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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第三章 遺跡と聖都の地・イフ
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そして科学者は閃きを得た(後)

 ポン、とケイは自分の小さな両手を合わせた。

「とにかくこうして、ニワ・カイチは無と有を統べる域に到り、”魔法”を得た。使い方は妾には色々思いつくというか妄想が今、すごい勢いで溢れそうなのじゃが、あの魔法使いはお主流に言わせれば、ゲームらしき法則を題材にした感じの魔法を使う事にしたようじゃの」

「でも、何でゲームなんだろ。ああ、いや、ゲームって解釈してんのは僕の勝手だけどそういう事じゃなくて」

 伝承を読んだ感じ、僕はそれを直感したというだけであって、この魔法使いの文言がそれを表わしたとは限らない。

 だって、1500年前にSLGやら無双ゲーなんて、ないよね? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「魔法に制限掛かっているような印象を受けてるのは、僕の気のせいかな。マホト川の戦いでも、それならいっそ、敵軍を丸ごと消しちゃう事も出来たんじゃないのかなって?」

 無から有を生み出す魔法というのは、つまり()という概念そのモノをなくす事も有り()なのだ。深く考えるとどつぼに嵌るから、悩まないでもらいたい。ほとんど(ケイに言わせれば完全に)禅問答の世界である。

「ふむ、推測に推測を重ねる事になるがの、魔法と言ってもおそらく万能ではないのじゃ。否、魔法は万能じゃが使い手がそうではないのがネックと言うべきか」

「この場合は、ニワ・カイチが?」

「そうじゃ。人が人であるからには、己の想像出来るレベルでしかそれは叶えられぬ。例えばその魔法使いが人殺しが嫌いなら、人を殺す魔法は使えぬ。万能というのは怖いからの。ニワ・カイチが賢人じゃとするなら、そういう()()を自分に課したのじゃ。お主、あらゆる知識を手に入れられたとしてじゃ、数学の深淵を覗き込みたいかや? 経済学の奥義を極めたいかや?」

「……ゲーム以外なら、医学と美味しいご飯の作り方と効率のいい不労所得かなぁ」

 我ながら俗だと思う。

「そう、それが人間の限界というモノじゃ。あとは、何だかんだでこの世界で魔法を使うからには、対価を払う必要があるじゃろうしのう」

「ん? 無から有を生み出すってのなら、それ要らないんじゃないか?」

「うむ、理屈の上ではそうじゃし可能じゃろう。じゃが実際問題として、そうすると世界のバランスが崩れてしまう可能性が高いのじゃ。ここに桃を1つ出現させたとしよう」

 といって、ケイは自分の掌を出した。

「何で桃」

 もちろんケイの手に桃は生じない。仮にの話だ。

「何となく食べたくなったのじゃ。それはともかくじゃ、そうするとここに本来あった空気はどうなってしまうのじゃ。空間はどうなってしまうのじゃ、という事になってしまう。その辺の辻褄合わせはこの世界がやってくれるじゃろうが、大規模なモノとなると……のう?」

「修復やら反動やらが大変って事か」

「そういう推測が成り立つ、という話じゃがの。SF系与太話の部類じゃ。そういうのを一切合切無視してやりたい放題にする、というのなら可能じゃろう。けれど、魔法使いは人であったから、それは控えた。やると周りに迷惑が掛かってしまう」

 軍を消す事は出来る。

 が、そうするとそこには言わば()が生じる。

 ケイ曰く、運がよくてその空間がしぼみ、時が乱れ、この世界が若干歪む程度で済む、という事らしい。

 もちろんそれを修正する事も、魔法使いには可能だろうが、いちいちそんな事を考えて使っていたら、脳味噌が持たない。だって、魔法使いも()だから。

「じゃが、そういう意味では、伝承に語るニワ・カイチの『法則(ルール)の変更』、というのはそこそこ上手い手なのじゃろう。物質ではないし、おそらくは世界が修正を加えるまでのごく一時的なモノであろう。対価はまあ……魔力が妥当ではないかの。縛りを入れている分、使い勝手は悪そうじゃが」

「……シューティングゲームの法則を生めば、空を飛ぶ事が出来る。ただし、ライフゲージ制でない限り、一発当たったらその部位がどこだろうが死ぬとかか」

 もちろん、()()()()()あるとか、()()()()()()()()()()()()なんてのも、有り得る。

 ただ、それはその、空を飛ぶ必要が無い限り、あまり使おうとは思わないだろう。

 そういう意味では、魔法は状況に対して受け身になる力なのかもしれない。

「とはいえ……くく、これはよい」

 ケイは肩を揺らして、小さく笑っていた。

「おい、おいおい、何かすごい悪い顔になってるぞ、お前」

「上位の領域への移動(シフト)。なるほど、そのテーマには手をつけておらなんだわ。よいの、これはやり甲斐があるかもしれぬ」

 自分の興味、やる気、そういうのが今、ケイの中で芽生えつつあるようだった。

「で、でも多分、それってお前の実家の商売とは、あんまり縁が無いと思うんだけど、いいのか?」

 0も1もない、もしくは全てを内包した世界へと到る技術。

 うん、そんな訳の分からないモノ欲しがるのは、それこそ徳の高い坊主ぐらいだろう。そしてそういう人は自力で行きたがるモノだろうし、家電製品でヒョイと行けてもあまり有り難みがなさそうだ。

「よいのじゃ。昔から、妾は興味のあるモノのみを追い求めておった。その際の副産物が()()()()、商品になる事はあるがのう。例えば高感度のカメラレンズや、長持ちするバッテリー等じゃ」

「……あー、そういう感じに、アイデアってお金になるのね」

「高みを目指せば、付随するモノも自然高い性能を求める事になるからのう。足りぬ部分を補うだけでも、それは既存商品の上位種となり得るのじゃ。まあ、そんな事はどうでもよい。うむうむ、よいぞ。妾の為す事は決まった」

 どうやら、ケイは自分の中では納得がいったようだった。

 ある意味、彼女の旅の目的はこれで達する事が出来たとも言える。

 それでも無謀っちゃ無謀なので、一応ツッコミは入れさせてもらう事にした。

「あのさあ、求めてるモノってこれ、実在するかどうかも不明な伝承の、”魔法”だよな。幻想(ファンタジー)を科学で再現しようって言うの?」

「否、違う。超えるのじゃ!」

「……すんごい自信」

 間髪入れず言い切る辺り、凡人とは違うなあと思ってしまう。

「でもまあ、そういうのがないと、駄目なのかねぇ」

「もちろん、お主も手伝うのじゃ」

「僕も勘定に入ってんのそれ!?」

 ちなみに。

 この時点でマホト川の戦いの話は、実はほとんど進んでいない。

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