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VRゲームで遊ぼう  作者: イントレット
The Endless War(リアル系FPS)
10/72

The Endless War 2

 さて、目が覚めればそこは変わらず鬱蒼としたジャングルの中。

 どうやら無事、殺されること無く眠ることができたようだ。


 時刻を確認すれば正午。

 これならだいたい敵基地へ辿り着くのは日没頃になるから時間調整は完璧だな。

 ちなみに本当にこのゲーム内で寝ていた。

 ログアウトしたとかそういうわけでは無く本当に寝たのだ。


 大体六時間ぐらい寝ていたかな?

 このゲームを起動してからの連続プレイ時間は二日と六時間ってところだ。

 それだけの時間、俺はこのゲーム世界でジャングルの中行進していたのである。

 ゲームをプレイするためだけに、リアルの身体は今点滴によってエネルギー補給されているから大丈夫だ。




 まあ当然嘘なのだが。

 いや、ゲーム内で二日と六時間連続でプレイしているのは事実だが、リアルの身体は点滴生活なんてそんなことしているはずがない。

 このプレイ時間はこのゲームでは常識内といえる。

 なぜならこのゲームには体感時間加速機能タイムアクセラレーターが備わっているからだ。

 まあ大体これぐらいのメジャーかつ大規模なゲームには搭載されているのでだからどうしたって話だろうけどな。


 話を戻してこのゲームの加速倍率は12倍、つまりゲーム世界では1日経っても現実では2時間程度しか経っていない。

 そこから換算すると俺は4時間と30分ばかりゲーム世界にいるわけだがまあ、これぐらいは普通だな。

 ちなみにログアウトすればわざわざ6時間寝る必要無いのではと思うかもしれないが、セーフティエリア外でログアウトしても疲労度は回復しないし、再ログインした時には最後によったセーフティエリアへと強制的に飛ばされるのでそんなことできるわけがない。


 そんなことで体感約50時間を無駄にしたくはない。

 約50時間鬱蒼としたジャングルの中を歩いたことを無駄にしたくない。

 まあ、ゲームだから別に辛くないし、案外面白いんだけどね。

 ジャングル踏破って。


 ってことで先へと進むことにしよう。

 鬱蒼としたジャングルの中を目的地目指して楽しい楽しい遠足の再開だ!




 前言撤回。

 ジャングル踏破は糞である。

 誰だよゲームだから辛くないとか言ってたの。

 辛くないわけがない。

 無駄に高クオリティな設定にしやがってクソが。

 枝が掠って痛いし、葉が当たれば痒いし、足が思いっきり泥にハマって重いしホント糞だよ。

 つらすぎるってこんなの。

 しかも周り見れば木、木、木、木、木、木!

 木ばっかだよ。

 いい加減見飽きたっつの。


 あと、暑い!

 日本の性格の悪い夏の暑さを更に酷くした感じのジメッとした蒸し暑さが俺を歓迎してくれてる。

 その蒸し暑さの中、やたらと顔に虫が飛んでくるの。


 なんでこんなちっちゃい虫に当たり判定とか用意してんだよ。

 リソースの無駄だろうが。

 もう、そんな部分ぐらい高クオリティ保たなくてもいいじゃないか。


「つか、任務終わったらマジあいつ殴ろう。今こうしてジャングル歩いてるのもあいつの考えた作戦のせいだし。そりゃ報酬とかもろもろ見てその作戦遂行依頼を受けたのは俺だけど、どう考えても作戦を考えた奴が悪いのは明らかだ。何もかもあいつが悪い!」


 長い孤独とジャングルのもたらす不快さに独り言が漏れた。

 まあ、こんな鬱蒼としたジャングルの中を巡回する奴なんて居ないだろうし平気だ。

 ジャングル環境ってのは結構うるさいからな。


 とりあえず愚痴を口に出したら少しはスッキリした。

 なんだかんだで後5kmほどのところまで来てるし、もうすぐだ。

 




