ReBIRTH-Lost life,New life- 4
所変わって俺はある建物内に来ていた。
辺りを見渡せば先程までとは違ってプレイヤーの姿もそれなりに見かけ、プレイヤーではなくとも戦えるものといった風貌の人ばかりだ。
そう、何を隠そう、俺は今冒険者ギルドへとやってきていた。
送転門はなんと無料で利用することができて、転移可能ポイントの中には冒険者ギルドもあったからまっすぐ転移してきたのだ。
マップで確認すれば転移した町の入口付近からここまで相当距離が離れているので普通に探してたら見つけられなかったかもしれないな。
何はともあれ、辿り着いたのだから良しとして受付へと向かって移動する。
それにしてもこの冒険者ギルド。
ちょっとしたスーパー程度には広いな。
おかげで冒険者でごった返すなんてこともないのだが建物の中で迷いかねない広さだ。
まあ、天井から案内が吊るされているから困ったら案内を見れば大丈夫そうだけど。
ともあれ、受付は転移ポイントの目の前だったので迷うこと無くたどり着いた。
受付さんは例の漏れず美人さんだった。
「ようこそ! 本日は依頼の発行ですか? それとも預け入れ資産の確認でしょうか?」
「あ、いえ冒険者への登録のために来たんですけど……ここであってます?」
「おや、もしかして今日が初めての方でしたか。転移して来られたので経験者かと思いました。ああ、冒険者登録でしたね……ええとコチラの方に記入していただいて地下1階の訓練場の前にいるハゲに渡してください」
近寄っていくと笑顔で声をかけられギルドを利用する方面について尋ねられた。
新規登録はまた別なのかと思って焦ったがどうやら登録について聞かれなかったのは転移でここまでやってきたからのようだ。
なるほど確かに初めて冒険者ギルドに来るというのに転移門を利用してくるのは珍しいかもしれないな。
なにせあの建物。
ほんとに目の前まで近寄らないとマップに情報が書き込まれなかったから気づかない人もかなり多いだろう。
そして渡された髪はじゃなくて紙はデータ化されてアイテム欄に収納され、それを選択するとホログラフィックな入力画面が浮かび上がっったのでここから入力できるようだ。
それにしても今この美人さん、ハゲとか言わなかった?
ゲームだからってあんまりな名前もあったもんだ。
「ああ、ハゲというのは頭に毛のない人のことですから渡すときにハゲさんなんて言ってはダメですかね。それと私がハゲと言っていたことも内緒にしておいてください」
「は、はあ」
名前じゃなくて只の悪口でした。
この人すっごい晴れやかな笑顔でさらりと毒を吐くのね。
戸惑いつつもその場を後にして地下1階へと向かう。
周囲のプレイヤーは一切俺に対して興味を示さない。
NPCの冒険者もやはり同じく興味が無いようでどこかへとさっさと歩いて行く。
とりあえず長椅子が並んでいるエリアへと移動して座り、先ほどもらったアイテムを選択して入力欄を開く。
必須記入項目はまさかの名前だけで、スキルとか、どのような戦闘方法を取るのかとかそういったことは任意らしい。
任意記入項目についてはギルドが仲介してパーティを探す時に使うようだ。
とりあえず名前はオンタマと入力。
スキルは……書かないでおくか。
ただ、大雑把な戦闘方針ぐらいは書いておくとしよう。
スピード重視っと。
ある意味スピード重視っていうのは俺の能力の全てを表しているようなものだがまあ気にすることでもあるまい。
さっくりと記入も終わったのでさっさと地下1階へと向かう。
天井に吊り下がった案内に従えば迷うこと無く階段を見つけ、そのまま地下1階まで降りる。
ちなみに先程まで居た場所は2階だった。どうでもいい情報だけどな。
「ええっとハ……渡せと言われた人は……あ、いっ!?」
ざっと見渡して目的の人物を探せばすぐに見つかり、そして息が詰まる。
そこにいたのは確かに受付さんが言ったようにハゲの男性だった。ツルッツルだった。
それもただのハゲではない。
逞しい腕を前で組み、仁王立ちするその肉体は鋼のように鍛えられた筋肉で覆われていて更にその肉体には無数の傷跡が残っている。
その風貌からは歴戦の戦士のような雰囲気を感じさせるのだが、それをその男自身が台無しにしている。
まず表情。
すげえ笑顔だ。
なっていったらいいのかわからないけど、それでも無理やり例えるなら突然服を脱ぎだしてマッスルポーズを取り筋肉を見せびらかして来そうな感じの笑顔をしている。
で、次に頭。
ハゲだからと馬鹿にするのかと思われるかもしれないがそうじゃない。
というかこの人絶対ハゲとか言われても怒らず笑ってくれるぞ。
なぜならこの人。
なぜか頭の上に光の球を浮かべて、ツルッツルの頭に反射させているのだ。
「おお! それを持ってここへ来たということは新しく冒険者になろうと言う者だな! そんなところで固まってないですぐにこちらへ来るのだ!」
ふとハゲの人がコチラに気づく。
そして暑苦しく手招きしてきた。
行きたくない……!
