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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第一章 始まりの地・ヒルマウント
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メルカド露店街にて桃を食う

 メルカド露店街は、ヒルマウントでも一番大きな露店街だという。

 普段は野菜や果物、肉に魚、雑貨に骨董品にと様々な露店が立ち、しかも今日はお祭りなので、木彫りの人形屋だの仮面屋だの、お土産向きの店も並んでいた。

 商売魂というか、大通りのパレードとは別種の熱気の伝わる賑わいだった。


 で、僕達はといえば、ケイ推薦の露天で桃を買っていた。

 店主が実に浅く切れ目を入れ、後は買った奴が皮をむしれという事らしい。

「なるほど、美味い……」

「であろう?」

 実は適度に柔らかく、口に入れた途端甘い果汁がいっぱいに広がった。

 そういえばロクに飲み物も飲んでいなかった事を思い出す。

 一度口にすると止まらず、結局種のみになるまで、一気に食べきってしまった。

「ま、おやつの時間も近いし、ちょうどよかったな」

「うむ、よい買い物であった」

 露天脇にある水道で、手を洗う。……まあ、濡れた手は自然に乾くのを待とう。

「バスはどうだったのじゃ」

「もうちょっと……まあ最悪乗り過ごしても、徒歩で行けるんだけどね」

 十五分ぐらいは、余裕がありそうだった。

 適当に露天を見て回れば、あっという間だろう。

「交通費が勿体ないではないか」

「ただ、バスで十分だけど、歩くとなるとそれなりの距離になるだろ。となると、回れる場所が少なくなるんだ。それは避けたい」

「目指すは、皇帝の生家であったか」

「それもあるけど、そっちに博物館があるんだよ。それに、最初の冒険譚に出て来た洞窟とか」

「洞窟か! ダンジョンじゃな!」

 途端に、ケイは目を輝かせた。

「君も、ゲームはやったりするのか」

「無論じゃ。そーか、それならば、仕方がないのう」

「だろ? そういう生のダンジョンって見てみたいだろ?」

「うむ。そういう探検は是非体験すべきじゃ。罠とかはないのかや?」

「さすがに、千何百年も前に踏破されたダンジョンに、それを期待するのもどうかと思う。完全に観光地だと思うよ」

 ま、危険性は皆無だと思う。

「ふむぅ……まあ、それはそれで! 次は射的じゃ!」

 少し残念そうだったが、ケイはすぐに気を取り直した。

 そして、射的の露天に駆け出した。

「満喫してるなぁ」

「ゲームではやった事があるが、実物のライフルを触るのは初めてなのじゃ!」

 カウンターに並べられたライフル銃を手に取り、掲げる。

「……そのライフルも、レプリカだと思うけどね」

 そして、やる気満々でケイは射的を開始した。

 一回でコルク弾五発、それをあっさりと消費した。

「当たらーんっ!!」

 うんまあ、大体予想通りだったが、ケイは激昂していた。

「何じゃこれは!? 銃身が歪んでおるのではないのか!?」

「こういう屋台の射的は、大体そんなモンだよ」

 まあ、傍から見ててもかなり癖のある銃だな、とは僕も思った。

「ススムよ、リベンジじゃ! 妾のリベンジを果たすのじゃ」

「はいはい」

 椅子に座って客を見守っているおじさん店主に、代金を支払う。

 携帯ゲーム機には心引かれたけれど、大体こういう店の大物はコルク弾では倒せない。酷い所になると、後ろにつっかえ棒をしてたり、中は空でその代わりに重しを入れてたりするので、そういう博打には手を出さない。