 その後もまあ愚痴を呟きながら歩き続けていると木々の間から見える景色がオレンジ色に光り輝き、それが眩しくて先を見通せなくなった。

 そう、ついにジャングルを踏破しその端へと辿り着いたのだ。

 葉が光を遮りまだ夕暮れ時だというのに薄暗いジャングルの中から見たその景色はあまりにも眩しくて、暖かくて、苦労が報われたのだと涙が出そうになる。


 長く暗がりの中にいたからか今にも飛び出したくなる気持ちが溢れてくるようだった。

 しかし、俺はその気持ちを何とか抑えて踏みとどまった。


 光の中から闇を見通すのは難しい。

 そしてそれは逆も然り。

 闇の中から光の中を見通すことも難しいのだ。


 その先に、光の中へと飛び出せば死ぬことになる。

 俺に残っていた理性がそれを見抜き、身体を制御してくれたのだ。

 ジャングルがなぜ唐突にも思えるほど急に途切れたのか。

 その先に木々の生える余地がないからだ。


 俺はゆっくりと一歩一歩足元を確かめるように歩いて行く。

 そしてついにジャングルの端へと立ち、強い光に目を細めながらも状況を確認する。


 正面にちょうど日が山の向こうへ沈んでいく様子がハッキリと見ることができる。

 左右を見渡しても遠い地平線をハッキリと確認することができる。

 そして眼下には今回の目的である敵の補給基地が悠々とそこに存在していた。

 そう、ジャングルが途切れたのはその先が断崖絶壁になっていたからだ。

 もしジャングルを踏破したことに安心して飛び出していれば俺は今頃ミンチになっていただろう。

 しかもここから潜入しようとしていたことが相手にばれて同じ手は通用しなくなるだろう。

 だが……。


「ようやく……ここまで辿り着いた」


 ため息を一つ吐き、少しジャングルの中に戻り木にもたれて座り込む。

 注意が足りてなければミンチになっていた。

 だが、なんとか踏みとどまりこうして無事に目標を見下ろしていられる。

 これだけでも苦労が報われたって思えるが、実のところこれまでの苦労は余興に過ぎない。

 こうして敵基地を見据えた今からこそが本番だ。

 俺の任務はジャングルを踏破することではない。

 ジャングルの先にある敵補給基地を爆破し、破壊することなのだ。


「さて本格的に潜入するのは深夜にするとして、日没までに出来る限り偵察しなければな」


 独り言をつぶやき、そのへんの木の葉をツタを使って上半身に巻きつける。

 見てくれは悪いが即席のギリスーツってな。


 そうして崖端に伏せて顔だけ出して眼下の基地の様子を伺う。


「規模は小規模なほうで……監視塔が五つ、それぞれにツーマンセルで兵士が常駐しているようだが、崖を背にしてる分コチラ側への警戒は随分薄いな」


 双眼鏡で基地の様子を確かめると崖を背に半円を描くような形で陣地が形成されていて、五つの監視塔が周囲に対して警戒している。

 崖という天然の障害からやや崖側の警戒は薄いので潜入する身としては大助かりだ。

 そして警戒しているのはNPCだけっぽいな。

 別にNPCがだからって弱いってわけでもなくむしろサボるってことがない分厄介とも言える。

 だが、プレイヤーはその状況下では想像できないこともメタ的に考えて行動することがあるのでやはりプレイヤーが防衛にいると厄介なので助かるというものだ。

 ま、敵が来るかどうかも怪しい補給基地の防衛任務など普通のプレイヤーは受けたがらないからある意味当然のことだったりするが。

 

「……で、対空砲が四つ……こんな場所にある補給基地にしては随分高性能のやつだな。これのせいで爆撃という手段を取れず俺に依頼が回ってきたのか」


 それからそれぞれの監視塔と監視塔の中ほどに固定対空砲があるのを見つけ、司令官プレイしているあいつがこんな依頼をしてきた理由を悟る。

 その対空砲は上空から飛来する物体を探知し識別コードを読み取って識別外の戦闘機及びミサイルなどを自動で迎撃する自動対空防衛システムを搭載したものだ。

 精度もかなり高くこれがあるだけで空対地攻撃のほぼ全てを無効化されてしまう。

 とりあえず最重要破壊目標は暫定的にあの対空砲に決定だな。


「それから……なるほど。規模に対して高価な対空砲だと思ったらそういうことか」


 それから基地には東西に伸びる道路が接続していて、基地内に通じる道路をたどってみるとその先は崖へと続いていた。

 正確には崖の中へと、だ。


 どうやらこの崖の中に補給基地の大半が隠されているらしい。

 出入口はそれこそ一つだけに限られ潜入するのは最難関。


 ああして崖の中に基地を作っている以上崖の崩落にも耐えられるようにしてあるだろうから崖を爆破して入り口を封鎖しても時間稼ぎにしかならず大したダメージは与えられないかもしれないな。

