ReBIRTH-Lost life,New life- 6
「は? 生産のための能力……?」
「ええ、より正しく言うなら武器作成専門の能力なんだけど」
思わずおうむ返ししてしまったが彼女は気にもしないで自慢気に生産系能力なのだと告げてきた。
聞き間違えでは無かったようだがじゃあ今の状況はなんだ?
生産系能力をどう使えば時を止められるっていうんだ。
「いや、おかしいだろ。それでなんで時を止められるんだよ」
「ああ、そういうこと。こうして時を止めてるのは能力の副次的な効果ってやつね」
副次的な効果……?
一体どういうイメージから生産系の能力に時を止めるなんて副次効果がつくんだ?
いや、俺が最初に考えた忍者だって隠密能力に優れなおかつ素早く限定的な魔法だって使えるものにしようとしていたことを踏まえれば不可能ではないか。
だが、彼女が言うにはメインとしての能力はあくまで武器作成。
そこになぜ時を止めるなんて要素を加えようと考えたのか。
なぜそんな発想に至るのかさっぱりわからんぞ。
「ところで、あんたこそ一体なんなのよ。なぜ時を止めたのにあんたは普通に動けるの? あ、もしかして時を操っちゃう系の能力でしょ! どう、当たってるでしょう?」
「いや、全く。……そうだなこの際俺の能力の詳細教えてやるからそっちの能力も詳しく教えてくれよ」
「違ったか。で、詳細ね。別にそれぐらい構わないけど聞いてどうするんだか。まず私の能力は〈瞬間武器創造〉っていって、瞬間的に武器を作り出すことができる能力。大雑把に言えばとりあえずこんな感じの能力よ」
彼女の能力の謎をあれこれ考えていると、彼女もこちらに対して疑問を抱き、能力の推察をしてきたが素直に否定する。
どうやら彼女は能力を教えたりすることに忌避感など無いらしい。
ならばいっそこのまま能力を教えてもらえないかなと思い能力を互いに教え合わないか提案してみた。
案の定彼女はそれを嫌がるでもなく、なんで聞きたいのかとただそれだけを不思議に思った様子でつらつらと自分の能力を語り始めた。
普通、こういう時は提案した俺の方から能力を説明しないと警戒されそうなものだが彼女にそんな素振りは一切見られない。
ただ自身の能力を自慢したいだけ。
そんな感じも見えるほど活き活きと語っている。
それにしても瞬間的に武器を作り出すことができるか……そこからどう時を止めることに繋がるのだろう。
「フフ……不思議に思っているようね! 重要なのは「瞬間的に」という言葉が一体誰にとってのものなのか、ということよ!」
「誰ってそりゃまあお前の能力なんだし、お前にとってだろ?」
「そう思う? やっぱりそう思うよね? でも残念! 答えは逆で周囲の存在から見た限りでの瞬間的なのよねえ。って言っても分からないでしょうし今ここで実践してあげましょう。材料はまあ、これでいいでしょう。では、いきますよ……」
俺の反応がお気に召したのかなにやらノッてきたようでやたらテンションを上げて更に詳しく説明する彼女。
そのテンションにやや気圧されつつ、こちらの答えを待っているようなので少し考えて答えてやればこれまた憎たらしい様子で間違っていることを告げてきた。
ウザい。
でもどことなくかわいいのが余計に腹立つ。
そうして言葉を続けていった彼女は次に実践してくれるらしく、何やら黒っぽい石を取り出した。
どこか光沢を持ち、割れたと思える端の部分が酷く鋭いようなので多分黒曜石だろう。
大きさは子供の頭程度にありそれなりに大きいが、彼女は全く苦にした様子も見せずに右手だけで持っていた。
黒曜石を取り出してから何故か一切喋らなくなった彼女の様子を伺っていると何やら集中しているらしく酷く真剣な表情で黒曜石に手を翳し始めた。
その表情からは幼さもあどけなさも一切感じられない、むしろ凛々しいと感じさせるもので思わず見惚れた俺はおかしくないだろう。
そしてそんな彼女が手をかざしてしばらくすると黒曜石がまるで引き伸ばされていくように形を変え薄く鋭くなっていく。
そしてあっという間に黒曜石は短剣へと様変わりした。
出来上がったその短剣を様々な角度からこれまた真剣な眼差しで確認すると納得したように頷き、最後に革紐を巻きそれを柄にすることで完成したようだ。
