The Endless War 3
しばらくダクト内を音を立てないよう慎重に進んでいるとロッカールームのような場所の前まで辿り着いた。
道中要所要所でダクトを通れないようにする鉄柵があったのだが、工兵にここまで潜入された時点でただの鉄柵なんぞなんの障害にもならない。
糸ようじを小さめの懐中電灯ほどに大きくしたような造形の特殊なワイヤーを使用した電動糸鋸によってあっという間に切断し突破である。
この電動糸鋸による音は極小で、一応ダクトから把握できる範囲で敵兵士がそばに居ないことを確認しての事なのでバレてない。
バレてたら今頃ダクトごと蜂の巣だからな。
で、今いる場所だがやはりロッカールームでいいようだ。
ということは……あったあった。
敵軍の制服、いいものを見つけたな。
これで基地内を堂々と歩けるとまでは言わないが、ある程度敵の目を欺けるだろう。
もちろん傍で確認されたらアウトだろうが遠目で見られる分にはそれなりに効果があるはずだ。
早速着用する。
ちなみに元々着ていたものは内側に着たままだ。
まあ、潜入任務ということで狭い場所に入ることもあるからと結構身体にピッチリとした迷彩服だったから余裕だ。
ゴワゴワとすることもない。
嘘です。
結構ゴワゴワするし、暑い。
見た目は不自然に膨らんでるってことはないんだけど着心地は最悪でした。
まあ、それは置いておいて着替えたら一旦外した装備を改めて装備し直す。
さすがに装備を含めると結構辛いし、何より補給基地内でこの武装具合は目立ちそうなものだが、そこはそれ、この世界がVRゲームであることを加味すれば不自然でもない。
プレイヤーであれば補給基地の中だろうとフル装備で動くことは珍しくもなく、NPCもそのことに対して違和感を抱くことも無いのだ。
まあ、カモフラージュ効果がいくらか下がるのは確かではあるが。
さて、ここからは基地内のちゃんとした通路を進む。
できれば監視カメラを統制している場所を制圧したいがそううまくはいかないだろう。
兎にも角にもここから出るためロッカールームの出口の扉に忍び寄りドアに耳を当てて音を探る。
……人の気配はなし。
今度は床に耳を当ててしばらく耳を澄ますが……こちらに近づいてくる足音は確認できない。
扉をゆっくり開け、少しだけ開いた隙間から小さな鏡の付いた棒を伸ばし通路の様子を確認。
「この付近には監視カメラは無いようだな」
そうなるとこの辺りに重要な区域も無いということになるので嬉しくもあり、面倒でもある。
が、まあこの場合はラッキーだということにしておこう。
鏡をしまい、一度改めて自身の格好を確認してから扉をゆっくりと開けて通路へと出る。
通路は左右に伸びていて、どちらもある程度伸びた先で丁字路を描いているようだ。
ここで悩んでいても仕方がないので左側へ進む。
一応左を選んだ理由はある。
この辺りにはロッカールームが幾つか併設されているようなのだがその部屋のドアノブが全て左側を向いているのだ。
着替えた後扉を開けたらどちらに動きやすいかと考えれば左側となる。
つまりその先に警備上重要な場所があるのではないかというこじつけだ。
他にもダクトを通ってきた時の感覚から右側はおそらく入り口側だろうっていうちゃんとした根拠もある。
ってことでサクッと左側の丁字路まで辿り着く。
FPS特有のあの動き……はすること無く片方の壁に張り付きつつサイレンサー付きハンドガンを構えながら慎重に進み、壁に背を向けた状態で右正面に見える通路の先を伺い敵の姿が見えないことを確認する。
続いて端まで向かうと、鏡を取り出し女子のスカートを下から覗き見るかのごとく床スレスレのところから差し出して反対側へ続く通路も確認する。
一応音でいないだろうことは察しがついていたが、既に潜入がバレていて捜索段階に入ってる可能性を考えるとこれぐらい慎重でいいだろう。
で、再びどちらへ進むか選ぶのだが……まあ、右に行くか。
ドアノブ相変わらず左側にあるけれど、ぶっちゃけあのこじつけ自分でも信じてないし。
とりあえず入り口から最も遠いところ目指して行こうと思う。
物資搬入路が見つかれば面倒が減るんだがそれまでは入り口の方向だけ覚えておいて後は勘で進むしか無い。
そうしてしばらく通路を歩き、分かれ道を左に進んだ後はしばらくまっすぐ進んでいった。
そしてすぐに行き止まりにぶつかった。
うむ。
どう考えても進むべき方向を間違えたな。
この通路の最奥の部屋の扉を開けてみるがそこは掃除道具用の物置でしかなかった。
きた道を戻り、道中の扉を開けても見たが、シャワー室や娯楽部屋だ。
この状況……あまりよろしくない。
どう見てもこの一角は休息中の兵士たちの生活圏。
今は先程の陽動で鳴り響いたアラームにより、警戒のため出払っているようだが、いつ戻ってくるかわかったものじゃない。
ちょっと急いで道を戻り、別の道へ進むことにした。
急いでと言っても小走り程度だ。
じゃないと近寄ってくる足音を察知できないからな。
そしてそれが功を奏してか、通路の先から複数の足音を聞き取ることができた。
しかし、聞き取れたとはいえまずいな。
周囲にあるのはロッカールームとベッドの並ぶ部屋。
どこに入っても一応の警戒を終えた敵軍が入ってくる可能性がある。
が、どうやら隠れるしか無いようだ。
聞き取った足音はもうそれなりに近い場所まで来ていた。
この距離まで気づけなかったのも情けないが、とにかく近くのロッカールームの扉を開けて入り込んだ。
