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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第三章 遺跡と聖都の地・イフ
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狼頭将軍VSダービー

 魔導学院の中を歩く。

 無料パンフレットによると(もちろんケイが翻訳してくれた)、当時は魔法の灯りなどが照らしていたらしい。

 が、現代にそんなものはない。

 なので、灯りに模した電球が壁に設置されてる。

 と言っても点々としたそれは距離があり、昼間でも薄暗い部分が所々にあった。

 ……こんな環境で勉強してたら、目が悪くなるんじゃないかと余計な心配をしてしまう。

 学院内は象牙色の柱が目立ち、僕達を見守っているのか見張っているのかよく分からない、翼の生えた悪魔じみた石像が、柱の上から僕等を見下ろしていた。

「まるで古代の神殿ですね」

 僕の感想に、ジョン・タイターは首を振った。

「まるでじゃなくて、そのまんまだ」

 広い廊下に、ジョン・タイターの声はよく響く。

「はい?」

「この建物は、魔導学院の為に建てられたモノじゃない。もっと古く、いわゆる古代魔法文明時代に、神殿として建立されたモノなんだよ。それを、1500年前には学院に転用したんだ。だから、魔術の練習の為の広い敷地がある。外の環状列石群だって、その古代魔法文明時代の代物なんだぜ?」

「へえ、てっきりあのディーンって人が全部用意したモノかと思いましたけど」

「その辺はどうだろうなあ。あのオッサン……じゃない、ディーン・クロニクルは経歴不詳でな。一説にはその、古代魔法文明の生き残りっていう噂もある」

 するとケイが疑問を呈した。

「人間が、そんなに長生きできるモノかの?」

「アレが人間だなんて、誰が決めたんだ?」

 アレ、というのはもちろん、クロニクル・ディーンの事だ。

 うんまあ、たしかに人間離れした感じもしないでもない。

 それはケイも同じだったようだ。

「……ああ、なるほど。人間だから寿命の限界があるのではなく、限界がないから人間ではないという話になるのじゃな」

 化物じみているというか、吸血鬼っぽいというか。

 それよりも、僕としてはこの建物に関していささか気になる点があった。

「それにしたって、神殿って言うのならもうちょっとこう、装飾があってもよさそうなモノなのに」

 柱の上の化物の彫像、柱自体に刻まれた紋様。

 あるとすればそれぐらいだ。

 これが神殿だとするなら、象徴となる何かがあってもおかしくないと思う。

 それとも、偶像崇拝を禁止するような宗教だったのだろうか。有り得ない話じゃない。

 すると、後ろを歩いていたジョン・タイターが答えてくれた。

「ああ、神像だの神具だのは、魔導学院設立の資金として売っ払ったらしいぞ」

 自分でもビックリするぐらいのスピードで振り返ってしまった。

「罰当たりだ!?」

 一方、ケイは全然動じていなかった。

「じゃが、信心深いならともかく、滅んだ国の文明ではないか。それに別に置いとくだけにしておくよりは、高く買って大事にしてくれる人間に託した方が、それら道具類も幸せではないかの」

「いやまあ、そういう考え方も出来るけどさ……」

 何か冒険活劇に出てくる盗掘家みたいな理屈っぽいなあ。

 僕は呆れていたけど、ジョン・タイターはむしろ感心したようだった。

「……おぉ、まるで当時の人間のごとく、合理的だな、おい」

「む、ビンゴじゃったか」

「そのまんま全部って訳でもないがね。魔力がこもった代物とかなら、放っておかなかっただろうし」

 そりゃ魔導学院だもんな。そんなのは、大事に保管していたか、研究対象にしていただろう。


 しばらく歩くと、中庭に出た。

 学院内が薄暗かったせいで、青空と太陽に思わず目が眩んでしまう。

「む……身体が溶けてしまうのじゃ……」

「お前が吸血鬼か」

「引き篭もりじゃ!」

 えへん、と意味もなくケイは胸を張った。

「そういえばそうだったな」

 この好奇心の塊みたいな女がそれとか、時々僕も忘れそうになる。

「随分とアクティブな引き篭もりだな」

 ジョン・タイターも唸っていた。

「ですよねー。それにしても……」

 ようやく視界が明るさに慣れてきて、中庭の様子が分かってきた。

 中庭といっても、グラウンド並みの広さがある。

 そして茫々に伸びた雑草に、石畳の歩道もほとんど隠れていた。

 木々が生い茂っているけれど、どちらかといえばこれも、勝手に成長したって感じだ。

 庭の石は砕けている。

 要するに、誰も管理していない……ような印象を受けた。

「ここまでと違って、随分と荒れてるなぁ」

「ニワ・カイチの石碑で言えば第二部。無人となった魔導学院に足を踏み入れた時の話だ。ここで一旦休もうとしたユフ一行に襲撃者があった。これはその戦いの痕跡だ。ただ、荒れ放題にしている訳じゃないぞ。これでも、当時を再現しているんだ」

「……完全に放置しておるなら、雑草の茂り具合もこんな程度では済まぬの。歩道部分など見えるはずもない」

 言われてみれば、その通りだ。……どうしてこう、僕は言われるまで気づかないかなぁ。

「そして、ユフ一行を襲ったのが――」

「銀輪鉄騎のダービーじゃの」

 ジョン・タイターの台詞をケイが引き継いだ。

「え、もう分かったの?」

 すると、ケイは草が細く踏まれている部分を指摘した。

「見よ。これは二輪車の轍の跡じゃ。わざわざこれも、作ったのじゃな。そしてここまでで、二輪車に乗ったオーガストラ軍など一人しかおらぬ」

 それが、ダービー。

 確か、グレイツロープで整備をしていたんだっけ。

 あそこでは活躍はなかったけど、ここに来て再戦となったって事か。

「正解。ここで、銀輪鉄騎のダービーが部下を引き連れ襲ってきた。そして、これに応じたのが狼頭将軍ハドゥン・クルーガー。この時点では2人はまだ知らなかったが、親子対決が始まったんだ」

 ジョン・タイターが答え、ケイは中庭を見渡した。

「戦う場としてはユフ王が対峙した洞窟よりも広いし、どちらにとっても都合がよさそうじゃの」

 中庭を歩いていると、木製の看板があった。

 絵に、狼頭将軍と二輪車に乗った戦士の絵があるところを見ると、ここの解説なのだろう。

 ……はて、もう一つローブ姿の魔術師も描かれているけど?

「ふむ、説明があるの。クルーガー親子の戦いの場。そして、ニワ・カイチの魔術戦の披露の場でもあったと」

「ニワ・カイチって魔術使えないんじゃなかったっけ?」

 僕の疑問を、ケイは一蹴した。

「封印されている間に、使えるようになったのじゃろ。ふむ……主な戦闘スタイルは棍とあるの」

「それは格闘戦であって魔術じゃないだろ」

「うむ。最初に使ったのは大地を揺るがす札じゃったとあるの」

「土属性!? また不人気属性できたな!」

 すると、ニワ・カイチはRPGでいう所の精霊系術者だったって事か。

 なんて僕の推測を、ジョン・タイターは苦笑いとともに、手を振った。

「いやいや、そう結論づけるのはまだ早いぜ? この先に色々資料があるから、それを見てから判断したらどうだ?」

 ……こうして、僕達はさらに魔導学院の奥へと、進むのだった。

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