「ちなみに俺は酒が「それこそいらない情報ですよ」
久しぶりの晴れ。
何日ぶりだろうか。
僕は教会の長椅子から十字架を眺めていた。
自分で言ってしまうのもバカらしいが僕は幼いころから、ほとんどの全ての事柄が抜群に秀でている。
「山崎ーー!」
白いティシャツを着た茶色い毛のフーがクマのぬいぐるみを大事そうに抱えて近づいてくる。
「あぁ、おはようございます。
神父様はまだ来てませんよ」
フーが隣に座る。
たいして子供が好きなわけでもないのに、この仕事はやるべきではなかっただろうか……。
「なー山崎ー。
お願いがあるんだけど……」
「なんですか?」
フーの薄青色の目が僕をとらえる。
「おとうひゃんに会いに行きたい……」
「……」
フーの目は涙ぐんでいて、今にもボロボロとこぼれていきそうだ。
それもそうだ。
捨てられたんじゃなくて、父親は精神に異常をきたしたからここに連れてこられたのだから。
「フーがもう少し大きくなったら会えますよ」
僕の言葉にフーはうつむいた。
納得いかない回答だったのだろう。
しかし、今フーがあいに行ったら流石に危険だ。
そんな事を考えていると、ギィッと扉の開く音がする。
振り向くとそこには、新橋
が立っていた。
「あぁ、新橋。
フーはもう部屋に戻りなさい」
フーは落胆したような顔で教会の奥へと歩いていく。
フーは納得していないのだろう。
新橋は、僕の隣にストンと座った。
「本当に孤児院やってるのね」
「……何の用事?」
「全く、相変わらず必要事項しか話してくれないのね。
まぁ、いいけれど」
ふぅと、ため息をついて髪の毛を手ぐしでとかす。
「私、このアパートで結構最近に入った方でしょ?」
「果たして一年前が最近に入るかどうか」
「入るのよ!
まぁ、それでね……。
もしも、自殺願望がなくなっちゃったらどうなるのかな……って」
女のもしもは大体自分に当てはめている。
という事は、新橋は自殺願望がなくなったのだろうか。
「部屋が満室だったら、出て行ってもらうと思うよ。
今は空き室が四つぐらいあるけど」
「そう……」
二人の中に無言の時間が流れる。
お互い対して仲が良いわけでもないため二人きりで話すことがあまり無いからだ。
新橋が何か話そうとした時、教会の扉がギシリと音を立てて開く。
「おや、客人ですか?」
「あ、どうも」
神父様が入ってくると、新橋は腰を上げて神父様と向き合いお辞儀をした。
「はい、こんにちは。
ごゆっくりしていって下さい」
「ありがとうございます」
時計の針はゆっくりとゆっくりと進んでいく。
この寒い中外に出る気も起きぬまま、布団の中で考え事をしていた。
そもそも、こんな場所を作ったのにはかなりの時間を費やした。
クズをこの場所に集めるのにも相当の時間がかかった。
クズを集めてどうこうしようという理由は、何一つ無いのだが、このアパートの住民全てが死んでいなくなったのなら、自身も死ぬつもりでココにいる。
のそりと布団から起き上がり、洗面台に向かい顔を洗おうとする。
鏡の奥で何かが蠢くと同時にあいつの顔が写る。
「あぁ……久しぶりだな」
若い頃にこいつは同じ姿で同じ現れ方をした。
俺は振り返る事なく、言葉を続ける。
あいつの振り上げた手を見ないようにして。
「まだ、生きてたんだな。
フォックス」
俺は手に持っていた本を床に置き、台所にいるタカラに話かける。
「おーい。
まだか?」
「まだか?じゃないですよ!
夕飯作ってあげてるんですから、感謝してください!」
「おー、感謝感謝。
で、まだ?」
台所から叫ぶような声が聞こえる。
ため息をついて、テレビをつける。
ニュースがついたまま、チャンネルを変える事なく横目でそれを見る。
「ほら、持ってきましたよ」
「お前麺類好きだな。
こないだ焼きそばで今回パスタかよ」
「ま、気にしないでください。
ちなみに僕は、味噌汁が好きですよ」
「いらない情報をありがとう」