ReBIRTH-Lost life,New life- 5
翌日、やや遅めに起きて洗濯などの雑事を済ましてから昼食を取った後、『転生』を起動しログインした。
ログインした場所は前回ログアウトした宿屋の一室だ。
まあ、これで別の場所にログインされてたら堪ったものではないが。
それにしても昨日は出てきた敵の規格外差に疲れてすたこらとログアウトしてしまったが、よくよく考えて見ればあれは失敗だったな。
プレイ時間にすればおおよそ1時間も経っていなかった。
やっぱりチュートリアルでドラゴンなんかが出てきたから俺も冷静ではなかったということなんだろう。
それと高速移動後のフィードバック。
あれで相当な運動をしたから時間もかなり過ぎたはずだと頭が錯覚していたのもあると思う。
これもフィードバックの弊害といえるな。
だからといって能力を制限する気はさらさらない。
さて、前置きも程々に今日もこのゲームの世界を冒険だ。
Sランク冒険者にふさわしい冒険をしなければ。
差し当たってこの付近に何か面白そうな場所は無いものか。
昨日、ざっと見た限りではこの街の周囲はだだっ広い平原で、巨人がひっきりなしにポップしてはプレイヤーに狩られていた。
そういえばプレイヤーはなんでわざわざこの街の周囲で狩り続けてたのだろうか。
通行税の肝集めかな?
それにしてはこう……なんていうか手こずっていた気がする。
魔法の打ち合いをしていたプレイヤーも、拳のラッシュを相殺していたプレイヤーも余裕こそ感じられたけど圧倒しているようには見えなかった。
まさかとは思うがあれが能力の限界だったりするのだろうか。
だが、そんなことあるのか?
俺なんてほとんどただ速くと念じてできた能力だがそれでも今のところ限界は感じない。
……いや、むしろそのおかげで俺の能力はかなり高いレベルになっているかもしれないな。
下手に何かと比較すること無くただただひたすらに速くと念じた。
だからこそ際限なく速く、それこそ速さを極めたと称される能力になったのではないだろうか。
例えば「ドラゴンをも倒せる力」を望んだとしたら?
おそらくドラゴンを倒せる力は手に入るだろう。
だが、その力はドラゴンよりも更に強大な敵が居た場合、通用しないかもしれない。
いや、そもそも想定したドラゴンと実際のドラゴンの強さが違えば、ドラゴンすら倒せない可能性もあるか?
想定したドラゴンがLvで言えば500Lvで、得た能力が600Lv相当の力だったとしてだ。
実際に出会ったドラゴンがLv700だったらその能力は通用しない、なんてことも出てくるのではないだろうか。
そう考えると初めは速いだけかと思った俺の能力はかなり恵まれているかもしれない。
まあ、この考察もどき自体が俺の勝手な妄想にすぎないのだからほとんど意味はないのだが。
でもそうだと思っていれば、俺は初手で素晴らしい能力を得たのだと鼻を嘘ついたピノッキオにできるのでそれでいいのだ。
てなわけで、まずは冒険者ギルドへと向かう。
少なくとも街周辺にいる巨人は既に余裕で狩れることは実証済みなので何かしら丁度いい狩場なり迷宮なりがないか聞けるだろうと期待してのことだ。
そうしてギルドへやってくるとなんだか騒がしい。
どうやら二人のプレイヤーが言い争っているようだ。
「僕がいなければあいつらを倒すこともできなかったんだ。なら僕が報酬の8割を貰うのが当然の権利……むしろ2割もそちらに渡すといっているのだから感謝してほしいな」
「私がいなければあなたは自慢の攻撃を当てる前に死んでいた。守りがあってこその結果。だから報酬は均等に分けるのが妥当」
「はあ? 僕がいつ守られたって? むしろ守ってやっていたのは僕じゃないか」
なんとなく聞き耳立てていたのだかどうやら報酬の分配で揉めているらしいが、これだけ聞くと青年側の主張は非常に自己中なものに聞こえる。
整っていながらどこか腹立たしく傲慢そうな顔をしているから余計にそう感じさせるのだ。
女プレイヤーのほうは自身も貢献したと主張しつつも報酬を過度に請求するでもなく均等分けを要求していてその主張がきれいな分だけ青年が一層悪人に見える。
どこかあどけなさを残し、やや小柄な美少女といった彼女の容姿や雰囲気がそれをさらに加速させる。
となればだ。
することは当然決まっている。
俺は言い争う二人に近づいていく。
そんな俺に気付いた二人がこちらを見て片や不機嫌そうに眉を寄せ片やどこか悲しげで同情を誘う目でこちらを見てきた。
そしてそのまま二人の間へと体を割り込ませ――
「あの、どこか手応えのあるモンスターのいる場所とか分かりませんかね? 具体的にはLv700以上のモンスターを狩りたいのですが」
