episode - 9 『十六女杏子は、高揚する』
果てしない青空が広がっていた、窓枠の向こうで。
退屈な授業、と、刺激のない日常。
十六女は、ひたすらにノートに目を向け、黒板に汚く書き連ねられた文字を罫線の上に均一なサイズと間隔で文字を書き写し続ける。
もうすぐ、チャイムが鳴る。と予感した。
体内時計は、刻々と時間をカウントダウンする。
5……4……3……2……1
教室に鳴り響く、チャイム。
「ああー、終わった~」
と声をあげる者に続き、一息つき始める生徒たち。
その中でぴたりと同時に黒板の文字を書き写し終わった十六女は、シャーペンをチャックの金具にフェルトでできた羊のキーホルダーがついたペン入れに入れて、ノートと教材を流れるように机の横のフックにかけたスクールバックにしまった。
昼休憩なので、教室は仲の良い者同士で机をひっつけ団欒し、昼食を始める。
十六女のスクールバッグには弁当箱というものはない。
昼間に食べることもあれば、ない日もある。基本その差は前日の夜に『何をしたか』による。
気分が高揚していると、食事は一日に一食で満足だ。
大切なのは、掃き溜めのような息の詰まるこの空間から出ること。
決して人間が嫌いなわけではない、むしろ好きなのだ――。
だが、ここまで人が密集してると、
「………………」
殴りたくなるのだ、人を。
教室を一瞥し、席から立ち上がる。内側でのた打ち回り暴れ発狂するこの衝動を、一際、ぶち殺して、その場を後にした。
廊下を歩くと、まばらに生徒たちがいる。
トイレ休憩に行ったり、別クラスの生徒たちが集まって話していたりと様々だ。
いつもなら、このまま一直線に秘密の場所へ行くところだが、少し立ち止まって、廊下の窓に歩み寄った。
今日は暑苦しさで息が詰まりそうな程の太陽が燦々と輝き、雲が少しあって、青々とした空。
退屈な日常が、続く。
そう考えるだけで、心がまた暴れ回る。抑えようとすると、心臓が締め付けられるように痛い。
死にそうだ、月並みな感想が出てきた。
すると、
「?」
一つの、視線なようなものを廊下の突き当たりで感じた。
そちらに目を向けると、十六女の瞳孔がゆっくりと開いた。
十メートル先で、こちらを強張った表情で見つめる、森川千尋を見つけた――。
脳天に電極を突き刺し、直接何万ボルトという電流を流され、無理やり開花されたような、そんな感覚。
蘇生、刺激、歓喜、狂気。
心が躍った。
そして、彼の目が強い意志を持って駆け出した時、
十六女杏子の足取りも軽やかに、進み出した。
近くの階段を駆け上がり、自らを昂奮させてくれる存在が追いかけてくる。
蘇生、歓喜、刺激、狂乱。
柄にもなくスキップなんてしてしまう。まだ追いかけてきているだろうか、嗚呼、来ている。
そう実感するだけで笑いが止まらない、頬が緩んでしまう。
ただの廊下と階段の繰り返しだ、まるでハリウッドのレッドカーペットを歩いているような高揚感。
「待て!十六女!」
背後からそんな声が飛んできたが、止まるわけがない、待つわけがない。
ここは人が多いのだ。二人っきりで楽しむなら、そう、人目のつかない場所へ。
最上階へ来た。ここは理科室や音楽室等がある移動教室専用の階だ。
そしてその階より更に上へ繋がる段数の多くない階段の、その先にある扉。
それのドアノブに手をかけ、
「先に入って、待っているわよ。森川くん」
少し声を張り上げ、そこの踊り場で息を荒げて膝に手をつく彼にそう告げた。
ガチャ、と開いたその先から漏れる陽射しと生温い風。
それを一身に受け止め、十六女はドアの奥へと消えた――。
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ご存知の方はお久しぶりです!
初めましての方は、こんにちは!
えくぼ えみです。
一年以上(!?)放置してしまいました。青春リンチ…。
いや、本当の本当に放置癖、治りませんね…。
忘れていた!わけでもなく、実は更新をしていなかった間に続きは書いておりました。
頭の中でこの小説のラストはもうだいぶ前から決まっており、それに向けて書いていたのですが何せこの二章ですらまだ序の口…。
つまりこの小説アホみたいに長いということを頭の中で話を作ってる間に思いまして、原稿用紙に書き写したら国語辞書くらいの厚さになるんじゃ…?つまりそれって話のまとめ方下手すぎでは…とネガティブになって少し気分も沈んでしばらく読み手の方に回っておりました。
最近は他の方の文章を読んでエネルギーが復帰したのと、どうせ最初っからリハビリ小説って言ってたからとりあえずちゃんと完結させようと変な開き直りで再び戻ってきました!
懲りてないなと思いつつ生温かく見守って頂けたら有難い限りです。
それでは、最後に、ここまで読んで頂きましてありがとうございました!そして、お疲れ様です。
また次話にてお会い致しましょう!\(°°\”)
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