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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第四章 有翼人の峡谷・ラヴィット
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醜い有翼人の子

「どうやら、そういう事になるようだ。ちなみに次のバスが来るのは……」

 僕は、バス停の時刻表を指差した。

「いや、それはよい。……というか何か昨日とよく似た展開ではないか?」

「うん、僕もそう思っていた」

「という事は……」

 僕達は周囲を見渡した。

 基本的にモノの少ない土地なので、あっさりと、()()は見つかった。

 石碑である。

 イフにあったモノとは異なり、シンプルな六角形の石柱型だ。

 色は澄んだ青だけど、まさか本物の宝石ではないだろう。だとしたら普通に盗まれてもおかしくない。

 そして、表面には文章が彫られている。

「やっぱりあったのじゃ……」

「翻訳、よろしく」

「うむ」


 レパートの生まれは不明である。

 子供の頃から醜い翼を有しており、羽根はなく皮膜で飛ぶ。それが故に、美を尊ぶ有翼人の里では蔑まれていた。

 友はほぼなく、常に孤独で、愛情に飢えていた。

 やがて成長し、レパートが有翼人ではなく龍である事が判明する。

 龍は偉大である。

 偉大であるが故に、今度はラヴィットの女王とその愛人である青き翼のチルミーから命を狙われることになった。

 追っ手から逃れる先で出会ったのが、ユフの一行である。

 ユフ達は追っ手を蹴散らし、背後にオーガストラがいるラヴィットの女王に立ち向かう。

 三年来の友人がいた事もあり、レパートもまた旅の一行に加わった。

 レパートの友人が増えた。


 翻訳を終えたケイが、一息つく。

「……ま、言う迄も無いが龍のレパートに関してじゃの」

「つまり外見が違うからハブられてたと」

「ぶっちゃけると、そういう事じゃのう」

 実に分かりやすい。

 太照(うち)の国の塾だって、その辺りは大差がない。出る杭は打たれるのだ。

「……でも有翼人と龍って、外見違いすぎないか? 言っちゃ何だけど、トカゲだぞ?」

 人間と獣人、虫人、有翼人などごったになっていれば、トカゲ獣人(リザードマン)などそれほど目立ちはしないだろう。

 けれど、この文面からは有翼人の中に1人だけ異質であったと読み取れる。

 なら、いくら飛べるとしても同じ種族だったと考える方が、不自然ではないか。トカゲ獣人の多くは、猫獣人や犬獣人とは違い、頭部もトカゲに近いモノが多い。

「龍というのが実在しておればのう」

 と言って、ケイは指を一本立てた。

「――まず、龍などという存在が言い伝えであり、実際にはいなかった場合を考えるのじゃ。この場合はトカゲはおらず、かと言ってトカゲ獣人は飛ばぬ。考えられるのは蝙蝠(こうもり)獣人という可能性が高いの。奴らならば皮膜で飛ぶ」

「……蝙蝠って獣なの? 鳥なの?」

「と、どっちつかずな面もあるが獣側じゃの。他、鼠獣人の一部にも皮膜で飛ぶ種族がいると聞くが、あの連中は基本、それを隠せるからのう」

 モモンガやムササビ系の種族の事だろう。確かに彼らは腕を閉じていれば、皮膜の存在は分かりづらい。

「龍が実在していた場合は?」

「そりゃ、龍獣人……というか龍人になれるという事であろ。でなければ、有翼人はそもそも変わり種の仲間とすら認識せなんだであろうの」

 つまり、龍が実在した場合は、人の姿に近い……というか、有翼人に近い姿を取れたという事になる訳か。ただ、その翼は羽根がない、国によっては悪魔の遣いと呼ばれる事もあるという、皮膜の翼だ。

 そして友はおらず、成長して龍と判明したら今度は、国から追われる事になり……ユフ一行の仲間入り、と。

 大筋は理解出来た。

「気になる一文は、『友はほぼなく』と『三年来の友人がいた事もあり』かな。どっちなんだよそれ……」

 だが、僕のそんな疑問は、あっさりとケイが覆した。

「いや矛盾せぬであろ。友は()()なく、というのはつまりゼロではなかったという事じゃ。そしてその数少ない友人が、ユフの一行におったという事であろ」

「……ユフ・フィッツロン、ケーナ・クルーガー、ニワ・カイチのどれか?」

「ユフ・フィッツロンはまず除外じゃな。帝国から逃れて隠遁生活を送りながら娘を育てていた養父が、他の国にわざわざ移動するようなリスクを犯すとは思えぬ」

 確かに、それは言えてる。

「となれば、ケーナ・クルーガーかニワ・カイチ」

「ま、3という数字が出ておるから、おそらくニワ・カイチであろ。ユフ一行の3人目、3年間の修業、3年間の封印」

「……こじつけ臭くないか?」

 言われてみれば、ホント3という数字に縁があるような気がしないでもないけど。

「ただ、ケーナ・クルーガーも将軍の娘じゃ。外交としてハドゥン・クルーガーと友にラヴィットを訪れるという事も考えられるが……ふぅむ、ま、いずれ分かるのではなかろうかの」

 現時点では、確定は出来ない、という事のようだ。

 もっとも、この先でそれが判明するとも限らないのだが。

「じゃあま、そこは保留で。とにかく、あまりいい子供時代じゃなかったって事だな」

「人の幸福など、他人が測る物では無いと思うが、一般的に見ればそのようじゃのう」

 なんて感想を抱き、ひとまず石碑から離れる。

「……じゃあ、そろそろ行くか」

 他に乗り物はなく、つまり僕達の足は自然、ラクチョを放している農場に向かう事になる。

 が、ケイは及び腰だ。

「……襲われたり、せぬかのう」

「……昨日のスークの一件が、完全にトラウマ化してるねぇ」

「あのような恐ろしい目には、もう遭いたくないのじゃ! ちゃんと盾になるのじゃぞ!」

 既に、僕の後ろに隠れているケイであった。

「盾になるのはいいけど、あれ、前に立ちはだかるんじゃなくて後ろに乗ることになるぞ。ああ、蹴り飛ばされないように注意しろよ」


 幸いな事に、値段はそれほど高くなかった。

「ふふふ、2人乗りで!!」

 ケイが、頑として主張した。

 すると、農場主のおっさんが何かいい、ケイはぷんすか怒り始めた。

「違うのじゃ!! 妾達はそういう仲ではない!」

 ああ、何だどうせカップルとか夫婦とか、その辺りのからかいだろう。

「2人乗りにしたいのは、1人で乗っても振り落とされるからじゃ」

「自分で言うかよ……しかも、その光景が目に浮かびそうだし」

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