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VRゲームで遊ぼう  作者: イントレット
ReBIRTH-Lost life,New life-(MMORPG)
20/72

ReBIRTH-Lost life,New life- 8

 冒険者ギルドの地下訓練場で座り込み疲れた精神を癒していると、ヘーテルが心配そうな表情を引っさげて駆け寄ってきた。


「大丈夫?」

「ああ、もちろん」

「まさか作った短剣がモンスター化するなんて思っても見なかった……ごめんなさい」

「あれはお前のせいじゃないだろ。それになかなか楽しかったしこうして最高の武器も手に入ったしむしろ感謝したいぐらいだ。っていうかあれだ。ありがとう!」

「ふふ……あんたって結構変わってるのね。恨み言の一つや二つ言ってもおかしくないのに……私こそ真竜の牙を使った武器作り任せてもらってありがとう!」

「「……ぷっ」」


 なんとなく互いにお礼を言い合って最後は拳をコツンと当ててしばらく見つめ合っていたが、どちらからとも無く吹き出してその後しばらく馬鹿みたいに笑いあった。


「あー笑った笑った。こんなに笑ったのは久しぶり」

「俺もだ。さして面白い話があったわけでも無いって言うのにな」


 ひとしきり笑ってお腹に痛みを感じつつ見上げるように彼女へと視線を移す。

 彼女も笑いすぎたのだろう、お腹に手を当てて目の端には涙が浮かんでいた。

 ホント何がそんなに可笑しかったのか俺も彼女も分かっていないに違いない。

 それがなんだかまた可笑しくて、けれども腹痛はもうゴメンだと笑うのをこらえ立ち上がろうとすると彼女が手を差し伸べてくれる。


「っと、サンキュ」

「これぐらいお安い御用よ」


 その手を握って立ち上がり、礼を言えば彼女は茶目っ気たっぷりな笑顔で答えてくれた。

 今日出会ったばかりだというのにずっとまえから知り合っていたかのような不思議な感覚。

 そんな感覚がこそばゆくもあり、嬉しくもあり自然と頬が緩むのを感じる。


「というかそろそろ時止めるのやめたらどう?」

「あ、忘れてた」


 それから未だに時が止まっているようなのでそれを指摘すれば解除するのをすっかり忘れていたようだ。

 未だ時が止まっていることに気づいた彼女が能力を解除すると、時を止められた時と同じように何やら不思議な感覚とともに人々の動きによって生じる音がし始めて時が動いたのだと認識する。


「さて、これからどうするか……」

「ん、オンタマに提案、というかお願いある」

「お、言ってみ言ってみ」


 これからのことを考えつぶやくとそれに反応したヘーテルがそんなことを告げてきた。

 そんな彼女になんとなく違和感を感じつつも先を即す。


「オンタマのこと気に入った。パーティ組もう?」

「ん、まあ、今後進めてく上で更に強力な武器は必要になるからなあ。こちらとしても願ったり叶ったりだからいいぞ……っていうか何そのキャラ」

「時動いてるといつ誰が聞いてるか分からない。私の素のテンション、割りと鬱陶しい。自覚ある」


 何か違和感あるなと思ったら話し方だ。

 こうしてフレンドになる前、男のプレイヤーと言い争っていた時の彼女の口調に戻っていたのだ。

 あまりにも唐突にキャラを変えるから何事かと思ったがわざとやっているらしい。

 まあ、確かになれないとあのテンションはなかなか……ええと驚くものがあるからな。

 自覚あったのか。


「自覚はあっても変えないんだな」

「当然。何ら恥じることはないから」

「だったらキャラ演じることもないだろ。というかそのキャラのほうが割りと鬱陶しいぞ」

「でもこの不思議っ子っぽいキャラ、結構便利。こういうキャラが好きな人は言うに及ばず。別に好きじゃなくても淡々と言われ続けるの不気味。大概譲歩してくれる。みんなちょろすぎてやめられない」

