「静かな場所がいいな」
どうやら、二人の依頼は死に場所の提供のそうだ。
正直、そんな依頼は受けたくないけれど仕方が無い。
「よしっ!
じゃあ、行くよっ!」
「テンション高いですね」
「褒めないでよー」
顔をくしゃくしゃにして笑う。
ウララーさんが、玄関まで来たところでインターホンがなった。
「ッチ……タイミング悪りぃな。
タカラ、部屋に戻ってろ」
「あ、はい。
お二人さん、一回部屋に戻って下さい」
部屋に戻ろうとすると、玄関のドアがガコンと大きな音を立てて外れた。
「おーい。
インターホン押してんだろ」
「……。
警察が器物破損するなよ」
入ってきたのは、アヒャさんだった。
「修理費は出すって……ん?
あの二人見覚えが……」
マズイ。
これはマズイ。
誘拐と殺人犯のモラノさんと、誘拐されているしぃかさんがココにいたらかなりマズイ。
「とりあえず隠れーーー」
「あ、アヒャー!
久しぶり!」
「あぁ、アヒャ。
久しぶりだな」
「ちょっ!お前らんなところにいたのかよっ!!」
三人がきゃあきゃあと楽しく話をはじめる中、僕とウララーさんだけは全くついていけなかった。
それに気づいたモラノさんが、苦笑い気味に説明してくれた。
「あぁ、アヒャは警察だけど俺らとグルだからなんの問題もないぞ」
「そ……そうなんですか」
いきなり言われてもなぁ。
アヒャさんは、久しぶりの再会なのか凄く喜んでいるように見える。
もともとにやけ顔だからよくわかんないけど。
「ふぅ……。
お前らにあえてよかったが、たまには生存報告しろよな」
「一年前ぐらいはしょっちゅうしてたじゃないの」
「やれやれ。
じゃ、俺仕事あるから戻るな」
「あ……アヒャ!
また今度あえたらさ……一緒に飲みに行こう?」
「潰れるまでのむか」
モラノさんが笑顔で言うと、
アヒャヒャヒャ
と不思議な笑い声を出して、アヒャさんは部屋を出て行った。
空いたままのドアが寒いよ。
「……言わなくて良かったのか?」
「うん。大丈夫」
空気になっていた、ウララーさんがしぃかさんに聞く。
四人で部屋を出ると、あまりにも空いたままのドアがさみしい。
「……あんたさぁ。
なんとなくモラノに似てるなぁ、とは思ったけど、全然違かった」
「しらねぇよ」
「だって、あんた……凄いわがままじゃん。
なんていうのかな……。
エゴイズムの塊っていうのかな?」
「お前もなかなかのわがまま嬢ちゃんだぞ」
「んなぁっ!!」
あぁ……この二人…ダメなペアだ。
喧嘩というか、しぃかさんが一方的に怒っているというか。
なんというか。
後ろから二人を見てると、仲が悪いのがよくわかる。
隣を見ると、そんなしぃかさんの事を嬉しそうな顔で見ている僕より背の高いモラノさんがいる。
まるで、保護者のようだ。
僕の視線に気づいたのかモラノさんがこちらを振り向く。
「モラノさんって、心底しぃかさんが好きなんですね」
「……そりゃあ……。
牢屋から逃げ出したぐらいにな」
「そういえば、どうやって脱獄したんですか?
ニュースでは方法を教えてくれませんでしたが」
モラノさんは、右手で自分の頬をかく。
「っとな……。
こう、警官が飯を運んで来るんだよ。
そん時に、一回呼び止めて腹が痛いって言ってトイレまで一緒に行く時に飯についているスプーンで喉をこう、えぐって」
左手で実演をしてくれるが、あまりにも恐ろしくて聞いた僕がバカだったと思ってしまう。
「警官の持ってる銃もらって、あとは逃げた。
あ、真似するなよ?」
「真似出来ないですよっ!」
つい叫んでしまったが、僕には到底真似出来そうにもない。
でもやっぱり殺人鬼なんだな、とは思った。
なんの戸惑いも無く、彼女に会いに行くために人を殺すなんて。
「うわっぷ」
前を見ていなかったため、目の前にいるウララーさんにぶつかってしまった。
「ついたぞ」
目の前は廃墟と思われるマンション。
周りには人通りも少なく、絶好の場所だ。
「ありがと。
あんたも以外と役に立つのね」
「ありがとな。
ほれ」
モラノさんが、ウララーさんに札束を渡す。
ウララーさんはそれを受け取るとポッケにつめた。
「ま、頑張れ。
タカラ、行くぞ」
「へ?
あ、はい!」
僕らが二人に背を向けようとした頃には二人ともすでにマンションに向かって歩いていた。
「ウララーさん。
僕、一度孤児院戻ってお礼言ってきます」
「そうか。
じゃあ、先帰ってる」
ウララーさんに二、三枚ほどお札を渡されると僕はウララーさんとは別の方向に向かった。
「……そういえばアヒャさん。
なんで来たんだろう。
ま、いっか」
僕の呟きは、たくさんの人の声にかき消された。
消毒液の匂いが鼻に広がる。
別に嫌いじゃないけど、真っ白な廊下で見るものも特にないと匂いが気になってしまう。
「はい。ココですよ。
……本当にお嬢ちゃん一人で大丈夫?」
「うん!
ありがとう!」
病室に入ると、真っ白の部屋だった。
「……おとうひゃん…」
久しぶりに見たおとうひゃんの顔はやつれていて、昔の笑顔が想像できないほどの顔になってしまっていた。
ベッドの上に体育座りをして、何かをブツブツとつぶやいている。
正直に言うと、怖い。
「ね……おとうひゃん。
元気になったらフーとまた遊ぼう?」
おとうひゃんは返事をするわけでもなく、ただ別の場所を見ている。
「おかあひゃんも悲しむよ?」
先ほどまで何の反応も見せなかったが、おかあひゃんと言うとくるりとこちらを向いた。
どこを見つめているかわからないはずだった目は迷う事なく、フーを捉えた。
「おとうひゃ……」
喜んだのもつかの間、おとうひゃんはフーに近づいてくると、首を絞め始めた。
その場で押し倒されておとうひゃんが上に乗る形になる。
力の差はどう考えたって負けるはずなのに、苦しくて、逃げたくて暴れまわる。
「っ……!がぁ……ぁっは……!」
口の中にたまった唾液が飲み込めず口の端から落ちていく。
頭の中が真っ白になって、何も考えられなくなっていく。
「っはぁ!!………ぐっ…」
息が吸えないという事もあるが、それと同じくらい首が締められて痛みがどんどん増していって、どっちで苦しいのかわからなくなってくる。
声を出す気力もなくなった。
揺らぐ視界の中、最後に見えたのは不自然に笑ったおとうひゃんの顔だった。
最後まで見てくださった方々、本当にありがとうございました。
更新が遅れたりしてすいませんでした。




