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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第三章 遺跡と聖都の地・イフ
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三者の石碑

 寄宿舎を出た僕達は、少し離れた先にあるという石碑に向かった。

 鍋を食ったせいか、温まった身体にはこの寒さもむしろ心地が良い。現金な話だと思う。

 そして歩く事しばし、人が座れるほどの大きさの三つの台座が設置され、それぞれに分厚い石板が立てられていた。

 右から順番に、深緑隠者ディーン・クロニクル、玄牛魔神ハイドラ、そしてニワ・カイチらしい。

 石板にはそれぞれの功績と生没年が刻まれている……という話だけど、僕には読めないのでよく分からない。

 ただ分かるのは、ニワ・カイチには生没年が刻まれていないという点だ。

「保健室にも石碑はあったが、これはまた立派じゃのう」

 ケイは大きな石碑を見上げるのに、首が痛そうだ。

「というかこの三人ってある意味、敵同士だよな。一体誰が、同じ場所に立てたのさ」

 正確には二人と一人が敵同士な訳だけど。

「戦いが終わった後に、ユフ王が建てたっつー話だな。ま、死んじまえばいい奴も悪い奴もねーっつー話でな」

「ほう」

 ジョン・タイターの説明に、ケイは短く声を上げた。

「思想的には、こちらっぽくないのう。誰の影響なのやら」

 確かに、何だか太照(こっち)の思想っぽい気もしないでもない。

 ジョン・タイターも片眉を上げた。

「……地味に鋭いトコ突いてくるな。ま、誰の影響かはともかく、これを建てたのがユフ王だってのには間違いはねー」

「この順番には、何か意味があるのかや。それとも適当かの」

 そう言われてみると、僕も気になった。

 歴史的に……と言っていいのかどうか分からないけど、伝承としてならこの中での主役はニワ・カイチだろう。

 ただ、そうなると。

「真ん中にニワ・カイチだと……両方、敵に挟まれる感じで、何だかきついな」

「うん、それで正解。真ん中に玄牛魔神ハイドラの石碑があるのは、仲裁的な意味合いがある。ニワ・カイチと深緑隠者ディーン・クロニクルの仲が不仲だったって事はねーんだが、やっぱ生徒全員を生贄にしたのは、さすがにないわ」

 ジョン・タイターは渋い顔をした。

「その時、ハイドラはオーガストラ軍、攻めてくる側じゃったか。これはよかったのかや?」

 ケイが言いたいのは、ニワ・カイチの心境的にという事だろう。

「それはそれだ。敵同士になったとはいえ、元ルームメイト。相性も悪くなかった……らしいし、一番大きいのはやっぱ、当時のオーガストラ軍とイフ軍の戦いを直には見てなかったってのがあるんだろうな」

 見てなかった……? 一瞬首を捻ったが、すぐに理解した。

「あ、封印されてたからか」

「じゃが、ニワ・カイチは封印が解かれた後、結局ハイドラと戦ったのじゃろう?」

「今言った通り、そこは立場の違いに過ぎねーって見解だな。結局の所、ニワ・カイチが誰が嫌いで誰を友人と思ってたかってトコが、この配置になったって話だ」

「見事にバラバラの人生を歩んだのう……」

 そこでケイは、はたと気がついた顔をした。

「……って、考えてみれば、三人とも末路を妾はまだ、詳しく知らぬのじゃが」

 石碑を見上げたまま、その目がめまぐるしく左右に揺れる。

 が、その後頭部をジョン・タイターの指が軽くつついた。

「せっかくだから、石碑の最後を読むのはやめとけ。ネタバレが入ってるぞ」

「いや、その為に、この石碑ってあるんじゃないんですか!?」

 書いてあるのを読むなとか、それはちょっとどうかと思う。

 が、ジョン・タイターは短く笑った。

「ま、知ってる奴は読んでもいいんだろうが、どうせ現場には回るんだろ。その時知ればいい」

「現場って、別に刑事にも探偵にもなるつもりはないですが」

「さて、それはどうかね」

「どうかねって……」

 僕の脳裏に、電気街で出会った奇怪な探偵がよぎる。

「……ああいうのは、ちょっとなぁ」

 もっともあれを普通の探偵と呼ぶと、助手の人が全力で否定しそうだけれど。

「ま、大ざっぱな死に場所だけなら教えてやろう。ニワ・カイチはいまだに生死不明、深緑隠者ディーン・クロニクルはこのイフのどこか、玄牛魔神ハイドラはオーガストラ神聖帝国内……現在のシティムに当たる場所だ」

「本当に大ざっぱですね!?」

 しかも結局、教えてくれてるし。

「先に断ったろ? 全部分かっちゃ先がつまらねーし」

「生死不明……ニワ・カイチは千五百年経った今でも、行方が知れぬという事かや」

「ここまで来たら、永久に不明かもな」

「これまでの話が真ならば、この世界で死んだとは限らぬしのう。その時は、己が望みを達する事が出来たという事じゃが――」

 そこで一旦ケイは言葉を句切り、ジョン・タイターを見た。

「――もしくはまだ、旅の途中という事も考えられるの」

 そして。

「魔法使いなら、有り得るな」

 真顔で答えるジョン・タイターである。

「そういえば、ユフ王らはどう亡くなったのじゃったか」

 僕はメモを広げた。そこは、ちゃんと書いてある。

「ユフ王は墓所を見てきただろ。つまり畳……じゃないや、ベッドの上で亡くなった。初代クルーガーは戦死した……っつっても、そこまで僕達は辿り着いていないけど。二代目も王と同じで寿命を全うしたってトコか」

 ニワ・カイチは目の前の石碑にある通り、生死不明。……いやまあ、僕には読めないんだけど!

 僕の台詞を、ジョン・タイターが引き継ぐ。

「残るルパートもまた、不明。一説にはニワ・カイチとしばらく旅を共にしたって話だが……」

「ふむ」

「龍だから、普通にまだ生きているって事も有り得る……とか?」

 僕の説に、ジョン・タイターはニヤリと笑った。

「悪くない考え方だな。それなら墓も出来ていない」

「そもそも、ルパートに関しては出自も何も妾達は分かっておらぬ。完全に天涯孤独ならば、そもそも墓を作ってくれる者もおるかどうか」

「ま、その辺は……お前さん達の次の目的地であるラヴィットで、ある程度明らかになるだろうな。そういえば、よく知ってたなルパートが龍だって話」

「む? ああ、太照では有翼人じゃが、こちらでは龍だという話じゃな。前にラクストック村を案内してくれた人物が、教えてくれたのじゃ」

 そう、このルパート=龍説はラクストックの博物館で、アーサー・ペンドラゴンさんから聞いたモノだ。

「それは親切な奴もいたもんだ」

「有翼人が見栄っ張りじゃったという話も、どういう事なのか気になるしのう」

「……よく憶えてたな、そんなやり取り。僕は今、言われるまで忘れてたぞ」

 ただ思い出してみると、確かに気になる話ではある。

「自慢ではないが、記憶力はよい方なのじゃ」

 えへん、とまた胸を張るケイだった。好きだな、その仕草。お気に入りか。

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