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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第三章 遺跡と聖都の地・イフ
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ソルバース財団

 引き続き、神殿内を探索する。

 時々、僕達と同じような観光客や、地元の子達なのか引率の先生が連れた幼い学生の団体さんやらを見かけることが出来た。

 無骨だった廊下は次第に荘厳に、そして金色の縁に覆われた出入り口を潜り、大きなホールに出た。

 ドーム状のそれは講堂というよりは、コンサートホールのような印象を受けた。

 石造りの床、中央には磨かれた通路が作られ、その先に背の低い階段が続き、腰ぐらいの高さに長方形の台座があった。

「神殿だった時代の遺物のほとんどは売り払われたが、いくらか例外はある」

 ジョン・タイターは台座に近付きながら、呟いた。

「魔力とやら言うのが込められているモノじゃの」

「ああ。それ以外にも、こことかな」

 ジョン・タイターの指が、壁を背にそそり立つ、神像を指差した。

 高さは僕達の五倍ぐらい、顔が左右に二つあり、右手に剣、左手に杖を持っている。

「これは、祭壇……なんですかね」

「何の神を祀っておるのかの……説明はどこじゃろう」

 キョロキョロとケイは周りを見渡し、少し離れた所にある解説板を発見した。

 ただ、ジョン・タイターはその説明も要らないようだった。

「コイツは古代の神で、オモティノスといったらしいな。天空神の類だって話だが俺もよくは知らん」

「顔が二つありますけど……?」

「ああ、それはあれだ。昼と夜。二面性のある神様だっつー事らしいな」

「ははぁ」

 何がははぁなのかは、僕自身よく分かってないんだけど何となく、声が出た。

 多分、右が男で左が女だな、これとか、そんな事を考える。

「でも何で、これは残されたんですかね」

「少しは、自分で考えて見れたらどうだ?」

 突っ込まれてしまった。

 確かに、何から何まで聞くのも、どうかと僕も思うので、自分なりに考えてみた。

 他の古代神殿時代のモノは売られている。

 となると、これは魔力が込められていたという事だろうか。

 根拠はないけど、何となく違うような気がする。

 しばらく考え、結論が出た。

「……ここに神像がなかったら、この部屋が締まらないから、とか」

 台座の祭壇だけあっても、何だかなあ、という部屋だし。

「悪くない解答だな」

「正解は?」

「帰国してから、調べるといい」

 という事で、教えてくれなかった。

 まあ実際、帰ってから調べた訳だが、要するにこのオモティノスという神は、現代に通じる多神教の主神の源流とも言える神の一柱だったらしい。

 ……他の神様は売りさばいてもよかったのに、これは残すのは、合理的じゃないよなあと悩むのは、また別の話である。


 神殿内の巡回は続く。

「これが教室」

 ジョン・タイターに案内されたのは、広々とした階段状の部屋だった。

 下の方に、教師用の教壇が用意されている。

「大きいのう」

 ケイが、感想を漏らす。

「生徒の数が数百人……どういうクラス分けだったんだろう」

 ここには大体、百人ぐらいは入りそうだった。

「三年制だな。初級から中級までをその三年間で学び、その後は、それぞれの師匠に師事するってシステムになっている。もちろん独自に学ぶため、旅に出るモノもいるし、そのまま引退するモノもいる」