それから完成した短剣を右手に持つと彼女は何やらポーズをとり始めそれまでがウソのようにあのどこかウザったらしいテンションで話し始めた。
「はい、できました! ほら、いつの間にか立派な短剣ができてるでしょ? これが瞬間的にってことなのよ!」
「いや、いつの間にかって思いっきり目の前で作業してたよね? こう、手を翳してさ。いや黒曜石が割れるでもなく独りでに形を変えていく様はすごかったし、作業も結構早かったと思うけど」
「は? ……ああああ!? そうよ、あんたは時止めても関係なく動けたじゃないの!? え、じゃあ私今、すっごい恥ずかしいことしてた? というか武器作ってるところ見られた!? ど、どうしよ……絶対変な顔してた……変な顔見られた……」
ドヤ顔ですごいでしょう? と告げてきた彼女にハッキリ作業していた姿を見たと答えれば、途端に彼女は狼狽えて一人かってに騒ぎ悶え始めた。
なんだ。
一体どうしたというんだ。
わけがわからないのでしばらくそんな悶える彼女を観察しながら落ち着くのを待つことにした。
「ええと……武器を作ること自体はそれなりに工程を踏まなくちゃいけなくて……私からすれば一つ一つ丁寧に時間をかけて作っているんだけど……それを時を止めて行うから周囲から見れば瞬間的に武器が作られたように見える……それが私の能力よ」
「なるほど、それで生産系能力なのに時を止めることができたのか。それにしてもまた珍しいタイプの能力だよな。そもそも生産系の能力をこのゲームで選ぶってのも驚きだけど、生産工程の短縮じゃなくて時を止めた状態で生産するとかなんでそんな発想になったのか……と、どうやらこの辺は聞かないほうが良さそうか」
「そうしてくれると助かります……」
それからしばらく経ってようやく落ち着いた彼女は顔を赤く染めながらも再び能力について説明を始めた。
どうやら一度説明を始めたのだからちゃんと最後までということらしい。律儀だな。
それによって彼女の能力について十分理解できたが、なかなか不思議な発想だと思う。
どうしてその発想に至ったのか気にはなるが……どうもいいたくない事情があるようで少しビクビクしていたので触れないことにした。
とにかく彼女の能力については十分に教えてもらった。
となれば今度は俺の能力についても話さねば不公平というものだ。
「じゃあ、次は俺の能力についてだな。スキル名は〈スピードマスター〉その名から分かる通りひたすらにスピードに特化した能力だ。代わりに他のものが犠牲になっているのか防具は衣服系のみ武器も重さ1以下のものしか装備できないんだけどな」
「スピード特化の能力……それがどうして時を止めても動けていられるってのよ」
「俺もよく分かってないんだなこれが。なにせ時を止められるとか初めてなわけだし。説明見てもとにかく速いとか誰も反応できないだろうとか曖昧でしかないし。だからもうこれは時が止まった世界でも動けるほどに速いってことだと納得するしかないだろうな」
彼女のした能力の説明に比べれば俺の説明は非常に簡単なものだ。
能力自体がひたすらに速いってだけの能力だし。
「ちなみに誰も反応できないっていうのはこれ俺自身も含まれるんだ」
「……? どういうこと?」
「この能力を使って移動するだろ? でも俺からすればそれは移動したとかじゃなくていつの間にか周囲の景色が変わってる……それこそ転移したとかそんな感じなんで移動中については全く認識できないんだよ」
流石にそれだけじゃダメだろうってことでより細かく話せば彼女も理解はしたのか頷きつつ、どこか納得しきれないのか眉を寄せて首を傾げる。
彼女の言いたいことは何となく分かる。
だから言われる前に答えておこう。
「それじゃあまともに動けないだろうって思うだろ? でもなんか補正があるようで、動き出す前にどう動くかイメージすればそのとおりに動くことができるから案外そうでもない。それに動いた後に高速で移動していた時の行動がフィードバックされて一応どう動いたのかとか把握できるようにはなってる」
「なるほど……」
そこで俺はなんとなく能力を使って移動できないか試してみた。
