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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第三章 遺跡と聖都の地・イフ
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明日の打ち合わせ その3

「よし、大体予定通りにまとまったな」

 ホテルに戻って、僕は今日の行動を大雑把にまとめた手帳を閉じた。

 清書はまた後だ。

「途中で案内役になってくれたジョン・タイターの力が大きいのー……」

「そーだなー」

 一方ケイは、ホテルで借りたノートパソコンを起動させている。

 ベッドに寝そべりながらだが、机は僕が借りているし、細かい事を言うのはやめておく。

 ……というかなかなかのハードスケジュールだったので、この程度の行儀の悪さ、突っ込む気力もないのだ。

「あの人いなかったら、最後の博物館まで間に合わなかったか、どっか削ってたかもな」

「うむ。よい飯も食えたのじゃ。そして、ご飯食べたら眠くなってきたのじゃ……」

「まだ寝るなよ……そういや、やたらよく食べたような気がするなぁ。昨日の稼ぎがなかったら、財政的にきつかった」

 財布の中身を確かめる。

「ふむ、予算的にはどのようなモノかの」

 ……うん、大丈夫そうだ。

「無駄遣いしなきゃ、そっち方面の心配はないな。古い服も売ったし。……ま、帰りの飛行機代は何とか考えないと駄目だけど」

「それは置いておくのじゃ」

 うん、そこはとりあえず置いておこう。

 飛行機代は厳しいけど、しばらく滞在するぐらいの資金は残る……と思うし。

 よっこらしょ、とケイが身体を起こし胡座を掻いた。その膝の上にノートパソコンを乗せる。

 僕は身体だけを反転させて、背もたれに上体を預ける形でケイに向き直った。

「では、改めて本日の整理とゆくかの。今日のメインは、ユフ王の仲間の二人目、ニワ・カイチに関してじゃった」

「魔術師で魔法使い。一行の知恵袋的存在だったねえ……今更だけど、魔法ってのは、どうなんだろうね」

「フィクションかどうかという事かや」

「うん。まあでもほら、ウチの国でも陰陽師だの退魔の僧だの巫女だのシノビだのもいるしなぁ」

 だから、一概にフィクションと否定するのは、どうかと思う。

「ではま、どういう形であれ実在はしておったという方向で話を進めようではないか。妾としては、あの魔法の理屈が鮮烈じゃった」

「ああ、あの0と1?」

 賀集ケイ、大興奮の巻であった。

「うむ。無と有を等価値にしてしまうというあの魔法はよいの。研究する価値は相当に高いのじゃ。正直、妾も欲しい」

「……うーん、あれって完全な無の空間って奴? それを作れれば、到達出来るんじゃないのか? いや、そもそもそれ自体が簡単なモノじゃないのは分かってるんだけどさ」

 そもそも封印の巨大石自体が魔術の産物な訳で、それを再現するとかその時点で困難だ。

 が、それを何とかすれば……という話なのだが。

「や、多分無理じゃの」

 あっさりとケイは、それを否定した。

「何で?」

「理屈も理論もないが、あれはおそらく一回こっきりの反則のようなモノじゃ。あの理をニワ・カイチが使ってしまったことで、あの場所へ到る道は閉ざされて仕舞うた。そんな気がするのじゃ」

 指示代名詞が多くて済まぬがの、とケイは付け加えた。

「ともあれ、妾は今日、充分すぎる成果を得たのじゃ。よい1日じゃった」

 そういう意味では、ケイはこの旅の目的を達したという事になる。

 もっとも、残り2日も続けてくれるので、僕としては大助かりだ。

 本日のおさらい、終了。

「よし、益があったという事で、明日の予定だ。明日はラヴィット。見所は……確か大峡谷だったかな」

「そうじゃのう」

 ケイがパソコンのディスプレイに地図を表示させた。

 僕がそれを覗き込むと、ケイは地図上の路線を小さな指でなぞっていく。

「移動ルートとしては一旦ここから北にあるシティムを経由して、東のラヴィットに向かうのがよかろ」

 ケイの指がシティムの西で止まる。そこにはネモルドームとあった。

「ラヴィットの中心となる駅がネモルドーム。そこから市営バスでさらに東へ向かってイスト・スリベル……多分今回の旅で1番東になるな」

 そのイスト・スリベルのさらに東に、大峡谷があるのだ。

 移動だけで、相当に時間を取られる日となる。

「じゃのう。タイミングを外せば、戻るのは夜になってしまうやもしれん。大峡谷とそこにあるスリベル洞窟博物館。押さえる場所はここかの」

「うん。メインになるのはそこかな。……そういえば修学旅行、ああ、本来のね。あれだと確か、四日目はグループでいくつかの課題に別れるんだよな。再びグレイツロープとかこのラヴィットとか」

 残念ながら、修学旅行のしおりは私塾の方のリュックだ。スケジュールは、記憶に頼るしかない。

「……えーと、そう、それでラヴィットではネモルドーム劇場で、午後から演劇鑑賞ってのがあった筈なんだよ。それは観たかったから、憶えてるんだ」

「ふむ……これかや。演目は『レパートと鏡の魔女』。主演レパート、蒼き翼のチルミーも登場するようじゃの」

 ケイがキーを叩き、演劇のページを表示させる。

 そこには中央に中性的な龍人、背後に大きく魔女と青髪の美男子が写ったポスターが表示されている。

 青髪の方には見覚えがあった。

「そうそう、スキア・グランツが出る奴だ」

「映画の都ウーヴァルトの俳優の」

 初日、パレードで観た人物でもある。

「そうそう、それ……あー、でも無理だろうなあ。私塾分キャンセルになったとしても、もうチケットはキャンセル待ちの人で完売だろこれ」

 私塾の連中が帰国したので、ブッキングする可能性はまずないので、是非観たかったんだけど、さすがにそれは叶わないようだ。

「ふむ……同じ演目がすぐ近くでやっておるぞ。場所はネモルドーム公園野外ホールじゃ。劇団は……むぅ、テンニン劇団。聞いたこと、あるかや?」

「……いや、ないな。こっちで有名とか?」

「いや、調べてみた所……ほとんど無名じゃのう。その分、値段は超格安じゃが。後で出て来た競争相手というのもおこがましい大御所がすぐ近くで演じるせいで、叩き売り状態じゃのう」

 それはまた、気の毒な劇団だ。

 っていや、それよりも今、気になる事をケイは言った。

「え、チケット取れるの?」

「……カードが使えればの」

 カードを使えば、当然足が付く。

 一応僕達は追われる身なので、それは避けたい。

「……太照じゃ確か、ネット専用のカードってあったけど」

 それがこの国にあるかどうかってのもあるしなぁ。

 登録するのにクレジットカードが必要です、とかだったら目も当てられない。

 かと言って、この辺りにコンビニは……太照程なかったような記憶がある。

「変にそういうのを使うと、それも足がつきそうじゃからのう。ま、現地で、しかも間に合えばの話じゃな。残るは恒例、シティム国立博物館といった所かの」

 これで、大体のスケジュールは決まった。

「前半の大峡谷次第になりそうだなぁ」

「名称だけで、大冒険の雰囲気じゃのう」

「ちなみに……うん、間違いない」

 手帳に書き込んだそれらを確認し、最後にノートパソコンで電車のダイヤを見せてもらった。

「何じゃ」

「明日の起床、朝の五時半」

「うあー……」

 バタン、とケイがベッドに大の字になった。

「寝よう。風呂入って、さっさと寝よう」

 最後に、僕達の間に、こう、艶っぽい内容の展開は一切なかったことを明言しておく。

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