ReBIRTH-Lost life,New life- 3
ひとまず相手の情報を見てみる。
真竜相手の時には気に留めていなかったがどうやらこのゲーム、鑑定はデフォルトで付いているらしい。
ギグラント Lv450
ワー、控えめなレベルですね。
じゃなくて! チュートリアル終わってもこれかよ!
まあ仕方ない。
実際問題いくらレベルが高かろうと、巨体で威圧感がすごかろうとチート能力の前には雑魚にも等しい存在だ……多分。
ただ、攻撃するとき、というかした後のフィードバックがなあ。
あの頭痛はなかなかキツイ。
ま、やるしか無いよね。
「じゃあ、いくぜっ!」
覚悟を決め、巨人の全身を斬り刻むつもりで駆け出せば真竜を相手にした時と同じように視界が暗転。
今回は斬る範囲が広かったからから真竜の時よりもわずかばかり長い暗転の後、視界が開けて正面に巨人の姿が映る。
だがその詳細を伺うよりも先に「敵」は襲ってきた。
「くぅぅッ……!」
強烈な情報のフィードバック。
その情報量は真竜のときよりも多く、その負荷に頭が痛みを訴える。
ええと……駈け出してまずは足元を斬り刻み……駆け上がって下半身を斬り刻んだ……のか。
……その後は縦横無尽に飛び回って上半身も斬り刻んだようだ。
……最後は……喉を刺し傷をつなげるようにしてダガーを何度も突き刺して攻撃を終えたらしい。
ふう、だいぶ治まってきたな。
改めて巨人の姿を確認すればやはり一見無傷に見える。
だが、巨人が動こうとしたその瞬間に、全身に裂傷が生じるとともに血に塗れていく。
喉なんかはぐるりと一周回るように傷がつけられ、首が落ちるのではないかと思わせるほどだ。
もっとも傷の深さは俺の手に持つダガー程度の深さしかないのでそれはないが。
それにしても酷い。
今更ながらこのゲーム、スプラッタ描写頑張りすぎじゃないか?
吹き出す血とか傷口とがすげえ生々しいんだけど。
そんな感想を抱く中、巨人はゆっくりと倒れ始めていた。
そのまま地響きを立てながら倒れてしばらくすると粒子状になって消え、視界の隅にある通知欄にアイテムを入手したことが表示される。
真竜と違って別途情報ウィンドウが現れないのはイベント戦ではないからか、それとも辺りに敵がいるからだろうか。
ま、気にすることではないので軽く目を通して街へと向かう。
「到着っと」
そう決めてからすぐに街へと辿り着く。
というよりは街の入口にだけど一応結界の中ではあるから安全地帯に辿り着いたことには違いない。
今度は巨人に襲われないようにさっさと動いたので道中敵に出くわすことがなかった。
というか、能力によって転移したか如きの速さで移動したので出くわすわけがない。
出くわしても相手は反応できないだろうし。
とにかくこれでようやく一息つけそうだ。
チュートリアルで真竜とかホント疲れるって。
覚悟決めて攻めに転じたら瞬殺だったけど。
で、チュートリアル終わってゲームスタートしたかと思えば巨人とか。
もっと慣らさせようよ!
精神的疲労感が半端ないですがな。
まあ、翼もあって余裕だったけど。
ん?
そういえばフィードバックされた行動の中、飛んでたな?
あの時は全身を斬り刻もうとして動いたから上半身を斬り刻むために補正が掛かったんだろうけどその時の感覚は……ああ、一応思い出せる。
その感覚に倣って見れば少しだけ身体が浮くような感覚があった。
だが結局それだけの感覚があっただけで実際には飛ぶわけでも身体が地面から完全に浮くわけでもなかった。
どうやらそう簡単にはいかないらしい。
まだまだ自分の意思で自由に飛行するのは難しそうだが、それでもスピードマスターの能力による動作中は問題なく飛べることが分かっただけマシと思うことにしよう。
何はともあれ今はこの街を散策して疲れた心を癒さねばならんな。
あと、真竜の牙を武器に加工できないかも確かめたいところだ。
防具は……どのみち衣服系しか装備できないし探さなくてもいいか。
一応エンチャントとか特殊効果のある衣服系装備もあるんだろうけど先立つものがない。
街にたどり着いた時に片手間に所持アイテムを確認していたのだが真竜の牙と巨人のドロップアイテムである肝しかもっていなかったのである。
初期のお金すらないとかなかなかハードだな。
って、いつまでも街の入口で考えてないでさっさと街に入ろう。
「街に入るなら通行証または身分証が必要だ。もし、無いのなら通行税が必要になる」
そう思って街へ入ろうとしたところで実に爽やかな青年に止められた。
どうやらこの街の門番であるらしい。
で、通行証?