扉の向こうから足音が聞こえる。
警戒し、何かを探しているようではなく警戒から帰ってきただけのようだ。
その最中、全く会話をしていないことからやってきた兵士たちは全員NPCであると推測できる。
足音が近づいてきたことでその人数もそれなりに高い精度で3人か4人ぐらいだろうと判別できた。
さすがに装備の状況までは分からないが、ロッカールームやベッドのあった部屋など見たかぎり武器を置いておく場所はなかった。
警戒から帰ってきてこれから休むというのであれば非武装かハンドガン程度の武装の可能性は高いがその可能性に賭けるにはリスクが高いのでやはりこのまま隠れ続ける。
「……っ!」
と、次の瞬間ドアノブが下がり開く扉に小さく息が漏れた。
幸い扉を開く音でそれは聞かれなかったようだが、次に部屋の電気が点けられるとその兵士たちはロッカールームへと入ってきた。
扉は押しても引いても開くタイプであり、兵士たちは押して入ってきたので俺はドアの影に隠れて最初に入ってきた兵士の背を見ることができた。
どうにも警戒している様子はないから基地内に潜入されてるとは思っていないようだ。
続いて二人目が入ってきてそいつも奥へと進む。
どちらも腰にハンドガンがあるだけの軽装備。
また、この時点で外の足音は後一人分しか無いと確信出来たので俺は少し扉から距離を取りハンドガンを二番目に入ってきた兵士へと向け構えつつ扉の方へ注意を向ける。
「がっ!?」
「どうしっ!?」
「ぐ……!」
そして三人目が入ってくると同時に扉に左手をかけたのを見て、その扉に思いっきり右足で前蹴りをして扉と壁との間に三人目を挟み込み無力化。
その音に振り向こうとしていた二人の内、二番目に入ってきた兵士へと二発撃ちこみ、その結果を確認すること無く未だ状況の飲み込めていない最初に入ってきた兵士へと狙いを定め、その頭を撃ち抜いた。
それから振り返り、もう一度扉を蹴ることで挟まれていた兵士へと追撃をあたえて怯ませ、動きの鈍ったところで頭に弾丸をお見舞いする。
警戒して部屋を見渡し、様子を伺うがどの兵士も起き上がることもなければ声を上げることもない。
無事制圧できたらしい。
「ふう……うまく行ったな」
とりあえず扉に挟まれていた男を室内へと運んでからホッと息を吐く。
最初に銃撃した兵士を見れば胸に一発、頭に一発当たったようだ。
さすが俺!
自画自賛もほどほどに、この死体をどうするか考える。
ロッカーに隠す?
まあ、ありといえばありだが床とかもう血で汚れまくってるからなあ。
血痕拭う時間も無いし。
となるとこれをロッカーに隠しても見つかるのは時間の問題。
別の兵士がどれ位のタイミングで来るか分かったもんじゃないから短時間でできること……。
となるとやっぱり得意なものだよね。
C8爆薬を少量削り、成形する。
大体携帯電話ぐらいの大きさになったこれを死体を一体選び、その身体の下に隠す。
信管を刺して重みがかかっている間は起爆しないように慎重に調整する。
よし。
これでブービートラップの完成だ。
やってきた兵士が死体を動かしたその瞬間。
この部屋ぐらいならまとめて吹き飛ばす爆発が起きるだろう。
同時にそれは陽動になるという一石二鳥。
ただしその後基地内の警戒レベルは最高レベルになるだろうけどな。
もはや敵兵士を処理してしまった以上警戒レベルが上がるのは必然。
なら、せめて派手に行こうじゃないか。
それからしばらく経った。
あの遭遇戦以降は敵に見つかることも無いまま順調に進むことができた。
同時にいくつかの物資保管庫を見つけ破壊に十分なC8爆薬を仕掛けてある。
今は、やたら厳重に守られている一画への潜入を試みているのだが、ふと地震が起きたかのような小さな揺れを感じた。
数秒後には小さな爆発音が聞こえ、ブービートラップが作動したことを悟る。
ジリリリリと基地内がアラームによって一気に騒がしくなった。
ここらを守っていた兵士たちも通信を受けているようでそのまま数人でも移動してくれないかと期待したが、その場から動くことはなく先程よりも細かく周囲を伺い警戒を強めた様子だ。
残念ではあるが、その行動が余計にその先に何か重要なものがあると教えてくれる。
悪いことばかりではないのだ。
では突破させていただくとしよう。
「っ!」
「エネミー!」
「銃撃だ!」
ひとまずは今身を隠している場所から狙えるだけの電灯を撃ちぬいて暗闇を作る。
当然兵士にバレるがそのかわり姿を捉えられ辛くなる。
それから未だ持っていたスリングで崖でやったようにピンポン球大のC8爆薬を投擲して爆破した。
それにより兵士二名が吹き飛ぶと共に爆発による衝撃波で更に電灯が壊れ暗闇が基地を侵食する。
俺は爆発したのを確認してすぐ走りだしており、ギリギリ爆破の影響範囲外に居た兵士へとサブマシンガンを掃射して兵士を倒すとその兵士からアサルトライフルを奪い取り更に先へと走り進む。
それから角近くまで行くと後ろを振り向いてまるでそこに敵がイルカのように三点バーストで弾をばらまきながら後退し曲がり角へと身体を隠す。
まるで警備していたところを襲撃されギリギリで逃げたかのように。
そしてそんな俺を見つけこちらへと向かってくる兵士が五人、目に写った。
「おいこっちだ! いきなりグレネードで吹き飛ばされた上に電灯が壊れて真っ暗なんだ! 手伝ってくれ!」
そう叫び手招きしてから真っ暗な通路へと数発撃って牽制しているかのように演技する。
騙されてくれるだろうか?
