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「酔いつぶれたな」(本当に弱いね)

ねぇ、母さん。

約束は守るから約束なんだよね。

なら、コレは約束じゃないよね。

守らない人はただの嘘つきになるんだよ。






「はい。

では、お手続き完了になります」


康介(こうすけ)今日から、ココに住むのよ」


「……母さんは?」


「……。

母さんは……。母さんはしばらくの間忙しいから。

迎えに……くるからね。

ここで新しいお友達と待っててね」






あれから十四年。

中学に入った頃から気づいた。

騙されてた事に。

二十歳をこえたら孤児院から出なくてはならないから、とりあえず会社で働いていた……が、一週間前にクビになった。

とりあえず収入がない事にはご飯も食べれない。

まだお金はたまっているが、いつ尽きるか分かり切っているからこそ、余計に焦る。


「はぁ……」


とりあえず何をするわけでも無いが、家にとどまっているとそれだけで電気代などがたまるのは困るので、外に出ることにした。

十二月にはいったばかり。

それでも体の芯から冷えてくる。


「ヤバイ。

これは確実にヤバイな」


ボソリと呟く。

孤児院には戻る事はないし、そこで働こうにも僕は孤児院が嫌いだから正直行きたくない。


「わっ」


「いでっ」


うつむいて歩いていると目の前の人にぶつかってしまった。


「えと…すいません」


「いえいえ大丈夫ですよ」


目の前の男性は、垂れ下がった眉が特徴的で情けないような笑顔を浮かべている。

なんとなく、僕と似たような気配を感じた。


「そんな暗い顔をされては、不幸が連なるだけですよ」


「え?」


丁寧な言葉使い。

優しそうな笑顔。

勝手な事を言わないで欲しいと睨んだつもりなのだが、元の顔がにやけ顔のため、睨んだように見えないのがこの顔の欠点。


「いきなり失礼な事を言ってしまい、すいませんでした。

あなたは、誰かに助けを求めた方がいいですよ」


「あ……ちょっ!」


僕が呼び止める間も無くさっさと、離れていってしまった。

本当になんなんだろう。

人通りの多いこの道は、人混みとビルのせいで空があまり見えない。

隙間から見えた僅かな空はどんよりとした曇り空だった。

ため息をついて、歩き出そうとした時だった。


「ぶえっ!?」


顔にチラシがぶつかる。

今日はこんなに風が強かっただろうか。

と、間抜けな事を考えながら顔についたチラシを剥がす。


「ん?」


『どんなお悩みも、どんな依頼も引き受けます。

アスキー荘探偵屋 104』


「……どんなお悩み……ね」


興味本位で、アスキー荘とやらに向かう事にした。

携帯のマップを使おうとしたが、不思議な事にその場所は無いし、あったとしてもただの空き地だ。

もうなくなっててもいいから、とりあえず何か目標を持って動きたかった。


「住所じゃこのへん……だよなぁ」


細い道を通って行くと、薄汚れて古びたアパートが堂々と立っていた。


「これか……」


折りたたんだチラシをポッケから取り出す。

携帯のマップに書いていないこの場所。

僕はチラシをポケットの中に詰め込むと、104号室のインターホンを押す。

もしこれで、僕の事を助けてくれるのだったら、この人にすがろう。

どんな人でも構わない。

どうせ、僕が問題を起こして困る人も悲しむ人もいないのだから。






グビグビとのどごしでたいして美味しくもないビールを飲む。

苦味が口の中に広がる。

やっぱりサワーの方が美味しい。


「くそー!

やけ酒ですよー!」


(君酔っぱらうといろいろ変わるね)


「おーい、シーンつまみー」


(材料費誰が出してると思ってるの?)


「まぁまぁ、ビール代はだしたろ」


ため息をつくと、シーンさんは冷蔵庫の中を漁り出す。

ココに来たのは果たして正解なのか、どうなのか知らないけれど、今までの人生の中で唯一楽しい時間を過ごせているんだろうな、とは思う。

僕は急激な眠気に誘われるまま机に突っ伏して、目を閉じた。



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