あるわけない。
税?
こちとら無一文ですぜ。
「え……っと、現物払いじゃダメですかね?」
「ん? 巨人の肝か……それなら50個はないと通すことはできないぞ」
はあ?
なんだよそれ。
「ごじゅ……ちなみにこれなら?」
「おお、真竜の牙とは! これなら足りるどころかお釣りで一級品の武器が買える程だ!」
代わりに真竜の牙を出してみたが、コチラなら十分以上に足りるらしい。
だが、門番は更に話を続け始めた。
「とは言え、せっかくの牙を君も本気で渡すつもりはないのだろう? そもそも真竜から得られる素材など、倒した本人か凄腕の職人しか触ることができないから渡すつもりであっても受け取れないのだがな」
と、爽やかな笑みを浮かべつつ告げる門番さんは優しげだが、その目は譲歩は一切しないぞという意思が込められているのが分かる。
「まあ、真竜を倒せることができるのなら巨人の肝も簡単に集まるだろうから少しだけ頑張ることだな」
「あー……そうですね」
「ちなみに先ほど見ていたかぎり君は転移かあるいは目にも止まらない速さで動けるような能力を持っているようだが、街に勝手に入ろうとするのはやめておいたほうがいい。私は〈絶対検問〉という能力を持っていてね。この能力によって違法に街に潜り込んだ存在など即座に感知することができるしその存在の能力を封印することもできる。おまけに……このように瞬時に手元へ召喚することも可能なのだよ」
そうして門番さんの前に突如一人のプレイヤーが現れた。
「なっ!? ここは……街の入口!? やっべ、速く逃げ……って能力が!?」
「やれやれ、来訪者に示すには実に分かりやすい例ではあるが君にも忠告したはずだ。だというのに街の中へ潜り込もうとするなんて私の話を聞いていなかったのか? それとも信じなかったと? 全く、私の優しい忠告を疑うなんて嘆かわしいぞ。人の善意は素直に受け取るものだ」
どこか悲しげな笑みを浮かべつつ、全く笑っていない冷たい目が召喚されたプレイヤーを射抜き、さらにはいつのまにやら抜かれていた剣の切っ先が喉元へと突き立てられていて、そんな状態で淡々と説教をうけるプレイヤーの顔は蒼白だ。
門番さん、強すぎる。
剣をいつ抜いたのか本当にわからなかったぞ。
そして悟る。
絶対に逆らってはいけないのだと。
「ああ、すまないね。そちらのことを忘れていたよ。とはいえ先ほど告げた通りだ。ここを通るなら巨人の肝を50個集めてきてくれればすぐに通すから頑張って集めてきてほしい」
「は、はい。ちゃんと集めて来ます」
その門番さんがふとコチラをみてそんなことを告げてきたので、やや焦りながらも返事を返して回れ右して草原を見渡す。
門番さんが言うように巨人の肝を集めるのはまあ簡単だろう。
問題は攻撃のたびに頭痛がすると推測できることだが……よし。
頭痛は甘んじて受け入れるとして、何度も苦しむのは避けよう。
一度にまとめて倒せば頭痛の回数は少なくなるはずだ。
目を凝らせばそれなりの数の巨人がまるで他のゲームの雑魚モンスターと同じように数多くはびこっているのが分かる。
その中からプレイヤーが相手にしていない巨人を選び、複数まとめて狙い定め……行く!
