ReBIRTH-Lost life,New life- 7
突然規格外認定されてもさっぱりわけが分からない俺は首をかしげていたのだが、そんな俺に対して彼女は溜息を零し、ビシィ！ と効果音が発生しそうな勢いで指をこちらに向けてきた。
「いい！？ このゲーム。確かに能力は頭おかしいしバランスもぶっ壊れているけれど、それでも簡単に無双できるわけではないの！」
「はあ、そうなんですか」
「そうなの！ で、プレイヤーは能力を作って限界を感じてよりよい能力を作ろうと試行錯誤しながら少しずつ強い能力を作っていくのよ。でもそうして試行錯誤した末にできた頭のおかしいレベルの能力でも現れるモンスターは更にその上を行くという頭のおかしいゲームなのね！」
へえ、やっぱり何度も死ぬのが前提で試行錯誤して能力を強化していくのが本来の趣旨だったんだな。
「もちろんそうした過程を経て最終的に真竜スタートするプレイヤーはたくさんいるからそれだけ強力な能力がある事自体は別に不思議じゃない。けれど新規でいきなり真竜スタートするっていうのはなかなか異常でこれまでにそれを成したのはゲームが登場した初期に現れた10人しかいなくて彼らは規格外の十人って呼ばれ、数多くの到達者の中でも一目置かれた存在なのよ！ そうして彼ら以外に新規プレイで真竜スタートするものはこれまでずっと現れなかったのだけど、そこに現れたのがあんた！ これがどれだけすごいことかわかってる！？」
「いや、うん。まあなんていうか光栄？ ですね」
「そう！ これはとても名誉なことなんだから光栄に思うといいわ！」
ヘーテルさんこのゲーム相当好きなんですね。
いやあ、すごいテンション高くてちょっと引いちゃう。
まあ、でも興味深い話ではあったな。
やはり能力作成で強い能力を得るにはかなり難しいらしい。
未プレイならどれほど強い能力にすればいいのか分からないし、他のゲームのモンスターなんかを想定したりもして結果、力不足。
既にプレイして作りなおす時でも敵は想定を上回るほどに強力だったりして一筋縄では行かずひとまずチュートリアルを真竜でスタートするのも難しいようだ。
まあ、そんな中で新規で始めた俺がその真竜スタートしたっていうのはまあ、確かに規格外といえるのかもしれないな。
「っていうか規格外の十人って？ 始める前にある程度調べたけど欠片もそんな言葉出てこなかったが」
「そりゃ私がそう呼んでいるだけだもの」
ちょっとまって。
え、すっごい常識みたいな様子で自然と言ってたけどまさかのヘーテルが作った造語？
「じゃあ一目置かれているってヘーテルが言っているだけ？」
「いえ、それは違うわ。それなりにこのゲームプレイしている人なら確かにその人たちのことを認めているはずよ」
「ふーん。ちなみになんでわざわざ規格外の十人なんて呼んでるわけ？ それこそトッププレイヤーとか上位ランカーとかでいいと思うんだけど」
「だって、そう呼んだほうがかっこいいじゃない」
「あーそっすね」
じゃあ、何だ中二病ってやつか。
まあ、別に中二病ぐらい別におかしくもないけどさ。
俺もそういうの嫌いじゃないし。
「いいえ、私のは中二病ではないわ！ この程度で中二病なんて言ってたら本気で中二病やってる人に殺されるから冗談でもやめて」
「本気で中二病やってるってなに……？ ってか今心の中読まなかったか？」
「ああもう！ そんなことはどうでもいいのよ。とにかくあんたの能力はハッキリ言って相当強力なの！ これがどういうことか分かってる！？」
「いや全然」
さっきからテンションおかしいなこいつ。
そのうちヒステリー起こさないよな？
ちょっと怖いぞ。
「そんな強力な能力を持っているあんたにはそれにふさわしい武器が必要ってことよ！ それなのに私に真竜の牙を渡しちゃって本当にそれでいいと思ってるの！？」
「ああ、うん。それはまあ問題ないと思ってるけど」
「ッ――！？ ふ、ふーん、そ、そうなんだ。つまりこの私を信用してくれると、そういうことね？」
「ああ、もちろん」
今のテンションとかともかく、性格は結構真っ直ぐなようだし、何より短剣を作っていた時の真剣な表情とか見たらそりゃまあ信じてしまうだろう。
だから彼女に真竜の牙を任せることに全く不安はない。
