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泣く女

作者: 火野ナガヨ

私の心は、今日も泣き暮らしております。

今朝なども、同級のお友達と登校している小学生の男の子を見て、悲しくなってしまいました。

可哀想なことに、その子は他のお友達の荷物を持たされていたのです。小さな体に重たい荷を背負い、泣きべそをかきそうな顔で歩いていたのです。

その足取りはとても不安定でしたので、その子はやがて転んでしまいました。

私が駆け寄ろうか竣巡しておりますと、近くの八百屋さんから精悍な顔つきの男の方が飛び出してらして、その子を介抱し、そのお友達を叱りました。

それは厳しく、しかし大人として大変立派な態度でしたので、私の心はいよいよ縮こまってしまいました。

私は、私より十程も小さな子どもを諫めることすら出来ないのです。私は恥ずかしい人間です。

私はうつむいて、逃げるようにその場を去りました。


また、バスに乗りました折りにも、私は悲しい気持ちになりました。

今日のバスは大変混み合っていて、ぎゅうぎゅう詰めの満員でした。

私も座ることなど出来ず、吊革に捕まってゆらゆらと不安定に立っていました。

そして、私が乗り込んでから二つ目の停留所で、一人のお爺さんがバスに乗られました。杖をついておられる、優しそうな方でした。

無論、相変わらずバスは満員のままでしたが、席に座っておられるのは若い人達ばかりでした。だのに、その方達はお席を譲ろうともせず、知らんぷりしているのです。携帯電話に熱中する人や、他愛もないお喋りに勤む人など様々でしたが、誰ひとりお爺さんを見もしないのです。

私は申し訳ない思いでいっぱいになりました。ごめんなさい。私には、お爺さんに譲るお席が無いのです。私はその大きな無礼を、私自身の問題であるかのように恥じました。

偶然お爺さんと目が合ったのですが、お爺さんは本当に優しい目で私に笑いかけてくださいました。ああ、私は恥ずかしい。譲る席すら持たぬ、ちっぽけな人間です。私も笑い返すことが出来れば良かったのですが、泣きそうになってしまったので、きっとおかしな顔になっていたでしょう。


私は悲しい。私のような女は世界に貢献することなど出来ないのです。私は蟻のような人間です。いや、蟻などよりも劣った人間です。人並みの心持ちで行きていくことすら出来ないのです。

車窓から見える風景だけで涙が出てくる。横断歩道を渡れずにいるお婆さん。迷子になった小さな子。大変そうに道を歩く車椅子の方。ごめんなさい、ごめんなさい。私は彼らを助けることが出来ない。バスを降りる勇気すらないのです。私の心は悲しみで膨れていく。ぶくぶくと、何と醜い。

陰気な女だと言われます。知らないふりをすれば良いだろう、とも。私は嘘をついて、目と耳を塞ぐ勇気を持ち合わせてはおりません。弱く、ちっぽけな人間です。そして、小ずるく卑怯な女です。醜い。知らぬふりが出来た方が幸せだった。

うんざりするほど、私は心の弱い人間なのです。きっと、私の心は死ぬまで泣き続ける。





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