 狙うは小物、お菓子系だ。

 一発発射するも、惜しい所で弾は逸れてしまった。

「あー……」

 ケイがカウンターにもたれかかり、無念そうな声を上げる。

「……大体、分かった」

 銃の癖は把握出来たので、標準を合わせて引き金を引いていく。

 残り四つ、キャンディ袋やチョコレート、ラムネに、手の平サイズの龍のぬいぐるみを手に入れた。

「お、おおおおおー……!!」

「兄ちゃんやるねえ」

 店主のおじさんも何か言っていたようだが、多分こんなニュアンスだった。

「どうも」

 適当に会釈し、僕達は射的の露天を後にした。

「大したモノじゃの、お主!」

 さっそく棒に挿したチョコレートを舐めながら、ケイが賞賛してくれた。うん、悪い気分じゃない。

「この手の遊びは、それなりに得意なんだ。格闘ゲームなら、一応威張れるレベルだと思う。……ま、それしか取り柄がないとも言えるけど」

「いやいや、立派な特技ではないか。では、次はあちらの輪投げで、その実力を発揮してもらうぞ!」

 とせびられ、何だか最初から余計な荷物を幾つか抱える事になった。

 消費出来るお菓子が主だったのが、救いと言えば救いか。


 バスの時間も近づき、僕達は最後に名物と言われる宝玉パンを買って食べる事にした。

 ちょうど一口サイズのパン詰め合わせで、中身は色によって異なる。茶色はチョコレート、桜色のジャムパン、黄色いカレーパン等。

 ドリンクはセットで、香茶や豆茶、炭酸ジュースなどが販売されている。

「うむ、宝玉パン美味い」

「このパンも、確か一応皇帝の伝承由来なんだぞ」

「ふむ、妾は伝承には詳しくないのだ。興味深いぞ?」

「そも、この地はユフ皇帝が旅立った土地だけど、その時に養父であるセキエンから四つの宝玉を預かった。その宝玉に導かれて、仲間の三人を探したって話なんだけど、つまりこの宝玉饅頭はそれが元になっている」

 白のクリームパンを食べながら、僕は答えた。

「ふむ、その宝玉というのは、どういう力があるのだ?」

「さあ? 強い奴に反応するとか、そんなのじゃないのか?」

 へにゃり、とケイは情けなく眉を下げた。

「そこの所がえらくいい加減じゃのう」

「僕のソースだって、太照で翻訳された伝記とか、ゲームとか漫画だからな。というか後者の比率の方が高いぞ」

「ふぅむ、まあよい。とにかく美味いことは確かなのじゃ」

「だな」


 パンを食べ終えバス停へ向かうと、ちょうどバスが来た所だった。

 先払いらしいが、その辺は文字がちゃんと読めるケイに任せて、二人用の席に座った。

 縦長のバスのちょうど真ん中辺りに乗車用の扉が有り、前部は窓に沿った横長の椅子、後部が二人用の座席を通路の左右に三つずつ並べ、最後部がこれまた長い座席となっていた。

 席の混み様は、まあ立っている乗客はいない、というレベルか。

 思ったよりも真新しく、目的地は電光掲示板が表示していたし、運転席の後ろには小さいディスプレイがあった。

「お」

 そのディスプレイを見て、ケイが反応した。

「何か、面白いニュースか?」

 スタジオからアナウンサーの女性が何か言っているのは分かるが、内容までは流石に僕には分からない。

「速報じゃの。青羽教の幹部逮捕と出ておる」

「何だそれ」

 ふと、ケイと出会う前に手に入れた青い羽根を思い出す。

 あんな物は古物商でも売れそうにないので、今は作業用ジャンパーの内ポケットに入れてあった。

「こちらのカルト教団みたいじゃのう。事件の現場が、今さっきまでいたヒルマウントの市内なのじゃ」

「そりゃまた、随分なタイミングだったんだな」

「うむ」


 そして十分ほどの移動で、目的の土地に着いた。

 始まりの村、ラクストックだ。

 村の通りの左右は緑が広がり、煉瓦造りの家が続いている。

 一際高いのはシンボルから察するに、ザナドゥ教の教会だろう。

 村の向こうには森と小高い山が見える。

 道は一本だけのようなので、迷う心配はなさそうだ。

 そして、ここでもやはり、古代の衣装やモンスターの扮装をした人々が、行き来をしていた。

「ふむ、こちらでも祭か」

「生家がある事を考えると、こっちが本場って考えてもいいと思うけどな」

 さすがに市内ほど多くはないが、それでも繁盛していると言える。村の稼ぎ時と考えてもいいんじゃないだろうか。

「向こうよりはまだ静かで、落ち着くのじゃ」

「さて、目的の生家は……あっちかな」

 それらしく矢印の看板があったので、僕達は村の先を目指す事にした。

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