「ヘーテルも大概ちょろいけどな」

「私はちょろくないわよ!」

「急に戻るなよ……」


 彼女は素の状態のテンションについて何ら恥じらいは無いらしい。

 ならキャラを変える必要もないだろうと思ったのだが、割りと下衆い理由でキャラ作りをしていやがった。

 なんてやつだ。

 あと、みんなちょろいって言うけど俺は真竜の牙の加工権利であっさり釣れたヘーテルも大概ちょろいと思う。

 そんなことを言ってからかってみれば突如キャラ作りをやめて素で否定してきた。

 急にテンション戻されるとそれはそれで驚くのでやめて。


 まあ、それはともかくパーティを組もうとヘーテルに対してパーティ申請を送った。

 対象は既にパーティに入っていますと出てダメだった。


「既にパーティに入ってるって」

「あ、忘れてた。……ふん、報酬なんてこっちからお断りよ……これでよし。ワンモア」


 ぶつぶつと言った後そういうので再びヘーテルにパーティ申請を送る。

 パーティ申請が受理されませんでしたという情報ウィンドウが現れる。

 つまり拒否された。

 こいつ……。


「ま、いっか。んじゃ俺は受付さんに教えてもらった街に行くわ。またどこかで会えたらいいな。一応フレンド登録はしてあるんだしたまには連絡くれよな。じゃそゆことで」

「ちょっと! あんた最初もそうだったけど流れってものを考えなさいよ! ちょっとしたお茶目な悪戯じゃないのよ!」

「お前ホント面倒くさいテンションだよな」

「ふん! ……そこが魅力的。違う?」

「ソーデスネ」

「チッ」


 わざと拒否しやがったヘーテルに対し俺は努めて気にしておらず別になんの問題も無いとばかりに軽い調子で立ち去ろうとする。

 するとヘーテルはすぐに化けの皮を剥がし、食いかかってきた。

 やっぱりからかいがいのある子だ。

 ちょっと面倒くさいが。


 思ったことをそのまま言ってやれば不機嫌そうに鼻を鳴らすと再びキャラを戻してどや顔をかましてきた。

 適当に返しつつ再度パーティ申請を送ればヘーテルは舌打ちしながらも承諾し無事パーティにヘーテルが加入した。


「あーでも移動どうするか。一人なら考えてた手段でパッと目的地までいけたと思うけど」

「どういう手段かは概ね予想がつくからアドバイス。街と街をつなぐ転移門は冒険者カードを登録しないと使えないけどパーティを組んでいる場合は、メンバーの内誰かが登録していれば転移可能」

