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「臭いなら出てけ」「酷い」

この場所の風は少し冷たい。

この場所の匂いは少し鼻にくる。

いつのまにか、そんな事にも慣れて僕はいつものように、横腹を蹴って起こされる。

力加減をしてくれているのか、横腹にアザが出来たことは一度も無い。

布団をから這い上がり僕は顔を上げると、黒に近いウララーさんが仁王立ちで僕を睨んでいた。


「あー……。

おはようございます」


「おはよう」


ウララーさんは、僕から離れると僕に背を向けてテーブルの目の前に座った。

僕も布団を投げ、いそいそと隣に座る。

テレビには、どこぞの政治家がどうしたとか、今日の天気はこうだとか、くだらない話が流れている。


「質問なんですけど……。」


「なんだよ。

あと隣に座るな。

せめてもう少し離れろ」


怪訝そうな顔をされたので、少しだけ離れたところに僕は座った。


「このアパートって変わり者ばかりじゃないですか?」


「……そうだな。

ホモがいれば、オカマもいて、腹話術で話す奴も、天才も、よくわからない双子も、よくわからないあだ名をつけるバカもいるな」


「そうですね、自己中な探偵もいますしね」


さりげなくバカにされたので、僕も負けじと嫌味を言うが、対して気にしていないのかその言葉に何の反応も見られなかった。


「あぁ、でも唯一仁科家は普通だな」


「あれ?

あの二人結婚してるんですか?」


「いや……確か……明日式を挙げるらしいぞ」


「え!?

僕聞いてません!!」


ウララーさんは、僕を横目で見ると軽くあくびをした。


「俺に伝えとけば届くと思ったんじゃねぇか?」


それなら早く言って下さいよ、と言う言葉を飲み込んでウララーさんから目を逸らした。

ウララーさんと一緒に住んで分かった事があった。

基本適当で、自分にとって良い事で無い限り食いつかないクズなタイプの人だ。

ただ、それでも嫌いになれない。


「そうだ、これから結婚祝いに何か買いに行きませんか!?」


「え、なんで俺が」


「だって、結婚というのは祝い事なんですよ!!」


立ち上がってウララーさんの左腕をグイグイと両手で引っ張る。

もともと力はない方だが、人一人引っ張れないほど力がないとは……。

いや、ウララーさんが重いのか?

そんな事を考えていながら引っ張っているといきなり軽くなったもんだから、僕は後ろに転がってしまった。


「俺は買わないけど、ついていくだけならいいぞ」


「本当ですか!?」


久しぶりのお出かけに胸を弾ませる。






「というか、金あんのかよ?」


「金ですか?

ありますよ!少しだけですが」


僕がそういうと、ウララーさんが僕の尻尾を掴んできた。


「なら、家賃少しよこせよ!」


「いだだだだだだだっ!!

次回っ!次回やりますから!」


道の真ん中で大声をだすが、周りもなかなかうるさいので、人の目が気にならない。

尻尾を離されると僕は自分の尻尾の先を体の前まで伸ばしてさする。


「何買うつもりだよ」


「えーっと……うーんっと」


「考えてないんだな」


「うっ……いやいや!

考えてますよ!」


ウララーさんの目が痛い。

僕は目を逸らしながら、何かいいものを探す。

しかし、タイミングよくいいものなんて無くてこれはヤバイと思った時、花屋さんが目にはいった。


「あ!

は、花です!

花買います!!」


「花ぁ?

……まぁ、いいんじゃねぇか?」


「花好きなんですか?」


あまりにもすぐに納得されたから、逆に不安になる。


「あのなぁ……俺が花を笑顔で持ってるのを想像してみろよ」


頭の中でお花畑の中、ウララーさんが笑顔で花を持ってるのを想像する。

ウララーさんが笑うのはあまり見ないから、正直想像しにくい。


「……とても……気持ちが悪いですね」


「それを本人の前でいうのもどうかと思うが……。

まぁ、そうだろ?」


先ほどの想像をかき消すために必死に首を縦に振った。

その動作を見て、ウララーさんは肩をすくめた。

僕はそんなウララーさんを放置して、花屋へと駆け込んだ。


「凄いですよ!

綺麗な花いっぱいならんでますよ!」


「くせぇ」


喜んで見ている僕とは対照的にウララーさんは花をつまんで嫌そうな顔をしている。


「……なんか…日に日に僕の好感度下がってますよ?」


「なら、出てけ。

それか別の部屋借りろ」


「酷いっ!」


ウララーさんを置いて中に入っていったが、数秒後に僕の後ろにくっついていた。

花の種類が多くて何を選んだらいいか迷ってしまう。


「ウララーさん。

どれがいいと思いますか?」


「ん…?

あぁ……そうだな」


真面目に花の事を考えているのか別の事を考えているが、花の事を考えているふりをしているのか、キョロキョロと辺りの花を見ている。

あまりにも、返事が遅いのでもう一度聞こうとした時、ウララーさんは一輪の花を指差した。


「これでいいじゃん。

『スノードロップ』 」


「へぇ……まさかウララーさんが、こういう花を選ぶなんて」


白い花は頭を垂らして、まるで落ち込んでいるようにも見えるが以外と綺麗な花だ。





「いやー。ウララーさんも以外と花選びうまいですね。

結構綺麗な花じゃないですか」


「そうか?」


「はい。

それにしても……ニラさんたちいきなりですね」


僕の言葉に反応しないままウララーさんは、先に家に入ってしまった。

また前みたいに、鍵とチェーンをつけられたら今度こそ死んでしまうので急いで中に入る。

部屋は外よりも微かに暖かく、ちょっとだけホッと一息つけた。


「あ、ていうか僕スーツないです」


「死ね」




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