これまでに無く長い暗転。
それでも10秒もかからず、視界が戻り動き出す前と同じ光景が目に映る。
「っつぅ……ッ!」
当然のごとくフィードバックによる頭痛が我が身を襲ってきた。
その情報量はこれまでの比ではなく拷問でしかない。
そんな頭痛も割りとすぐに治まるのはありがたいが、そもそも頭痛をなくして欲しいと思うのは我侭だろうか。
ただ、このフィードバックもどう動いたのか認識できるというだけでなくて、感覚を倣うことで技術などを少しずつでも身に付けることが可能なようなので一概に無くていいとは言えないのが悩みどころだ。
そもそもどうすることもできないのだから悩んだって仕方ないが。
「大丈夫か?」
「あ、ああ、いえ。ちょっと副作用で……。っと、問題なく片付いたか……肝はっと」
頭痛に苦しむ俺を心配してか門番さんが声をかけてくれたが軽く笑みを浮かべて心配ないと頭を振り、次いで草原の巨人へと視線を移せば丁度血を吹き出して倒れるところだった。
ドロップは自動入手だしどれだけ肝が手に入ったかを確かめてみれば50個を軽くオーバーして60個程の肝がアイテム欄に追加されていた。
倒したのは30体程度だから肝は1体から複数手に入るらしいな。
「50個集まったんで通行税これでいいですか?」
「おお! 数秒姿を消したかと思えばこれだけの肝を集めるだけの巨人を倒してきたのか! なかなかすごいじゃないか! もちろん通行税はそれで問題ない。この街は君の来訪を歓迎する」
その肝を取り出し門番さんへ差し出せば驚いた様子を見せながらも笑って街への来訪を歓迎してくれた。
なお、さっきからやっているアイテムのやり取りは俗にいうインベントリから直接移動して行っている。
言うなればデータでのやり取りだ。
ちゃんと現物化することもできるのだがそんなことしていたらかなり手間だろう。
こういうところはやっぱりゲーム的なままでいいなと思う。
まあ、リアルなやつでもそれはそれで好きではあるけどね。
「どうも。それじゃあ街に入らせてもらいますね」
「ああ、ゆっくりと寛いでいってくれ。それとまずは冒険者ギルドを目指すといい。そこで登録してもらえる冒険者カードが通行証や身分証代わりになるからな。それと真竜の牙を加工してくれる人を探すなら街の北側を当たるといい」
「っと、その情報はありがたいですね。是非そうしてみようとおもいます」
そうして街へ入ろうとした時に門番さんが簡単なアドバイスをくれた。
その情報は非常に助かるものでその言葉に頷き、一礼してから今度こそ俺は街の中へと入っていった。
そんな俺を待っていたのは多くの人で賑わう雑踏とそれを受け入れる数多の建屋。
道は広く、先が見えないほど伸びていて両側には3階建てに統一された建物が並ぶそのさまはどこかヨーロッパの街並みを彷彿させる。
もっともヨーロッパの街並みなど実際に見たことはないが。
それにしてもこれだけの人が居て、道は果てしなく長く続き更には幾重にも分かれ道が存在し、その先もまた道が続いているその様からこの街がどれだけ大きな街なのか思い知らされる。
というか広すぎじゃないか。
こういうゲームでの街はプレイヤーに便利な施設がいくらかと住民の住居的な家が数十件あれば良い程度だろうにこれは普通に人々の営みの一つ一つを再現したレベルの街並みだ。
っていうか実際再現しているんじゃないかこれ。
人々は何やらそれぞれ目的にそって行動しているようにも見える。
そうして人の流れを追っていると多くの人が入っていくが、出てくる人は一切いない建物があった。
さらにその向かいの建物は逆に人が入った様子もないのにひたすら中から出てくる建物があり、ここまで作りこまれている中でその建物は異彩を放っていた。
興味を持って近づいてみるとマップにその建物に関する情報が表示される。
このマップはゲームにデフォルトで備わっていて、自分が行動した分だけ書き込まれるようになっているようだ。
そうして表示された説明によると人々が入っていく建物は区間移動送転門と呼ばれ、人々が出てくる建物は区間移動受転門と呼ばれるらしい。
名前から察するにそれぞれ別の場所へ転移する門と、別の場所から転移してくる門と別れて設置してあるのだろう。
人々が気軽な様子で利用しているのを見ると、どうやら移動手段としてそう珍しいものでもないらしい。
このまま宛もなく冒険者ギルドを探すよりもずっといいだろうということで俺も利用させてもらうことにしよう。
まあ、お金がないのなら無理ですとか言われるオチが見えるけどな!