「分かった! 援護する! お前ら、急げ!」
「「「「了解!」」」」
掛かった!
これがプレイヤーならフレンドリーファイアがないのでとりあえず一発撃ってくるところだがNPCだとうまくすればこうやって騙せるのが面白いところだ。
「助かった……クソっ弾切れか。っとマガジンは落としちまったか……」
「ほら、これ使えよ」
「おう、助かる。リロードするからその間ここを頼む」
「ああ、任せろ」
弾がないことを訴えればこの部隊の隊長と思わしき男が弾を譲ってくれた。
それを受け取りつつ壁際を譲りやや後ろへと下がりながらリロードを行う。
その間NPCは暗闇にいる敵を牽制するために律儀に弾幕を張っている。
その敵が背後にいるというにだ。
「リロードはできたか?」
「ああ」
「よし、ならこっちから追い詰める。お前も来い。一時的にお前は俺の部下だ」
リロードを終えたところでこちらを向いた隊長が、こちらから打って出ると告げてきた。
俺はそれに頷き、隊の一番後ろに付き、しゃがむ。
「よし3で出て弾を適度にばらまきながら進むぞ。1……2ッが!?」
「「「「ぐあっ!?」」」」
隊長の声に集中して通路に飛び出そうとしている五人の背後についた俺はその背中へと銃を向けてフルオートで弾をばらまいた。
突然背後から受けた銃撃に誰一人まともに反応することなどできず苦渋の声を上げ、絶命していった。
「よし、クリアっと。先へ進むか」
正々堂々なんて糞食らえな戦法で兵士たちを制圧できたばかりかこのへんにいた警備を一掃できた。
この先に一体何があるのか見せてもらいましょう。
その前に隊長っぽかった人の死体を探る。
「カードキー発見。これはこの先で使えるのかな?」
そう隊長に聞いてみても当然答えが帰ってくることは無く、数秒カードキーを眺めてからそれを懐にしまった。
そして警備が厳重だったその先へと足を進める。
しばらく歩くとかなり重厚そうな扉が姿を表した。
傍にはカードを差し入れる機械があったので先ほど手に入れたカードキーを差し込めばその扉がゆっくりと開いていった。
「パスワード入力は無くて助かったぜ」
もしパスワードがあった場合は爆薬によるブリーチしかなかったがそろそろC8爆薬の在庫も少なくなってきていてここで使うと肝心の中身を破壊できるかどうか怪しかったから大助かりだ。
そしてついに厳重に守られていたものの正体が俺の目に晒された。
そこにあったのは基地の心臓とも言える設備だった。
それは基地の設備を動かすためには必要不可欠である電力をいっぺんに賄う巨大な発電機であった。
「まさかこの規模の発電機を崖の中に備えてるとは……驚いたな」
軍事基地内に発電機があるのは珍しい話でもないがこの崖中に作られた基地の奥に設置されてるとは思わなかった。
どうやって作ったのか非常に謎だ。
それにこの規模だと相当な発電量になるはずだが、もしかしてこの基地エネルギー兵器まで補給してるのか?
考えてみれば崖中の規模を考えればかなり大規模な基地だしその可能性も十分にあるな。
おそらくこの付近の戦場ではエネルギー兵器が広く使われていただろうから味方はさぞ苦しんだだろうな。
ってことはだ。
これは是が非でも壊しておきたい代物だな。
戦況を変える意味でも報酬の上乗せという意味でも。
これ以上他に重要なものがあるかどうか調べる時間もないし、確実に破壊できるよう残った爆薬全部これ壊すのに使ってしまおう。
要所要所に設置して、信管取り付けて完了だ。