けど行かないわけにもいかず、頬の筋肉が引きつるのを感じながらハゲの人のところまで向かう。
「では記入した紙を……ふむふむ。オンタマ殿はスピード重視に戦う戦士であるか。私としては純粋なる力で戦う者の方が好みではあるが、それでも同じ戦士であることは変わりない。貴殿を冒険者へ招き入れること、盛大に歓迎しよう!」
「はあ……」
歓迎しようと言われてもこれから試験的な何かをするんじゃないのか?
わざわざ訓練場に向かわされたのだし。
「っと、名乗りが遅れたな。私は当冒険者ギルドのギルドマスター。アルバである! ギルドマスター足る私が貴殿の登録希望を受け入れたのだから既に貴殿は冒険者である!」
「っ!?」
ぎ、ギルドマスター!?
このシャイニングツルピッカ筋肉がギルドマスターだと!?
「さて、冒険者になった次に行うのは初期ランク決めだ。これから貴殿にはこの扉の先で私と戦ってもらう。案ずることはないぞ? 外では死ねば皆終わりだがこの訓練場内には特別な結界が張られていてこの中でなら死んだとしても全て元通りに蘇ることが可能だからな。躊躇なく攻めてきてくれ。貴殿が死のうと、私が殺されようと全く問題はないのでな!」
「え、別に外で死んでもデスペナがあるだけじゃ……」
「ん? ほほう、その言い草から察するに貴殿は異界からの来訪者というわけか。では、最初に告げておかねばならんな。いいか、異界からの来訪者よ、死ねばそれで終わり。これが世の理というやつなのだ。それはこの世界の住人であろうと異界からの来訪者であろうと変わらぬ宿命なのである。そのこと胸に然と刻んでおくのだ」
戦うのはいいが、何やら意味深な言葉を聞いて思わず漏れた言葉にハゲ……アルバは何かに気づいたような表情を見せ頷くと丁寧に説明をしてくれた。
この世界の住人と異界の来訪者という括りからどうにもプレイヤーは異界の来訪者という設定の上で成り立っているらしい。
わざわざそう区切ってなお、変わらぬ宿命と告げるということは……本当に死ねば終わりなのだろう。
まさか現実で死ぬわけではあるまい。
だからこの言葉の意味は――
「キャラデリート……」
「異界からの来訪者たちの多くが死に関して聞くと同じような反応をする。以前に同じことを呟いた者に言葉の意味を問うたが、その認識で間違いはないぞ。どちらにせよ命は大切にすることだ」
呟いた言葉にアルバは苦笑し、その認識で間違っていないと告げてきた。
死んだらキャラクターデリートってなぜにこういうところでハードコアな仕様なんだこのゲーム。
となると今後のプレイは死なずにどこまでいけるか確かめるっていう感じになるのかな?