「「「えっ」」」
――そのまま通り過ぎ、受付まで向かって昨日も居た美人の受付さんにそう尋ねた。
その行動にプレイヤー二名だけでなく受付さんまでもが声を漏らす。
「ちょっとあんt……んん! ……今の流れで近づいてきて無視するのはおかしい、と思う」
「なんだ、ただ受付に行きたかっただけか……」
そして背後からさらにそんな声が聞こえてきて俺のとった行動に間違いはなかったと悟る。
ちなみに前者の発言が女プレイヤーのものだ。
それまでの落ち着いて淡々と告げる不思議っ子もどきみたいな話し方から一瞬素に戻りかけてたのバレてないと思っているのか?
その後咳払いして何事もなかったかのように演技を再開するのは大したもんだけどさ。
そして青年の方は俺の行動を素直に解釈して一人納得していた。
「あの、それでさっきの質問の答えってもらえます?」
「あ、はい。あなたは昨日登録されたオンタマ様でしたか。確かランクは……なるほど。オンタマ様のランクであれば確かにここらのモンスターのLvでは手応えがないでしょうね。となるとおすすめできるのはこの街などはどうでしょうか。周辺に現れるモンスターはLv800前後、物足りなければ少々離れた場所に900Lvから1000Lvまでのモンスターが現れるダンジョンも存在しますからそちらへ挑戦するのもいいでしょう」
結局プレイヤーの事は無視したまま受付さんに声をかければさすがプロ。
すぐに再起動したかと思えばこちらのことを把握してテキパキとおすすめの街を教えてくれた。
街を紹介された時にマップに街の場所と大まかな道のりだけが記入されたのでこれなら迷うこと無く街へいくことはできるだろう。
説明を聞くかぎり真竜よりも強い奴らがうじゃうじゃいるようで楽しみであり、また少々の不安もあった。
それにこうして自然な様子でLvでモンスターの強さを分けているようなことを聞いているとやはりLvというのはモンスターの強さの指標なんだなと確信出来る。
そうなると極端な話、Lv1000の兎みたいなモンスターがいたとしたらそいつはチュートリアルで戦った真竜よりも強いのだろう。
うん。
見た目よりも情報で出たLv表示のほうを注意しておこう。
「ちなみに移動手段ってどんなのがあるの?」
「そうですね。護衛依頼を受けていただいて依頼主と同行するのが定番ですね。後は少しこの辺りでお金を稼いで騎乗モンスターを購入するというのもありです。もちろんただ歩いてもいくことも可能ですが時間もかかりますしあまりおすすめはできませんね」
なるほどなるほど。
まあよくある移動手段だよな。
「街中の移動手段で転移門あったけど街と街でもあったりしないの?」
「ありますけど一度その街に行き冒険者カードを転移門に登録しないと転移することができないのでまずは何らかの手段を用いて直接向かう必要があるのです。そうそう、この街の転移門にはカード発行時に登録してありますので、この街で転移門に登録する必要はありませんよ」
道を歩くにせよ何かに乗って行くにせよ時間がかかる。
だからゲームでの定番の移動手段はないのかと聞いてみればやっぱりあるようだ。
ただし、一度実際に行って登録しないと転移することはできないと。
これもよくある設定だから戸惑うこともない。
「あとは……これって加工できる人この街にいないかな? いるなら加工するのにお金とかどれくらいかかるのか教えてほしいんだけど」
「っ!? あんたそれどこで」
「ほう……この辺りでそれを持っているとは……そういえば昨日平原で空間の歪みが観測されたという報告がありましたね。まあ、それはさておき、加工できる人ですが残念ながら紹介できる人について心当たりはありません。もっとも我々も街の全てを把握しているわけでもないのでギルドで把握している限りでは、という注釈が付きますが」
「いや、十分だよ。ありがとう」
ついでに真竜の牙を武器に加工できる人についても来てみたがこちらは空振り。
途中、目ざとく俺の出した牙を見ていた女プレイヤーがなんか驚いた声を出していたが知ったこっちゃない。
知ったこっちゃないが、どうやらみんながみんな真竜の牙を手に入れているわけではないようだな。
真竜素材の中でも別の素材かそもそもチュートリアルで真竜と戦っていない可能性すらある。
チュートリアルで出てくる敵がランダムであってもおかしくはないからな。
そうして立ち去ろうとした時に何やら不思議な感覚があった。
なんとも形容しがたいモヤッとした感覚に一瞬眉を寄せるが、何よりも周囲の動きが止まっている事に気づき驚く。
これは時が止まってるのか?