 これは困った。


 対空砲を破壊すれば航空戦力を送れるし、兵士を輸送することも可能なのだからそれで任務は成功といってもいいだろう。

 だが、三日近くジャングルを歩いてきた苦労はその程度では報われない。


 それに対空砲を破壊するだけで後は味方の援軍に任せる場合、味方の被害はそれなりに大きなものになる。

 そういう事情もあるのでここはやはり対空砲だけでなく基地の破壊も試みたい。


「地中にあるなら当然通気ダクトがあるはずだが……あった」


 崖の中腹辺りに不自然な穴が開いてるのを見つけた。おそらくそこが通気ダクトのはずだ。

 問題は常にそのダクトに対してサーチライトが当てられていることだな。

 さすがにその辺りは常に警戒されているってわけだ。


 うーむ、後は地下水路もどこかにありそうだが、そちらはさすがに見つけることはできない。

 探してる暇もないしここは通気ダクトから潜入するしか無いか。


 さて、サーチライトをどう切り抜けるか。

 とりあえずダクトを警戒している兵士の気を数分逸らせればいいわけだが……実は既に案がある。

 周囲にいっぱいあるツタ。

 これを使ってあるものを作るのだ。

 そんなわけで作戦も決まり、偵察も切り上げて体力を温存しながら深夜を待つことにした。


 



 その日の深夜。

 ついに行動を開始する。

 運良く曇り空のお陰で月明かりすら無い闇の中俺は近くの木ににワイヤーを結び、いつでも崖を降りれるように準備する。

 それから散々苦労して運んだC8爆薬から少量削り取りピンポン球ぐらいの大きさに成形したものを数個用意し、それぞれに信管をつないでおく。


 この大きさだとグレネード程度の威力しか出ないが別に問題はない。

 これは陽動に使うだけだからな。


 その球状のC8爆薬をツタを編みこんで作った武器――スリングへとセットする。

 グルグルと回してその遠心力を使って石などを遠くに飛ばすこのスリングは比較的簡単に作れるものでありながら、それなりの威力と射程を誇る素晴らしき武器だ。


 それをグルグルと回し、C8爆薬を遠くへと投げる。

 さすがにピンポン球ほどの大きさのものを対空砲が捉えることもなく投擲されたC8爆薬は基地上空を通過し、陣地の外側へと落ちた……はずだ。

 闇夜の中での投擲なので確かめられないが、この簡単なスリングでも崖上からの投擲という点を踏まえれば十分基地の向こう側へと届く。

 実際問題、スリングによる投擲は過去何度も行って慣れているのでほぼ間違いなく外側へと落ちたと思う。

 50m先のアルミ缶位なら8割ぐらいの確率で当てることはできるし、今回はただ遠くまで飛ばすだけだから余計に簡単な上、風も弱いしな。


 だが、何事も絶対ということはない。

 万が一陣地の中に落ちたりしてると警戒が内側に向くから勘弁して欲しいが、うまく陣地の外側に落ちたことを祈るしかないな。

 そうして祈りつつ残りのC8爆薬も投擲した。


 それから残った全てのC8爆薬を右手に持ち、口に起爆装置を咥えて崖を降りる。

 ゆっくりと降りてサーチライトに照らされている場所の少し上まで来たところで噛むことで起爆装置を起動した。


 すると基地の陣地の外側で爆発が発生し周囲に音を轟かせた。

 当然、基地は一気に厳戒態勢へと移りアラームが鳴り響くが同時に兵士は外側へと警戒を強めるはずだ。

 そしてその中には通気ダクトを監視している奴も含まれているはずだ。

 というかマジで外を警戒しててくれよ……!


 そんなハラハラするような緊張感の中俺はさらに崖を降りて、サーチライトの光を浴びる。

 銃撃は……こない!

 だがそれに安心してる暇もなく急いで降りて通気ダクトまで向かう。

 右手に持ったC8爆薬を振り子運動も使ってダクトの中へと投げ入れてからその中へと突入した。


「……ふぅ。どうやら潜入の瞬間はバレなかったようだ」


 一発も銃撃がなかったことで一応の潜入成功を悟りホッと一息。

 ただ、その代わりこの基地はしばらく敵襲に対して厳戒態勢に入るだろう。

 まだまだ難易度の高い潜入が続きそうである。


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