まるでスコアゲーだ。
いや、思い返せばプレイヤーにはレベルがなかった。
そしてレベルアップしたっていう感じもない。
これってつまり今考えたプレイこそが最初から想定された設計ってことか。
能力を作り、その能力でどこまで到達できるかを試すゲーム。
モンスターにはLvが表記されているのはそれこそどこまで到達できたのかをわかりやすく示してくれる数値なのだろう。
そしてその設計上プレイヤーは何度もこの世界に生まれ落ち再び挑んでいく。
だからこそ「転生」なんてタイトルに入れてあるというわけか。
なるほど、なかなかおもしろそうじゃないか。
「さて、認識の齟齬も修正できたところで……ほう、いい表情だ。この話を聞いて恐れるよりも楽しみに感じるとは、貴殿はなかなか冒険者に向いているかもしれないな。では、手始めにランク決めと行こうか」
「ああ、よろしく頼むぜ」
どうやら俺は笑みを浮かべていたらしく、それを見たアルバが楽しそうに指摘してきた。
その言葉の通り、俺はこれからのプレイが楽しみでしょうがなかった。
今のところ俺の持つスピードマスターの能力の限界は見えない。
その速さでどれだけのところまで到達できるのかを考えるとワクワクしてくるのだ。
意外とすぐに限界を感じるかもしれないし、どこまでも駆け抜けることができるかもしれない。
そんな先のことをいつまでも夢想していたくなるが、ここはこらえてまずは目の前の試験に集中しなければ。
ギルドマスターのアルバとともに訓練場へと足を踏み入れ、そしてある程度離れた状態で向かい合う。
アルバがコインを取り出しそれを弾きそれが地面に落ちた瞬間、戦いは開始され同時にアルバは一切の反応を示すこと無く訓練場の端へと吹き飛び、そのまま死んだのか粒子状なりその粒子が再び集まると呆然とした様子のアルバが姿をあらわす。
そういう復活の仕方をするのね、この結界。
なんてことはない。
俺の能力は反応を許さないほどに速いのだ。
それこそ漫画とかでよく見かける「消えた!? ハッ!」なんて反応すら許さないほどに速い。
だから攻撃が当たるのは必然。
今回はとりあえず殴ってみたがどうやら速さの分だけ拳による衝撃も増すようでアルバはものすごい勢いで吹き飛んでいったというわけである。
これでこちらには反動などは返ってこないのだから不思議なものである。
今回は動き自体も至ってシンプルだったのでフィードバックによる頭痛すらなしだ。
「……まさか、今私は死んだのか? なんという強さ。この私が全く手も足も出ないどころか何が起こったのかすら理解できないとは! 素晴らしい! 貴殿は文句なしのSランクスタートだ! ああ、最初からSランクスタートの冒険者など……まあ、貴殿以外にもざっと数万人はいるが、なかなかできることではない!」
「結構多いじゃねえか」
しばらく呆然としていたアルバも次第に状況を理解したのか驚きと嬉しさを一緒くたにしたような表情を浮かべてこちらを賞賛してきた。
なぜ殺されて嬉しいのかとも思うけどギルドマスターとしては強者というのはそれだけで嬉しいものなのだろう。
そしてランクはSランクに決定。
同時にアイテム欄に冒険者カードが追加された。
ちなみにSランクは最高ランクらしいが、俺以外にも最初からSランクはかなりいるらしい。
さすがチートにあふれた世界である。
兎にも角にもひとまず俺はこの世界でSランク冒険者としてスタートすることになったのであった。
今日のところはログアウトするが、今後どこまでやれるのかはまあ、やってみないとわからないよな。
それにしても、これ一応MMOなのに他のプレイヤーと絡むことなかったな……。
これは俺がコミュ障だからか?
いや、いやいやいや。
俺はコミュ障ではない! 断じて違うぞ!
そう、このゲームチート能力で無双できるしレベルアップもしないからMMOだからといってパーティ組む必要がないからそのせいだな。
間違いない。
ま、まあ。
それはそれとしてだ。
次からは少し他のプレイヤーと情報を交換するのもいいかもしれないよね。
情報って大事だからな。
よし、次回からの目標も決まったところでさっさとログアウトするとしよう。
警告。
セーフティエリア外でログアウトしようとしています。
このままログアウトするとこの場にアバターが残り、場合によってはキャラデリートの可能性がありますがこのままログアウトしますか?
あ、はい。
もちろんしません。
そういえば街中でもPKとかできちゃう感じでしたねこのゲーム。
そもそもここ訓練場だし。
その後、ギルドマスターに断りをいれてからそそくさと冒険者ギルドを後にして宿屋へと向かい、部屋をとってから今度こそログアウトしたのだった。