そしてその中で唯一普通に動きこちらへと近寄ってくる人影があった。
先程からずっと俺が無視し続けていた女プレイヤーである。
どうやら目的は未だ出しっぱなしになっている真竜の牙らしい。
門番さんいわく、倒した本人か職人にしか触れられないものらしいが万が一ということもあるのでデータ化してアイテム欄へと収納する。
「っ!? 時を止めたってのにあんた、なんで動けるの!? 」
「ん、やっぱこれ止まってるのか。MMOだというのにどういう原理で時を止めるなんてことを再現してるんだろうな?」
もし、誰かが時を止めている間他のプレイヤーは動けず何も認識できないだけで、現実では普通に時間が経っているとかだったら他のプレイヤー何もしてないのにプレイ時間だけ間延びしていくという悲しいことになる。
だったら特定プレイヤーにだけ体感時間加速機能を適応しているって感じかな。
俺がこうして動けてるのは……まあ、速さを極めた能力だし時が止まった空間で動ける程に速いってことでいいんだろう。
不思議なのはそれだけ速く動いているような状態ということなのだろうにこうして普通に認識出来ているということだ。
普通に高速移動している時は何も反応できないというのに。
「もう、あんたのせいでいろいろ狂いっぱなしじゃない! どうしてくれるのよ!?」
「俺に言われてもなあ。関係ないし、せっかくのアイテムを盗まれるとか笑えないし?」
「盗まれっ!? ち、違うわよ! 私はそんな卑怯なこと絶対にしない!」
んん?
なんだろう。
驚き具合とか否定するときの力のは入り様とか見る限りは本当にそういうつもりはないっぽい。
「じゃあ……なんでだ?」
「……さっきの牙が今までに見たことのないほど強力な力を秘めていたからもっと近くで見たかったのよ」
「……はあ? 近くで見たかった? それなら別に普通に一言断ればいいだろうが」
改めてどういうつもりだったのか問うてみれば返ってきた返答はなんとも間の抜けた答えで、思わず眉を寄せつつも納得出来ないと首をふる。
「だって……」
「だって?」
「だって恥ずかしいじゃない! こんな人前でいろいろな流れも無視していきなり気になるからもっと近くで見せてほしいなんて恥ずかしくて言えるわけないでしょう!? それで時を止めてこっそり観察しようって思ったのになんであんたは動けるのよ!」
理由ショボ。
ってかそもそもなぜ見せた牙が強力な力を持っていたからといってそんなに興味を持ったんだ?
どんなにすごくてもこれはまだ現状では素材でしか無いんだが。
「で、なんでそんなに興味を持ったんだよ。結局あれはまだただの素材でしかないんだからそこまで魅力的な物とは思えないんだが」
自分で考えていても仕方ないので、思ったことをそのまま尋ねてみた。
ま、どうせ大した理由もないんだろうけど。
だが、この質問に対して返された言葉に俺は大いに驚くことになる。
「ん? そんなの私の能力が生産のための能力だからに決まってるでしょ」
何を当たり前のことをとでも言うかのように彼女はあっけらかんと、そう答えたのだった。