「ってなわけでその真竜の牙を使ってできる最高の武器を作って欲しい」
「っ！！ まさかそこまで言ってくれるなんて……！ よっし、任された！ 最高の武器を作らせてもらうわ！ とりあえずちょっと右腕出してくれる？」
「ん、こうか？」
「えいっ」
改めて武器を作ってくれないかとお願いすれば、何やら彼女は嬉しそうに震え次の瞬間には任せろと胸を叩くが、残念なことに揺れるほどのボリュームは持っていなかった。
で、なぜか右腕を出してと頼まれたので疑いなく軽く拳を握った状態で腕を前に出すと軽い声とともにいつのまにやら彼女が取り出していたフルーツナイフみたいなもので手首の辺りをごっそりと斬られた。
血が大量に流れ、その血を彼女はビーカーのような容器に入れている。
「ちょ、え！？ このタイミングでPK！？」
「何言ってんの？ 少し血をもらうだけよ。安心しなさい、この武器は相手を必ず出血状態にするけど数秒で傷が塞がるし、それどころか斬られる前以上に回復させるやつだから」
「え……ホントだ塞がった……心なしか体調も良くなった気がする」
まさかの行動にこのタイミングでPKを謀られたのかと焦ったが、そういうことではなかったようだ。
彼女が言うとおりに傷はすぐにふさがり出血多量で意識がふらつくことも無い。
むしろ斬られる前よりも幾分スッキリした感じだ。
いや、ていうか普通に頭おかしい武器作るなよ。
「よし……材料はこれでいい。では、始めますか」
そう言うと彼女は左手に真竜の牙、右手に俺の血の入った容器を持つと集中し始める。
先程も思ったがやはり生産するときの彼女の真剣な表情は凛々しく、とても美しい。
本人的には変な顔になっていると思い込んでいるようで生産している時の顔を見られるのは恥ずかしいらしいが、恥ずかしいどころか思わず見惚れてしまうものなのだからもっと自信を持てばいいのに。
彼女の表情に見惚れてそうこうしていると、真竜の牙にも変化が訪れる。
割れるでも無く、ただ牙自体が意思を持ったかのように形を変え、少し幅の広い短剣へと形を変えていく。
「おお……」
さらに容器から俺の血が蛇のように動き出し、形を変えた牙へと纏わり付いていく。
そのまま締め付けるように血の蛇が短剣に巻きつくと牙で出来た短剣の中へと浸透していく。
血が浸透していくごとに短剣は緋色に染まっていくがその鮮やかな色はまるで鮮血のようだった。
そうして完全に染まりきった瞬間、切っ先から急激に漆黒へと塗り変わっていく。
その様はまるで血が酸化して黒ずんでいくようだった。
「っ！？ 何、勝手に……ちょ、うあ！？」
「ちょっ……」
そして完成したかと思ったその瞬間。
彼女の手の中で短剣が独り出に暴れだし、その拘束から逃れるとまっすぐに俺へと向かって襲いかかってきた。
もはや切っ先が眼前に迫ったところで俺も意識を切り替えて回避した。
同時に初期装備のダガーを取り出して戦闘態勢を取りながら漆黒の短剣を睨み警戒する。
そして情報ウィンドウが表示された。
短剣？ Lv800
ってモンスター扱いじゃねえか。
「え、これは一体どうなってるのよ！？」
後ろからヘーテルの動揺した声。
最初から疑ってもいないがやはりこれは彼女の仕業というわけでもないらしい。
定番とか考えるなら牙に真竜の残滓みたいなのが残っていたとかそんな感じだろう。
というかこんな場所でモンスター発生とかやばくないか？
未だヘーテルが時を止めてるから騒ぎにはなってないけどここ、冒険者ギルドの受付前なんだが。
ヘーテルと言い争っていた男だけでなくギルドの受付さんとか関係のないプレイヤーとかいるから下手に暴れるのは得策じゃない。
かといってこのままじゃ目の前の短剣が周囲の人達に襲いかかるってことも……なんだろう、無い気がする。
なんか短剣がひたすらに俺を睨みつけているようなそんな感覚があるぞ。
よし。
ならもう賭けに出よう。
「ヘーテル、後で地下の訓練場まで来てくれ……そら俺に用があるんだろ？ だったら頑張って付いて来いよ」
そう言うとヘーテルや短剣の反応を伺うよりも前に地下の訓練場まで移動するイメージを組み立て動き出す。
すると予定通りに訓練場のど真ん中へと移動できた。
