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「一人で寂しかったですよ!?」

人がせっかく気持ち良い布団の中でヌクヌクと過ごしていたのに、うるさいほど鳴るインターホンのせいで俺は布団から出なくてはならないはめになってしまった。

ドアの覗き窓から、誰が来たのか確かめるとそこには俺がこのアパートで二番目に会いたくない奴が笑顔で立っていた。

しょうがなく、カギを外したがチェーンは身の安全のため外すことはないまま、ドアを少しだけ開ける。


「なんのようだよ…」


「なんのよう?……ウララー分かって言ってんの?」


「は?なんでそのあだ名を…」


「艿菜ちゃんが、みんなに言いふらしてたんだよ?」


「……」


俺は空いている左手で頭を抱えた。

頭が痛くなる内容だ。

そいつ…新橋(しんばし)は、隙間に腕を突っ込み俺の右耳をガシリと掴んだ。


「いってぇ!!」


「チェーン外して出てきなさい」


「っなんで…いだだだだだだだだだ!!わかった!出るから!み、耳がもげる!」


俺がチェーンを外してドアをちゃんと開けると新橋は、手を離してニコリと笑う。

悪魔だこいつ…。


「はやく、行かないとタカラ君待ってるわよ」


「やっぱなぁ…つーか、腕掴むなウザい」


「あら、女の子にウザいはないわよ」


悪寒がする。

腕を組まれただけでも、吐き気が伴うのにそんな気持ち悪い言葉を出されたらそれこそ俺は、ココで倒れそうだ。

こんな姿見られたらどんな勘違いされるか…。


(あれ?ウララーさっ)


隣の号室の古田が久しぶりに俺に声をかけたと思ったら、両手に持っていたビニール袋をガシャンと地面に落とす。

声をかけたというより、腹話術なのかテレパシーなのかは不明だが、口を開けて話さない変な奴だ。


「あ」


「え?」


新橋だけが、状況を理解せずニコニコと俺の腕を掴む。

こいつ…わざとだろうか。


(……………おじゃましました)


「待て!古田!話せば、話せばわかる!」


古田は、自分の部屋にそそくさと入りカギを閉めた。

あぁ、もう最悪だ。

肩を落とす俺を気に留める事なく、新橋は俺の事を引きずるように二階に連れて行く。

二◯三号室の目の前に来ると、ドアを開けて中に入る。

部屋の中は綺麗に整理されていて、女らしい部屋だった。

匂いも、甘い匂いだった。

場に合わないようなテーブルの前に座っていたのは、タカラだった。

隣には、ビニールが置いてある。


「あっ!ウララーさん!

なんで、カギ閉めるんですか!?」


タカラの隣に座るとめっちゃ怒られた。

俺は耳をパタンと折り聞きたくないという意思表示をした。


「全く…。

夜中バイト終わって帰ってきたらウララーのドアの前で体育座りしてるのよ!?

また、ウララーが変な事して恨まれてんのかと思って霊媒師呼ぶとこだったのよ!?」


「なんだそりゃ」


新橋は、向かい側に座った。

二対一とか卑怯だ。


「まぁ、レモナさんに拾われたから助かりましたけど…」


「また変なあだ名つけたな」


「あ、ウララーさんもそれで呼んで下さいね?」


子供に言いつけるように顔の前に人差し指を出す。

俺は舌を軽く出した。

指を引っ込めると、タカラは新橋の方を見た。


「レモナさんは、大学生ですか?」


「そうよー」


気が合いそうな二人だ。

いや…タカラが人を引き寄せる感じの奴なのか…?


「レモナ…ねぇ…」


「あらっ!呼んでくれるの!?

きゃー!レモナ嬉しい!」


「あ、キモい」


「あぁん?」


俺の言葉に即座に反応して、俺の襟首を掴んだ。

レモナは、立っているが俺は座っているので中々苦しい体勢だ。


「すいませんでした」


「よろしい」


その光景を見て、タカラはニヤニヤと笑う。


「女性に負けちゃうんですかー?」


「……なら、お前一回殴られてみろよ」


首をさすりながら、タカラに言う。

レモナは、心配そうにタカラを見つめた。


「いいですよ!

このタカラ受けて見せましょう!」


「え?え?大丈夫?」


「はいっ」


レモナは、金色の髪の毛を近くにあるゴムで一つにまとめた。

やる気になったのか、耳が少しだけ動く。


「あぁ、言い忘れてたが」


レモナは、迷う事無くタカラの鳩尾を狙って右ストレートを出す。


「そいつ、男だぞ」


「ぎゃへっ!?」


タカラはその場に崩れ落ちた。

そして、うぅ、と小さな声で呻いた。


「ま、じ…ですか」


「まじまじ」


「………ガクッ」


「あ、死んだ」


「え!?嘘でしょ!

た、タカラ君!?」


タカラを揺するが目を閉じたまま動かない。

もともと目が細いので、わからないけど…。

気絶しているタカラの顔は何かやり切った顔で頭にくる。





「………うぅん…」


布団から起き上がると、タカラはキョロキョロと辺りを見回した。


「レモナさん…男だったんですか?」


「えへへー。秘密だよ!」


「……」


俺は眉間にしわを寄せた。

タカラは俺の方を見ると、緊迫したような顔で質問が始まった。


「あ、あの髪の毛は!?」


「カツラだよ」


「この部屋は!?」


「レモナの趣味だろ」


「この美人は!?」


「……」


タカラは愕然としている。

少しだけ考えるように、俯いていたが顔を上げるとニコリといつもの表情に戻る。


「レモナさんは、女装が趣味なんですか?」


「違うよ。

女の子になるんだよ。

そのために、今働いてるの」


「そうだったんですか。

なんか、長いことおじゃましてしまいましたね。

一晩お世話になりました」


ぺこりとお辞儀をする。

レモナもそれにならってお辞儀をした。


「ウララーさん。

そろそろ帰りましょう」


「帰りましょうも何も、お前の家じゃねぇし、そもそも住ませるなんて言ってな」


「ウララー?」


レモナが俺の右肩に右手を置く。

いや、正しくは骨をも折る勢いで掴む。


「了解です。

住ませます。

だから、離して下さい」


パッと手を離す。

なんか俺、こいつが来てから散々な目にあってるんだけどなぁ。


「レモナさん!ありがとうございます!」


タカラはレモナに抱きついた。

レモナは、照れたように頬を赤らめるが、タカラの頭をワシワシと撫でた。


「いえいえ。

探偵頑張ってね!」


「はいっ!」


……何か…何か友情が生まれたようだ。

外に出ると、北風が強く吹いていて、少しだけ震えた。


「寒いですねぇ」


「そろそろ、雪でも降るんだろうな」


「それまでに、お客さん来ないと僕ら死にますか?」


「寒さで死ぬな」


階段を下りながら、くだらない話をする。

しかし、本当に客が来ないと辛い冬になるだろう。

タイミング良く、来てくれねぇかな。

部屋に入ると、誰も人がいなかったので空気が冷たい。


「なんか…レモナさんの部屋みてからウララーさんの部屋を見ると…」


「言うな」


「……」




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