「ほう。ちなみに道中普通に旅したいとかそういうの無いのか?」

「私が先を目指すのはより強力な素材のため。旅とか面倒だから興味ない」


 パーティを組んだはいいが、俺の場合それはかなり移動速度が遅くなることを意味する。

 まあのんびり歩きながら街を目指すのもいいが……と考えているとヘーテルが何やら進言してきた。

 その情報にじゃあ最初に考えていた手段が使えると安心するが、そもそもこいつは普通に旅したいんじゃないか? と思ったのだがまるでそんなことはなかった。

 なぜそこまで生産が好きなのか。

 なぜそこまで生産が好きなのに基本戦闘チートなこのゲームでプレイしているのか。

 よくわからないやつである。


 まあなんにせよそういうことなら問題はないか。

 ひとまずはこの地下訓練場から出ることにしよう。


「そういえばそのキャラはいろいろ便利だとか言ってたけど、あの男と言い争っていたのもその便利なキャラを使って報酬掠め取ろうとしていたのか?」

「ちっがうわよ! あれは本当に私が守ってやった分の報酬を請求していただけ!」

「そうなのか。ちなみにどんなふうに守ってやったんだ?」


 道中ふと気になったので雑談として男と言い争っていた報酬について聞いてみる。

 彼女が言うには、別に報酬を不当に受け取ろうとしたとかではなく実際に戦闘で貢献していたとのこと。

 それにしてはあの男は一切そんな認識をしていないようだったのが気になってどう守ったのか聞いてみた。


「そんなの、あいつが戦っている間に死角から別のモンスターからの攻撃が当たりそうになってたから時を止めたうえで武器を作ってめった刺しにして即座に倒したのよ」

「なるほど……そんときになんか言ったか?」

「そりゃちゃんと守ってやったんだってことを伝えたわよ。ただ、そのまま言っても余計な亀裂を生むだけだからちゃんと配慮してね」


 彼女の説明になんとなく思い当たるフシがあったのでその後何か説明してやったのかと聞けば一応守ったのだということは伝えたらしい。

 俺はなんとなくその伝え方に問題があったのではないかと思って更に詳しく聞く


「実際になんて言ったのさ」

「ええと、『いまのは危なかった。次からはもっと周囲の動きに気をつけるべき』……だったかしら」

「やっぱキャラ作りで言ったのか……」


 そして返ってきた言葉にやはりかと納得する。

 時が動き出してから即座にキャラを作り始めたこいつのことだ。

 普段からそれは徹底しているのだろうと思ったがやはりだった。


「それで納得できるわけ無いだろう」

「え、どうしてよ?」

「だってそいつからすればその死角からの攻撃には気づいてなかったんだろ? それを時を止めた状態で倒したってならモンスターそのものが消えてるからやっぱり時が動いた後もそれを認識できない。そんなところでさっきの言葉言われてもそいつからすればなんのことかさっぱりわからんしむしろ後ろで控えていたくせに何様だとか思ってもおかしくないだろうよ」


 そう思えばあの男の対応はそれなりに紳士的だったとも言える。

 傲慢そうに見えたのは道中で何度も同じようなことを言われ続け鬱憤が溜まっていたのだろう。

 実際はモンスターの攻撃から守られていたようだがそれも認識できなければ意味を成さないし。

 まあ、でもドロップ量とかである程度察しろよって話だから完全無罪とは言えないが。

 このゲーム、パーティ組んだ時のドロップは全て仮インベントリに入り、精算時にパーティリーダーがそれぞれに振り分ける割合を変えられるようになっているのだ。

 この辺りはさっきヘーテルにパーティ申請するときに確認したので間違いない。

 だからドロップ量でいろいろ違和感を感じても良さそうなものだが、リーダーだった男はその点について気付かずただ道中の役回りとかを主観で考えてこの機能で振り分ける際に自身が八割得られるようにしたってことなんだろう。

 実際は守られていたということも気づかずに。


「……あーなるほど……うん。間違いは誰にでもあるものだから仕方ない。私も落ち着いたところでその可能性に気づき先ほどパーティを抜けるときに無報酬を選択した」

「その言われるまでもなく気づいてましたーっての無理があるからな?」


 俺の説明に目を見開いて固まり少しして何度か頷くと再びキャラを作り始めたヘーテル。

 彼女はなにやら言い訳がましいことを言うばかりか自分でも気づいていたのだと胸を張る。

 それに対して冷静に突っ込めば彼女は目をそらすのだがどうやら意見は変える気はないらしい。

 ま、それでいいならいいけどさ。


「そんなこんなでギルドの出口まで来たわけだが街を繋ぐ転移門ってどこにあるんだ?」

「大体街の中央の大広間にあるから私はそこで待ってる。オンタマは目的の街で転移門登録したら連絡して欲しい」

「りょーかい」


 そう言ってヘーテルとは一旦別行動することにしてひとまずは街へ入るときに出会った門番さんのところまで行くことをイメージ。

 イメージだけでなくマップを見て移動先を決める。

 さらに道中は人にぶつからないよう、〈次元の翼〉を使って空を飛んで行くように意識して駈け出した。


「っと」


 一瞬の暗転の後景色が様変わりして、巨人が大量に湧く平原が目に入る。

 後ろを向けば、昨日も出会った門番さんと目があった。


「ども」

「驚いたな……今のはもしかして街のほうから?」

「ええ。ちょっと外まで出ちゃいましたけど出るときに手続きって入りました?」


 挨拶しつつ場所的には門の外まで飛び出てる現状ってまずくないかと思い聞いてみる。


「まあ、完全に外まで出られると問題だったけどこうしてちゃんと止まってくれたのなら問題ないよ。どうやら冒険者カードも持っているようだしね」

「ってことは?」

「そのままどこへなりとも。ああ、どこか別の街に入るときは気をつけてくれよ? 思わず入りすぎましたとか言われても見逃すことはできないからね。これはどこの門番も同じだ」

「肝に銘じておきます」


 許された!