やや距離があったとはいえただ移動しただけだからフィードバックによる頭痛も無い。
そして数秒経ってから漆黒の短剣が天井を貫いて俺に襲いかかってきた。
避けると同時にカウンターするようにイメージして対処。
すると甲高い音がして弾かれる短剣が目に入るがすぐに空中で止まると再度こちらへと斬りかかってきた。
それなりに速いが反応できないわけじゃない。
能力は使うとこちらも一瞬状況を認識しないといけないので極力使わないで短剣の攻撃を避ける。
瞬間的な認識は『レジェンドオブシルバ』の戦闘強化DLCで慣れてる。
だから能力を使わなくても回避には自信があるんだ。
キツイのはこの短剣が小さいからかやたらと小回りが効くということ。
振り下ろしの斬撃を回避したかと思えばすぐさま刃が返され、横向きの斬撃が飛んで来る。
それを後ろへ回避すれば鋭い刺突が襲いかかってくるといった具合に攻撃の感覚がかなり短い。
「っぶね！ っ！」
この手数は回避だけではキツイ。
故に迎撃する必要が出てくるのだが普通にダガーを振ってちゃ受け切れない。
かといって能力を使うと状況認識の隙を付かれかねない。
なら、真竜を倒した時などのように数万もの斬撃を一度に繰り出してもいいのだが正直、それで倒したとして武器はどうなるのかとかそもそも倒せなかったら頭痛で動けなくなって絶対死ぬという不安があってあまりしたくない。
そこでふと思う。
もっと限定的に能力使えばいいんじゃね？
例えば、腕の振りだけとかさ。
「っらぁ！」
思い立ったら即実行。
振り下ろしの斬撃に対し真っ向から刃を合わせるように腕だけ高速で振るイメージを固め、動かす。
キンッと甲高い金属音がして襲いかかってきた短剣が強く弾かれた。
その際に景色が一変することもなく、ただいつの間にかダガーを振り切った体勢に変わっていることを俺は認識する。
「っし、成功！」
試みが成功したことに小さくガッツポーズ。
だが、次の瞬間耳に届いたピシッっという音に頬が引きつった。
「ウッソだろお前、このタイミングッ！？」
ちらりと手に持つダガーへ視線を向ければ、丁度真ん中ぐらいの位置に大きくヒビが入っていた。
そうして気が散ったところに弾かれた状態から復帰した短剣モンスターが襲いかかってきたので慌てて回避。
能力を使っての回避だったので瞬間的に訓練場の端まで移動したのだが、状況を認識するまえにとにかく前方へとダガーを構え、そしてその構えたダガーが完全に砕け散るのを目撃する。
それに呆然するのも一瞬、飛翔する存在に気づきしゃがんで避け、訓練所の中心部へ移動。
すぐに状況を認識し、襲いかかってきた短剣を捕捉。
能力を極力使わず再び回避していく。
既に武器は無いしいよいよ追い詰められている気がする。
いや、素手でもギルドマスターのアルバを瞬殺するほどの威力は出せるか。
むしろ衝撃が広い分武器形状の相手にはより効果的かもしれない。
そうして破壊した場合に武器がドロップする保証はないが、このままやられるよりはずっといいだろう。
「オンタマ！！ それを掴め！！！」
「ッ！」
そうして覚悟を決めてかかろうとした時に耳に届いたヘーテルの大声。
その声に俺の動きは固まりその隙を短剣モンスターは見逃さなかった。
今までの動きが嘘のような、全てをこの一瞬に掛けていたかのような速さで俺の頭を貫くように襲いかかってきたのだ。
避けられない――――
「ッ――――！！」
――――眼前に漆黒の切っ先が迫っていた。
けれどその刃はそれ以上動くことはない。
なんとか掴もうと腕だけ高速で動かした俺の右手が漆黒の短剣の柄を掴んだからだ。
不思議と掴んだ直後から短剣は暴れるのを止め、感じていた威圧感も引っ込んでいた。
俺はゆっくりとその短剣を眼前から離し、恐る恐る手に持ちながら短剣をよく見ようとすればその鑑定結果を知らせる情報ウィンドウが現れる。
〈クルセリオスの短剣〉重さ1
真なる竜の意思が宿った生きている短剣。認められたものにしかこれを扱うことはできない。
ステータスといい、こういう鑑定結果といい相変わらず不親切なゲームだと思う。
それでもどうやら無事戦闘は終わり、現時点では俺にとって最高の武器を手に入れることができたようだ。
にしても……ホントこのゲーム疲れるなあ。
