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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第三章 遺跡と聖都の地・イフ
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VSドルトンボル

 大きなホールを抜けると、左手回廊に出た。

 建物が上から見てロの字状になっている以上、右手と構造は同じなのだが、人気はこちらの方が多い。

「何もないといえばないけれど……」

 特に、中庭の見栄えがいいという訳でもない。

 むしろ広く空間が取られ、風景としては右手側の方がいいんじゃないだろうか。

「じゃが、過去に重要な出来事があった場所でもあるの」

 背後で言うケイに振り返ると、彼女は通路に設置された絵画を眺めていた。下には短い説明が横文字で書き連ねられている。

 おそらくレプリカだろう、通路を舞台にドルトンボルに立ち向かう、フードを被った魔法使いの図だった。ちなみにこの回廊、他にも何枚か絵が飾られている。

「すなわち、第二回ドルトンボル戦じゃ。初代が死に、二代目との戦いじゃのう」

「初代が死んだのが三年前で、二代目がもうって、早くないか?」

 言ってから、思い返す。

「……いや、そうでもないのか?」

 初代ドルトンボルが亡くなったのが幾つか知らないが、子供を儲けて結構経っていたとすれば、継承がすぐでもおかしくはない……のかもしれない。

「代替わりのタイミングなぞ、それぞれじゃからのう。それにしても、ずいぶんと長々と書いておるわ」

 ケイは、絵画の説明に眉をしかめていた。なるほど、確かに十行ほどもあって長ったらしい。

「翻訳よろしく」

「少しは自分で訳す努力をせぬか」

「してもいいけど、多分今日一日、ここで足止め食うぞ。明日も来るぞ」

「胸を張って威張るようなことではなかろうが!」

 辞書があるなら多少はやってもいいけど、それすらないのだ。一番効率的な手段を取るのは、間違っていないと思う。

 と、こんな所でやりあっていてもしょうがないと、ケイは隣の絵画に移った。

「まあよい。ドルトンボルじゃが、ここではザナドゥ教の僧に化けて侵入したそうじゃの」

 絵画には、ローブを羽織ったドルトンボルが回廊を歩く正面姿が描かれていた。

「…………」

 触覚で出っ張った目深に被ったフードがすごい、シュールだった。

「言っておくが、おそらく実際は、面を外しておったとあるのじゃ。これは創作らしいぞよ」

「だろうねぇ」

 そもそも、面を外したら絵画として誰かもテーマも分からないと思う。

「その素顔で侵入者に気づいたのはニワ・カイチじゃ。親とよう似ておったという」

「そうか。先代の顔を見てたんだっけ」

「その後、えらいモノも見てしもうたがの」

「思い出させるなよそれ!?」

 柿の木の枝で全身を食い破られるスプラッタが頭に浮かび、思わず叫んでしまっていた。

「しかし今回のドルトンボルは、単独ではなかった」

「……そういや、ペンドラゴンさんが言ってたな。直属の部下とのコンビネーションが得意だったんだっけ?」

 たった二日前の事だけど、何だかずいぶんと昔のことに思える。

 確か博物館の六禍選の解説で聞いた覚えがあった。

「そう。その部下は食人木(マンドレイク)女王蜂(クイーン・ビー)粘体生物(スライム)石巨人(ストーンゴーレム)の四体じゃ」

 回廊を進むと、ドルトンボルを中心に、四体の怪物の描かれた絵画があった。

 木の精霊、虫人の蜂娘、人間のシルエットを取った泥、そして巨大な岩人間だ。

 マンドレイクはその絶叫で発狂死させ、

 耳を塞いでも天井に巣を作っていたクイーン・ビーが下僕の働き蜂達と共に相手を刺し殺し、

 仮にそれから逃れても、足下に潜んでいたスライムが転ばせ絡め溶解し、

 立ち上がろうとした所を庭園で岩に化けていたストーンゴーレムが圧殺したという。

「……見事なコンビネーションだけどそれ、ドルトンボル何もしてなくないか?」

 今の話だと、ドルトンボルの出る幕がない。

 が、ケイの意見は違うようだった。

「指揮を執るのはリーダーの務めであろ。そしてドルトンボルの標的は、パロコだったとある。かつての父の任務の引き継ぎという訳ではないが、後のオーガストラ軍侵攻とのタイミングを考え、おそらく幹部の暗殺以外に、ザナドゥ教団内に乱を仕掛け、和を乱すのが目的だったのではという見方があるようじゃの」

 ドルトンボルの任務は、主に潜入工作。

 そういう意味では、別に戦う事が主である必要もないという事か。

 それにしたって、ドルトンボルも運がない。この時、この場所でまさか、父親と相対したことがある魔法使いと出会う事になるとか、どんな運命の悪戯か。

 いや、勝ち負けは別とすれば、親の仇と出会えたというのは、運がよかったというべきなのか。

 ……ともあれ、ここで、ニワ・カイチはドルトンボルの侵入を察した。敵の狙いはザナドゥ教団の混乱。それを幾つかの偶然の積み重ねで、防ぐことに成功した。

「しかし、他はともかく絶叫する植物とか、どうやって防いだんだろう。これまずどうにかしないと、畳み込まれるじゃないか」

 次の絵画では、ニワ・カイチが中心だった。何だかジョン・タイターにとてもよく似ているけれど、多分気のせいだと思う。

 周囲をドルトンボル達が囲み、端から剣と狼が覗き込んでいる。これはユフ・フィッツロンと狼頭将軍クルーガーの救援を暗示しているのだろう。

「この絵画のこの部分を見よ」

 ケイが指差したのは、ニワ・カイチの耳の部分だった。

「耳から、何か線が出てるな」

「……確か、寮にオーディオ端末のレプリカがあったの」

「……そりゃこれなら手で耳を塞ぐ必要はないけどさ」

 そして最初の一手を防がれ、コンビネーションは破綻する。相手が常人ならドルトンボル一派もリカバリー出来ただろうけれど、敵に回したのは同じ英雄クラスだ。

 しかもニワ・カイチは彼らに正面から立ち向かわず、味方の助けを待った。

 次の絵画で、ユフ・フィッツロンとドルトンボルの対決。

 そして左右で、ニワ・カイチ、狼頭将軍クルーガーの戦いが繰り広げられていた。

「ニワ・カイチの担当はクイーン・ビーとその下僕を煙玉で燻り、ストーンゴーレムを地震符で粉砕。狼頭将軍クルーガーがマンドレイクとスライムを爪で裂いた。そしてドルトンボルをユフ・フィッツロンが倒したとあるの」

「何だ、ニワ・カイチがドルトンボルを倒したんじゃないのか」

「彼の魔法使いの役割は、伝説中ではあくまで後方。そも、侵入を見破った時点で務めはほぼこなしたと言ってもよかろ。物語の主人公はユフ・フィッツロンじゃ」

「……ま、そういう考え方も出来るか」

「この暗殺を阻止した功績で、ユフ・フィッツロンは聖人指定を受ける事になるのじゃが……この絵画は誰が主役か、ちゃんと分かっておるようじゃぞ」

 回廊は終わりに近付き、最後の絵画に到達した。

 高僧の前に跪き祝福を受ける、ユフ一行の絵だ。

 最前列にニワ・カイチ、そして後ろにユフ・フィッツロンと狼頭将軍クルーガーが控えていた。

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