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「いやー、もうね本当にかっ(略」

カタカタと窓が風によって揺れる。

そんなにたてつけの悪い窓ではなかったはずだが、さすがに長いこと住んでいるとゆるくなるのだろうか。

今日は、十二月の第二土曜日。

つまり、家賃を払わなければならない日が来た。

茶封筒を手に持ち、寒い外に出る。


(おはよう)


「んなっ!?」


後ろから急に挨拶をされたので、驚いて後ろを振り向くと、俺より少し背の低いシーンが立っていた。


「……よぉ」


シーンの目線からして、俺が驚いた事に喜んでいるようだ。

ここに来た当初は、こいつの些細な表情の変化に気づく事が出来なかったが、一年前ぐらいからわかるようになった。


「家賃」


一言だけ発して、俺の目の前に右手を差し出した。

藍色の毛色で耳に黒の線が入った 四十代半ばの男……江子田(えごた)が無表情のまま俺に言う。


「はいはい」


心の中で悪態をつきながら、右手に持っていた茶封筒を乱暴に渡す。

江子田は、受け取ると何も言わずお札を出して数え始める。

暇つぶしにタカラを探しているとすぐに見つかった。

葉地野(はちの)と、流石兄弟と一緒に居た。

珍しいグループだ。


(彼もだいぶここに馴染んだみたいだね。

新しい住民が来るとは思わなかったけれど)


「……あぁ、俺もそんな事思わなかったよ」


シーンは、俺の方に視線を変えた。


(君はどういう心境の変化かい?)


「はぁ?」


(君がそんな事をするなんて珍しいじゃないか)


そんな事とは、恐らくタカラを家に住まわせ、同じ仕事をしている事だろう。


「別に……偶然が重なってこんなめんどくさい事になっただけだ」


(……。まぁ、いいさ)


シーンの疑い深い視線から逃れるように俺は江子田の方を見る。

俺の視線に気づいたのか。

茶封筒をバックにしまうとため息をついた。


「払えるなら滞納するな」


「しょうがねぇだろ」


「お前以外の奴は学生でも払ってるぞ」


「探偵だから、収入が不安定なんだよ」


江子田に向かって軽く舌を出すと逃げるようにタカラ達の元へと向かった。


「あ、ウララーさん」


タカラと俺以外の三人は背が結構高いためカツアゲされているような見た目になってしまう。

見下ろされると意識すると俺の中の何かが崩れそうになるため、なるべく気にしないようにしている。


「ところで、タカラと葉地野って知り合いか?」


「いや、今さっき兄者さん達に紹介されました」


「あぁ、そうか」


流石兄弟を見ると、あまり仲が良いはずでは無いが葉地野と話していた。

いや、兄者は仲が悪いわけじゃないっけな。


「じゃあ、アレは知ってるんだな」


「アレ?」


首を傾げているところを見るとどうやら知らないようだ。


「ほら、あいつホモなんだよ」


「ホっ!?」


タカラは葉地野を睨むようにして、見た。

しばらく見てから、俺の方を振り向くと眉を寄せたまま俺に質問をした。


「レモナさん見たいな人種じゃないんですか?」


「いや、あいつはオカマだけどこっちはただの男好き」


「……」


何が違うんだ、というような文字が顔に浮かんでいる。

正直俺もよくわからないが、葉地野がオカマなわけではない。


「おい、お前ら何コソコソしてんだ?

ホモか?」


「葉地野と一緒にすんなボケ」


俺はジャンプと同時に右フックを弟者の顔にしかける。

弟者は、予想もしていない攻撃に受け身を取る間も無く、顔に俺の右手がめり込む。


「え?え?

ウララーも僕と同じなの!?」


「いや、ちがっ」


「ごめんねー。

僕には市矢(いちや)さんがいるからさー」


「だから」


「僕の片思いでも、いつかは通じるっておも」


「だーーーっ!!!」


「ぎょふっ」


話を聞かない葉地野の腹部を殴る。

幸せそうに語っていた葉地野は、俺のグーパンチで地面に崩れ落ちた。


「おい……ウララー。

顔殴るなよ」


「お前が変な事言うからだろ」


「冗談だよ。冗談」


「なら、真顔で言うなよ」


弟者は、顔をさすりながら俺を睨む。

探偵という仕事をしているため、ケンカでは弟者に勝てる自身しかない。


「はぁ……。

まぁ、なんでもいいけどよ」


弟者は、わざとらしく大きなため息をついて、背筋を伸ばした。

種族という壁が悔しい。

俺は弟者たちのいる場所から離れた。

自分から近づいたが、正直に言うと葉地野は苦手だ。

別にホモだからとかそういうわけではないが、性格が合わないのだ。

ただ、それだけだ。

住人それぞれが外で話している中、江子田だけは立ち止まってその光景を眺めていた。

俺は江子田に近づき声をかけた。


「おい、おっさん」


「江子田だ」


俺の方を見向きもせず返事をする。


「質問なんだけどよ……」


その言葉に反応するようにこちらを向くと、先ほどまで無表情だった事を忘れたように嘲笑うかのような表情をした。


「なんだ?

【帰りたい】のか?」


「ちげぇよ。

あんな所どうでもいいさ」


吐き捨てるように俺は言う。

江子田は、無表情に戻らずまだニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべている。

やっぱり、こいつとも馬が合わない。


「あいつに説明したのか?」


「説明?

あぁ……」


興ざめしたのか、無表情に戻るとまた住人たちの方に視線を戻した。


「お前らがしろよ。

俺は関係ない」


「今までは説明してただろ?」


「……。

今までと、これからは違うんだよ。

くだらないことを俺に聞く暇があればまともな仕事を探せ」


はぐらかすように江子田は俺のそばを離れる。

気に入らない奴だが、このアパートの管理人だから仕方がない。

この外れ者達の住む管理人なんだから。


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