいい笑顔で問題はないと告げてきた。

 実にいい笑顔だ。

 改めて惚れ惚れする。

 でもこれはない!


「いや、宇宙船にラムアタック用の装備ってお前頭おかしいだろうが!?」

「弾を消費しない物理攻撃で威力も十分。シールド剥げた相手に対する攻撃としてはこれ以上ない代物じゃないの。継続戦闘能力も高いし」


 彼女が言うようにシールドが剥げた相手に対してはレーザー兵器よりも実弾兵器のほうが効率的ではある。

 それは間違ってないが、だからといってラムアタックでダメージを与えようとは普通ならん。


「ま、面白そうだしやってみるか」

「じゃ、このポイントで試験よろしく!」


 とはいえ俺もやっぱり男の子。

 ラムアタックはロマンだし面白そうだし喜んで引き受けます。




 そんなわけでやってきたのはヘーテルに言われた座標の宙域。

 ここは宇宙生物が頻繁に湧くポイントで中型の者が出てくるようだ。

 早速現れた宇宙生物をターゲットにまずは宇宙生物のシールドをレーザーブラスターで剥いでいく。

 戦闘艦でありフルスペック機体であるヒューパに搭載されたレーザーブラスターの性能は初期艦のものとは比べ物にならず、あっという間にシールドを剥ぐことができた。

 ああ、普通にシールドとか言ってるけど宇宙生物は当然のごとくシールドを纏ってるのである。

 生物とはなんだったのか。

 それは考えてはダメなのである。


 まあ、ともかくシールドが剥げたのでラムアタック専用装備『グングニル壱式』を起動。

 するとヒューパの艦首に取り付けられた特製のブレードが赤熱していく。

 ひとまず赤熱によって機体に異常が生じることはなかった。

 これで後は敵に接近しそのまま衝突すれば多大なダメージを与えることができるはずだ。


 相手は中型の宇宙生物でその分だけ攻撃は強力だが、大きさの分だけ鈍くなっているから死角を位置取り続けるのも簡単だったので攻撃をもらう心配もない。

 準備が整ったのを確認し、俺はフルスロットルで中型宇宙生物へと突撃を敢行した。


「避けようとしても無駄だオラァ!」


 その動きを察知してか宇宙生物が回避するような動作を見せるがそれを認識すると同時に俺は進路を微調整し多分、背中だろう部位の中心へと一切速度を緩めること無く突っ込んだ。

 『グングニル壱式』のブレードが中ほどまで刺さったところで機体の動きが止まり強烈なGが俺を襲う。

 だが、強化されたG耐久力により気を失うこともプレイヤーダメージを負うこともなく、機体も一切の損傷が無いことを確認した。


 すぐさまバックするように操作すれば意外にもさっくりとブレードが宇宙生物から抜け、同時に宇宙生物が体液を撒き散らかして大きく暴れだしたが、すぐに絶命し程なくして宇宙生物を倒した報奨金が口座へと振り込まれた。

 その額は初期艦で狩っていたものとは桁が違うもので思わず顔に笑みが浮かんだ。


「もらった装備だが、かなり調子がいいぞ。中型の宇宙生物もシールド剥がした状態から一撃だ」

『想像以上ね。これなら十分実用的といえるそうね』


 早速その結果をヘーテルへと報告すれば彼女も満足そうな笑みを浮かべる。

 

「だが、突撃に対して相手も回避するような行動を見せたからな。それにうまく対応できないと空振って致命的な隙を晒しかねん。あと胴体に突き刺さるとGがものすごいことになるしやっぱり隙だらけだから狙うなら身体の端の方を狙う必要があるだろうな」

『なるほど。あんたならそんな動きも即座に認識できるでしょうし、端を狙うのも可能だろうけど量産化して売るにはちょっと問題か』


 だが、メリットばかりではなくいくらかの欠点も見つかったことを報告すればヘーテルは真剣な様子でどう改善すべきか考え始める。

 俺としてはこれはこれでありだと思うのでその辺り伝えておこう。


「これはこれでこのまま量産してもいいんじゃないか? どのみち小型艦は安いんだしAI制御で飛ばしてミサイル的な利用法も有りだと思う」

『ああ、なるほど! 確かにそれなら別に狙う必要もないし、数を増やせば回避行動に対しても対処は可能ね! うまくいけば再利用も可能だし十分な効果は見込めそう……よし、ありがと! 一応別の方向性を模索して改良も進めるけどあんたの案も頂いてこれはこれで量産して売り始めることにするわね』


 完全に神風アタックであるが、まあ無人機だし問題はあるまい。

 やや値は張るが高威力のミサイルとして使うことは不可能では無いはずだ。

 ヘーテルもその案には乗り気なようで最終的に量産化して売りつつも『グングニル壱式』の改良も進めていく方向で決まったらしい。

 そもそも壱式とか付いてる時点で改良する気満々だったように思えるがまあ気にすることでもないだろう。


 その後、俺は継続して試験データを集めるついでに『グングニル壱式』の使用練度を高めるためひたすらこの宙域で中型宇宙生物を狩り続けた。

 狩りすぎて脅威認定され複数の中型宇宙生物に狙われたが、小惑星などを盾にしつつシールドを剥ぎその後は中型宇宙生物の身体の端の方を通り抜けるようにすることで隙を減らし、なおかつ連続での強力な攻撃を可能にできたので事なきを得た。


 最初はネタでしか無いと思っていたラムアタックも十分に使える攻撃方法だということをハッキリと思い知ったところで二回目のプレイは終了である。

 二回目のプレイはややログが長くなってしまった気がするが、まあ気にするほどでも無いだろう。


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