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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第三章 遺跡と聖都の地・イフ
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魔法使いは世界を換える

 ケイは横長の黒い石文を読み上げていく。


『かの魔法使いの告げた通りに聖騎士達が祈りを捧げると、その身を光が包み込んだ。その輝きに敵軍はどよめき、その動揺は川のこちら側にも伝わって来ていた。

 魔法使いのいう通りだったのだ。

 敵の不思議な術は、救世の娘ユトーバンの護りによって力を失っていた』


「……って事はあれか。伝承では、今のケイの話と同じ事をニワ・カイチは考えたって事か」

「そういう事になるの」

 むふん、と鼻息を上げ、ケイが胸を張る。

 つまり1500年前、ニワ・カイチは皇妃ノインティルの魔術がこちらに掛かるのを防いだ。

「そして問題の敵軍にはどうやって対処したんだ?」

「うむ。ここの記述じゃの」

 そしてケイが指差したのは、石板の続きだった。


魔法使い(ニワ・カイチ)は告げた。

「私にはあのような力を操る力はない。だが、それでもこの戦を勝たせる事は出来るだろう」

 彼はさらに言う。

「封印の巨大石の中で、私は真理を得た。あの石の中はその門であった。ただし、それは作った者も使ってきた者も、気付く事は出来なかった。あれは全ての無から有を生み出す場であり、それは正しくも間違ってもいた。有と無の全て、また原因と結果、善と悪、光と闇、難と易、数多のこれら全てを手に入れる場だったのだ」』


 ……?

「ちょっと、よく分からない」

 思った事が、そのまま口から出た。

 翻訳したケイも、コリコリと額を人差し指で掻いていた。

「うーむ、ほぼ直訳だからのう」

「あれか、海外翻訳のミステリがたまによく分かんなくなるようなモンか」

 一つの文章がやたら長くて、どこに主語があるか分からなくなったり、時々キャラクターがどこにいるのか何の話をしているのかすら、分からなくなる事があるんだよなあ、あれ。

「……その例えはよく分からぬが、多分合っていると思うのじゃ。ただ、話の肝心な部分はそこではなく、さらに続きじゃ」

「今の部分はいいのか?」

「もんのすごく気になるのじゃが、後回しじゃ。省くのもどうかと思ったので語ったのじゃが……まずはここを一気に訳してしまうぞよ」


『「敵は強く堅く疾い。しかし案ずるな。私の法はそれを凌駕する」

 魔法使いの杖の戦端が輝き、戦場を、川を照らす。

 敵も味方も見守る中、魔法使いは宣言した。

「これよりこの戦において軍勢は有象無象と化し軍略もまたこれの意味を成さず、ただ英雄豪傑達の覇を競う場へと姿を変える。超人共は光り輝け、他の者は色褪せよ。常なる識を覆し、天下無双の宴よ開幕(ひら)け」

 その声と共に、まさしく世界は古き紙の如く色褪せた。

 赤も青も黄もくすみ、叫んだ魔法使いとその仲間、高僧であるパロコのみが色鮮やか。川の向こうも、ほぼ同じ様子であった。

「色鮮やかなる者が力持ち、この戦を決する者達なり」』


「えーと……」

「うむ」

 どうしよう。

 分かる。

 分かってしまう。

 ()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

「僕が思った事を、そのまま言っていいか?」

「よいぞ?」

「これって、つまりあれじゃないのか。魔女がSLGで自軍のパラメーターMAXで挑んできた。そこで、魔法使いは法則(ジャンル)自体を変更した。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……って事?」

 無双ゲー。

 知らない人のために説明すると、ゼンエーというメーカーが発売している『天華無双』というゲームが元ネタであり、もはやジャンルの一つにもなっている。

 主に戦国時代を舞台となっていて、有名な戦国武将をキャラクターとし、彼らが群がる雑兵共を蹴散らす『一騎当千』という単語を具現化したようなゲームである。

 亜種として、開国直前の太照や西方の騎士団達の合戦のゲームも存在する。

「そ、そういう事になるのかのう……真面目な戦記を筆へし折った上で放棄して、英雄譚ヒロイックファンタジーに切り替えたというか」

 ああ、そりゃあ間違いなく魔法使いだ。

「この文がガチだと仮定してだぞ……? これ、あくまで法則を変えただけで、ある意味自分達が無敵って訳じゃないんだよな。いや、聖騎士団側がある意味有利だけど、絶対に勝てるってレベルじゃない。ゲームならゲームオーバーがあるし、英雄譚でも最後に英雄が死ぬ話なんて腐るほどあるんだから」

 有利な理由として、これが無双ゲーなら、魔法使い(ニワ・カイチ)側に()()()()()が存在するからだ。

 敵の攻撃は剣だろうが矢だろうが一撃で倒れる事はまずなく、動きの速さもその数倍。

 そしてこちらの当たる攻撃は大ダメージだ。

 もしかしたら、必殺技やゲージ攻撃もあるかもしれない。いや、これは冗談だけど。

 ただ、そうなってくるとちょっと分からない点が、生まれてくる。

「こんなの出来るなら、学院で封印されるとかおかしくないか?」

 この時点では勝利が確定した訳じゃないけれど、勝ちの目は出ている。

 こんな魔法の使い手を封印するとか、魔導学院の人間はアホとしか思えない。

「……あれ?」

 あ、いや違う。

 僕は頭の中で訂正する。

 前後関係が、若干混乱していた。

 そうじゃないんだ。

 魔法を使えるようになったのは、封印から出た後なのだ。出る前は凡庸だった(それにやられた初代ドルトンボルは気の毒だけど、そうなのだ)。

「そうじゃ。この魔法使いはこれを、封印石の中で手に入れたと語っておる」

「真理って奴か」

 そこんトコが難しいというか、よく分からない。

 別にケイの翻訳が悪いという訳じゃなくて、単純に原典に問題があるような気がする。

 そもそも、この封印という奴、中がどうなっているのか今一つピンと来ない。

「……全ての無から有を生み出す場ってのが本来の使い方で、無の方も手に入れたのがニワ・カイチ?」

「…………」

 ケイは黙っていたが、やがて顔を上げた。

「これはつまり、こういう事ではないかのぅ……?」

 呟き、ケイは自分なりの『封印の巨大石』に関する考察を語り始めた。

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