 ジョン。・タイターの答えに、ケイは低い階段を下り始める。……こけたりしないか、ひやひやしてしまう僕だった。

「つまり、魔術師としての最低限のレベルをここで学ぶと言うことでよいのかや?」

「だな。もちろん、ここに残ってさらに魔術を学ぶというモノもいた」


 大教室を出て、次の部屋は小さかった。

 が、石で出来た机と椅子があるという事はここも、教室なのだろう。

「小教室もあるのか」

 ……どうでもいいけど、尻が冷えそうだなあ、と変な心配をしてしまう。

「こっちはそれぞれの専門別の学習部屋になるな。魔導にも色々種類があるんだよ。召喚、精霊、血脈、神聖……そしてこれが」

 次の部屋は、さらに小さかった。

 というか、一人用の椅子と机しかない。

「補習部屋。ニワ・カイチはここの常連だった」

「マンツーマンじゃの」

 逃げ場、なさそうだ。

「ま、成果はほとんどなかったがな」

 はっはぁ、とジョン・タイターは笑った。


 しばらく歩くと、これまた大きな部屋に着いた。

 造りは、石で出来た長いテーブルに長い椅子。

 奥の方にカウンターがある。

「ここは――」

「分かるぞ。食堂じゃの!」

 ケイが、先んじて叫んだ。

「反応早っ!? お前は本当に、こういうのになると反応が数段上がるよね!?」

「そして奥は厨房じゃ。ゆくぞススム!!」

 僕の手を引っ張って、ケイは奥へと進み始めた。

 振り払うのも何なので付いていくが、奥を見ても何の得にもならないと思う。僕は説得を試みた。

「あのねえ、別に今、当時の飯が食べられる訳じゃないんだよ?」

「それはそうかもしれぬが、興味と好奇心は人を成長させるのじゃ!」

 躊躇いもせず答えるケイ。

「それは一理あるな」

「是非、旨い飯を作って欲しい」

「僕が成長するのかよ!?」


 そして神殿を抜け、再び中庭に出た。

 さっきと違うのは、進む先に石柱で支えられた屋根と通路、向こうにも神殿があるという点だ。

 ジョン・タイターはその建物を指差した。

「ここから渡り廊下を渡って、副神殿に通じる。まあ、魔導学院的には、別校舎って扱いになるかな」

「どう違うのじゃ?」

「本神殿が学舎(まなびや)なら、向こうは実験室だな。教師達の個人的な研究室も、あっちにある」

「ほうほう、ほほうほう」

 嬉しそうに頷きながら、ケイは石の通路を早足で進み始める。

「ええい、方向音痴なんだから先走るなって……」

 僕は追い掛け……ふと、視界の端に何か引っ掛かるモノを感じた。

「……ん?」

 左手、ところどころまばらに岩が置かれた芝生の向こうに、切り立った崖があった。

 青い作業服を着た人達が、大きな布でその岩の壁の一部を覆い隠していた。

 足場が組まれ、クレーンが動き、誘導棒を振っている人もいる。

「何すかねアレ」

「展示品か何かじゃないか」

 とジョン・タイターは素っ気ない。

 しかし、展示品にしては妙な場所というか……それに、布で覆っているモノのシルエットがどうも、妙に人工臭い感じがした。

 割と大きく、高さは人の背丈の三倍はあるだろうか。

 それも古いモノではなくむしろ新しい……()()()()()()()()()、そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そしてその布には、印象的なマークがあった。

 丸い卵を温めるように身体を丸めるドラゴンの模様。

「……ソルバース財団のマーク?」

「ぬ、そのようじゃの」

 太照なら、歴史クイズ番組の協賛をしているグループでお馴染み、ソルバース財団である。一般には考古学、医学、福利の分野で有名だ。

 作業服の人達の背中にも、財団のマークが背負われていた。

 向こうもこちらに気づいたのか、誘導棒を持った人がぶんぶんと大きく手を振った。来るなと言うことか。

「関係者以外、立ち入り禁止みたいだね」

「うむ。しかし隠されると、気になるのう」

 ま、気持ちは分かる。

「うーん……」

 何だか、妙に引っ掛かり、足がそっちに向かう……。

「そろそろ、いいか?」

 ジョン・タイターの声で、僕はハッと我に返った。

「あ、はい」

「ま、見れぬモノは、しょうがないの。いずれ、透視装置なんぞ開発してやる」

「またすごいみみっちい動機で開発しようとしやがるな、おい!?」

 しかし、案外こういう動機で、すごい発明が生まれたりするのだから、世の中分からないモノである。

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