彼女の背後へと移動することをイメージし動き出す。
すると瞬間的に景色が変わり背中を向けた彼女が正面に現れる。
「――――実際に能力使うとこんな感じなんだけどどう? 少しでも反応できた?」
「えっ……後ろ? だって今目の前に……あれ、いつの間に?」
どうやら全く反応できていないらしい。
振り向きつつも思わぬ方向から声をかけられて驚きまくっている彼女の姿がそれを証明する。
いや、それにしてもあれだな。
一応時が止まったこの状態でも高速で移動は可能なのか。
すげえな〈スピードマスター〉。
どこまで速いんだよ。
「とまあ、これくらいに速いならまあ、時が止まった世界で動けても不思議はない……よな?」
「え、ええ。そう……あんたの言うとおりね、うん」
一応彼女も納得はしてくれたみたいだ。
どこか不条理のような何かを感じてはいるようだが俺にはどうすることもできん。
このゲームまだ始めて二日目だしな。
「ところでええと……そういえば名前聞いてなかったな。俺はオンタマ、君は?」
「ああ、そういえば確かに。私はヘーテルよ」
「へえ、んじゃヘーテルさん」
「さんとかいらないでしょ。所詮プレイヤー名でしかないんだし」
そのへんは結構さっぱりしてるな。
「んじゃ、ヘーテル。なんで俺たちこんな話してたんだっけ?」
「え……? さあ?」
「「……」」
沈黙。
なんで能力を互いに暴露しあってたのか二人してその原因を忘れていた。
「ちょっとまって。俺諸事情からプレイログ取ってるから……ああ、そうだったそうだった」
「え、プレイログ? まあ、いいけど結局原因はなんだったのよ」
「ああ、ヘーテルが俺の持ってた真竜の牙を盗もうとしたからだった」
取っててよかったプレイログ。
忘れていたことを思い出してひとまずすっきり!
「っ! たしかそれ違うって私いってたよね!? ただ見たかっただけだって!」
「ああ、うん。そうだったな。すまんすまん」
ちょっとからかってみたら思った以上に良い反応が返ってきて楽しい。
出会いこそあれだったがこれからも仲良くできたらちょっとうれしいと思う俺がいる。
「ってことで俺とフレンド登録しようぜ?」
「一人勝手に納得して何言ってんのよ!?」
「今ならなんと真竜の牙をダガーに加工できる権利付き!」
「私、最初見た時からいい人だなって友達になりたいなって思ってたの。これからよろしく、オンタマ」
わーお。
びっくりするほどちょろかったぞ。
冗談で言ってみたんだけどこの子どんだけ生産プレイ好きなんだよ。
ま、いいか。
それにフレンド登録ぐらいは多少気があったらすぐにするもんだしな。
「んじゃ、これ加工よろしく」
「おー! これが真竜の牙かあ……話には聞いていたけどここまで力を内包した素材今まで見たことない! やっぱり少し無理してこの街まで来てよかったあ」
フレンド登録したし、じゃあ約束の真竜の牙を武器にしてもらおうと投げ渡せばスイッチが入ったようで一気にハイテンションになった。
それにしても普通に受け取って平然としてるけどやっぱ職人には触れるのか。
それとも門番さんの言葉なただの設定でしかないとかかな。
まあ、ともかく彼女、ヘーテルの言った言葉の中に気になるものがあった。
「ん? いや、ここって俗にいう始まりの街だとか初心者の街だとか、とにかく最初に訪れる街だろ?」
「は?」
だからそれについて尋ねてみたのだが、返ってきた反応は呆れ果てたような短い返事だった。
あれ、違うのか。
「もしかしてあんた経験者とかじゃなくてプレイしてから結構日が浅い……?」
「浅いも何も昨日プレイを開始したばかりだな」
「えぇー!?」
何をそんなに驚くのだろう。
「新規プレイなのに次元の守り手で真竜が出るような能力作り出したっていうの?」
「真竜が出るようなって、能力によってチュートリアルの敵変わるのか」
「うわーその反応……そうか……新規プレイヤーだったかあ。新規で最高レベルのチュートリアルで開始ってまるで規格外の連中みたいね」
「なんだそれ」
どうやら新規プレイで真竜を相手にするチュートリアルが開始されるのは珍しいらしい。
そして同時に何やら呆れた視線を向けられて規格外認定を受けた。
一体なんだって言うのだろう。