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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第四章 有翼人の峡谷・ラヴィット
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大峡谷?

 そして『パンダ豆茶店』なる喫茶店に入って注文を取ることしばし。

 ちょいと、予想外の展開を僕達は迎えていた。

「……のう、ススムや」

「……僕も、お前に尋ねたいことがある」

 テーブルを挟み、僕達は真面目な表情で見つめ合った。

「否、妾に責任はないのじゃ。というか選んだのはお主であろうが」

「うん。でも注文したのは君だよね。それとも、僕の知らない何らかの手段で注文増やしてないよな」

 どうやら、どちらも譲る気はないようだ。

「そんな面倒臭い事をするぐらいなら、駄々こねた方が手っ取り早いわ。というかこれは何の冗談じゃ? いや、大変嬉しい話ではあるのじゃが」

「ね、値段間違えてないよなぁ? 一応ちょっと高めだけどワンコインの筈……」


 上に溶けたバターの乗ったこんがりと焼かれたトースト、ホットの豆茶、ケチャップの添えられたプレーンオムレツ……まあ、この辺りはよしとしよう。

 加えて単品のサラダ、コーンのスープ、ポテトフライ(フライドポテトではない)にパスタにも1つサラダ、甘くないプディング。

 改めたくなるのも、無理はないと思う。


「念の為、聞いてみてくれ。何かの間違いじゃないかって」

「う、うむ」

 ケイが、ウェイトレスに声を掛ける。

 二、三のやり取りの後、ウェイトレスが慌ててカウンターに向かう。

「や、やっぱり間違いだったのか!?」

「……いや、そうではないのじゃ」

 すぐに、ウェイトレスは戻ってきた。


 手に、フルーツ盛り合わせの入った小鉢を2つ持って。


「…………」

 どうやら、デザートを忘れていたらしい。

 こうして、今日の朝食が揃った。

「ラヴィット素晴らしいのじゃ」

「まったく、同感」

 僕とケイは、真剣な顔を見合わせた。

「では」

「うん」

 手を合わせる。

「いただきます」

「いただきますなのじゃ!」

 ……まさか、朝食で体力を使う事になるとは思わなかった。

 ワンコインだが、味は素晴らしいモノだった。

 僕の一推しは豆茶。おかわり自由である。ケイはプレーンオムレツ……何気にチーズが混ぜられているのが、気に入ったようだ。

 実に充実した食事であり、空腹を我慢した甲斐があったというモノである。

 さすがにここまでされては、僕もケイも、チップを忘れるなどという迂闊はしない。

 なお、店の話では、ここだけが特別なのではなく、ラヴィットの朝食は大体皆、こんな具合なのだという(もちろん全部が全部という訳ではないが、ほとんどという意味で)。


 ただ、満足した朝食にも、問題があり。

「……今日は、この辺で休みにせぬか?」

 店を出て駅ビル連絡通路、大変満ち足りた表情でケイは膨らんだ腹を押さえつつ、そんな事を言った。

 気持ちは分からないでもない。

 多分、僕も同じ表情をしている……が、ここは譲れない。

「しない。というか移動しただけだし、その移動すら途中じゃないか……とはいえ、バスで酔わないかとなると、若干不安かなあ」

 ケイも想像したのだろう、若干表情が曇った。

「うむぅ……出て来たモノは至高ではあったが、旅の途中という事を考えるとのう」

「ま、今更変更も出来ないし、行くぞ」

 足の鈍いケイの腕を引っ張り、僕達はバス停を目指した。

「ううううう~~~~~らじゃったぁ……」


 そしてやたら旧式のバスに揺られること一時間。

 建物が消え、人や車が消え……僕達はイスト・スリベル駅前に到着した。

 時計を確かめると、午前九時半……出発時刻を考えると、随分な長旅だった。

「ふぅ……」

 排気音を鳴らしながらバスが去り、一息つく。

 なお、ケイはベンチに横たわっている。

「危ない……所だったのじゃ……」

「ああ、かなり揺れたねぇ……吐くなよ。吐くなら駅のトイレにしろよ」

 僕は、後ろにある教会にも似た駅を指差した。

 列車を使うという手もあったのだが、何度か乗り継ぎをする必要があったし、ケイ曰く、太照と違って時刻が守られるとは限らない、という話だったのでバスにしたのだ。

 が、ちょっと選択を誤ったかも知れない。

 と、グッタリするケイを見て、思う僕であった。

「……しばらく大人しくすれば、大丈夫なのじゃぁ……」

 ちなみに、正面は荒野。

 うん、もう荒野と呼ぶしかない、だだっ広い荒れ地が広がっている。拳銃持った無法者が現れてもおかしくない世界だ。

 遠くには、岩が剥き出しになったゴツゴツとした小山が点在している。

 かろうじて文明社会を保っているのは、この駅周辺だけではないだろうか。それにしたって、古い石造りの建物が点在する、ちょっとした年代物の村だ。

 ……なお、後で調べた話によれば、ここは文化保護指定によってそういう風に保たれている、という事であった。

「……しばらくってのは、どれぐらいだ?」

「何がじゃ」

「どれぐらい、大人しくすれば大丈夫だ? いや、責めてるんじゃない。心配もしちゃいるけど……」

「……何だか、嫌な予感がするのじゃ」

「一応、目的地には着いたけどさ、ホラよく見ろ。考えろ。これが大峡谷に見えるか?」

 僕は、荒野を指差した。

 ケイもヨタヨタと起き上がり、僕の指の先が指す風景を見る。

「……一応亀裂らしきモノは地面に見えるが、すんごい荒野に見えるのじゃ」

「だろう」

「じゃの」

 僕達が目指すのは、有翼人の多くいる、そしてかつてユフ一行の1人、龍のルパートがいたという大峡谷である。

 峡谷、というのは谷がなければ、峡谷ではない。

 そしてここは、平地である。

「…………」

「…………」

「まさか」

「そのまさか。さらに東に移動する。昨日と同じだ」

 村にある移動手段を使用する羽目になりそうだ。

 なお、バスのダイヤは例によって例の如くである。

「レ、レンタサイクルなら、まだ何とかなるのじゃ」

「ありゃ基本的に、ほとんど僕がペダル漕いでたからねぇ。だけど、自転車じゃないみたいなんだな、これが」

 僕が指差した先は、木の柵に覆われた農場だった。

 蒸語の読めない僕でも、こう、絵ぐらいは見れば分かる。

 首の長い鳥、ただし飛ぶのではなく走るタイプのそれの後ろに人が乗っている。その鳥が何羽か群れになり、荒野を走るという絵。……うん、どうやら家族連れをイメージしているようだ。

 そして、その鳥――ラクチョというらしい――が、何羽か農場に放し飼いにされていた。

「鳥ーーー!?」

 ケイが仰天する。

 うん、つまり、これがここの移動手段という事らしい。

 農場でラクチョに干し草を与えている太ったオッサンが、僕達に気付き、サムズアップをかましてくれた。

 向こうも客だと、分かってくれたようだ。

「あ、ああ、あれに乗るのかや!?」

 バス酔いもどこへやら、ケイは僕とラクチョ達を交互に見た。

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