 けど街に入るときは気をつけないとな。

 門番さんに一礼した後マップを開く。

 そして受付さんから教えてもらった時にマップに記入された目的の街。

 その入口前に向かうことを強くイメージし能力を発動。


 距離があるからかただ移動だけだというのに数秒間暗転した視界は突然開け、頭痛が我が身を襲う。


「ぐぅぅ……! 動き自体は複雑なものはなかったようだけどやっぱり距離があれば頭痛するだけのフィードバックになるか……」

「大丈夫か?」


 頭痛に苦しみフィードバックされた情報を整理していると誰かに声を掛けられた。

 顔を上げれば鎧を来たダンディーなおっさんが居てその向こうに巨大な壁が見えた。


「大丈夫です……ここは『バラクーシュ』の街で間違いない?」

「ああ、どうやら事故などではないようだな。Sランク冒険者よ、バラクーシュへようこそ」


 まだ少し残る頭痛に顔をしかめつつ目的の街かどうか聞いてみれば間違いないらしい。

 同時にあっさりと街中へ入ることを許されたようだ。

 まあ、そこはゲームだしなと深く考える必要はないだろう。


「あっと、バラクーシュにある街を繋ぐ転移門てどこにありますかね?」

「ああ、それならこの道を真っ直ぐ行った広場にある。真っ直ぐといってもそれなりに遠いから区間転移門を使うことをおすすめするぞ」

「どうも」


 さあ、街へと行く前に尋ねればやっぱり教えてもらえ同時にマップに記入される。

 礼を一つ行ってそのマップの場所を見ながら再び能力を使って動き出し、一瞬で転移門へとたどり着く。

 突然現れた俺にプレイヤーもNPCも一瞬驚いた様子を見せるがすぐに興味をなくしたらしい。

 まあ、転移門がある時点で転移なんかありふれてるだろうからな。


 気にせず転移門へ近づけば何やらカードリーダー的なものがあったので冒険者カードを現物化してリーダーに通せば一瞬転移門が青く輝いた。

 転移門に触れてみれば移動選択先に先程まで居た街の名前が表示された。


『よし、無事転移門登録完了したぞ』

『はっ!? もう!? いくらなんでも速すぎない?』

『俺の能力を過小評価してもらっちゃ困るな』

『ホント規格外ね……了解、すぐそっちに転移するわ』


 フレンド通信でヘーテルへ連絡を入れれば酷く驚いた声が返ってきた。

 いくらなんでもここまで速いとは思っていなかったようだ。

 なお、フレンド通信は俗にいう念話であるため周囲に聞こえずその関係なのか彼女もキャラを作っていないようだ。

 これからはキャラ作りでない素直な声を聞きたいときはこちらを活用するべきかもしれない。


 それから少しして転移門から彼女が現れた。

 これで移動に関しては全く問題が無いってことが証明されたな。

 今後は彼女とパーティを組み、俺が素材を集め彼女が武器を作るという形で進めていくことになるだろう。


 さて、いい加減このゲームのプレイログも長くなってきたのでここらで思い切ってバッサリとまとめれば俺たちはこの後次々と強力なモンスターを打ち破りさらなる先へと向かった。

 その中で彼女の武器が無ければどうしようもなかった相手も数多く居て俺は彼女との出会いに何度となく感謝し、その言葉を伝えていたのだがそのたびに彼女は舞い上がりウザったらしいテンションをばら撒くのでなかなかつらいものがあった。

 まあそれを吹っ飛ばすほどに彼女とのゲーム攻略は楽しかったのだが。


 そうして俺たちはついに辿り着いた。

 この頭のおかしい世界でチート能力を手に進むプレイヤーたちの最終到達点。

 冒険の終わる場所へと。


 そしてこの場所へ辿り着いたプレイヤーはこう呼ばれるのだ。

 到達者、と。

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