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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第三章 遺跡と聖都の地・イフ
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赤い木

「あの二人は、師匠であるディーンの魔術実験の手伝いをしていたんだ。ただ、その実験の前に騒ぎに巻き込まれて、使わずじまいだったんだが」

 ジョン・タイターは平原の方を指差し、そしてこちらに指を戻した。

 話の中ではまだ、ニワ・カイチと初代ドルトンボルの戦いが続いている。

 外骨格は砕けた。

 けれど、その後どうやって勝利した……?

「要するに外骨格の破壊はまだ、勝つための布石でしかなかった。ドルトンボルの外骨格は全身覆っててな、口も塞がれていたんだよ。それじゃ具合が悪かった」

 つまり、口が重要だった……?

「だから外骨格を砕き、顔をがら空きにした。そして、その口に師匠の魔術を突っ込んだ」

 師匠、ディーン・クロニクルの魔術。

 はて、何だったかと僕が思い出すより先に、ケイが笑った。

()()()()()()()

「そう。当時のディーンは、食料関係の研究も進めててな。この辺りだと柿が丁度よかったんだ。そして、ドルトンボルの体内に種を投げ込み、そこで魔術が発動した」

「どうなったんですか?」

 そう尋ねてから、僕も思いついた。

 いや、もう答えなくていいです。そう言おうとしたけど、遅かった。

 とても邪悪そうな笑顔を浮かべながら、ジョン・タイターはある一点を指差した。

 さっきから、僕が気になっていた、赤い木だ。

「そこの赤い木が、言い伝えの名残だ」

「うわぁっ!?」

 つまり、速効で木が成る種をドルトンボルの体内に投げ入れ、そこで魔術が発動。

 生まれた柿の木が、ドルトンボルの身体を食い破って成長した……そして血を吸って生えた赤い木が今も残っている……という話になる。

「あ、あ、赤いのって、そういう事だったんですか!?」

「千年以上も赤さを保つとは、大したモノじゃのう」

「いや、そんな冷静に言うなよ超怖いよ!? まるっきりホラーだよこれ!?」

「こうして、初代ドルトンボルとの戦いは終わった。まあ、ニワ・カイチは手柄を全部、ハイドラに預けたんだが」

「何で」

 よく分からない。

 自分の手柄にして、何か問題があるのだろうか。

「当時のニワ・カイチは必死に、自分の世界への帰還方法を模索してたんだ。変に重要視されると困った事になるんだよ」

「ああ、仮に全てが終わっても、帰らせてもらえぬという事も有り得たの。何せ、自分の魔術も使わず六禍選の一人を倒してのけたのじゃ」

 当時は魔導学院も健在だった。

 研究材料としての価値はなるほど、充分ある。学院が元の世界に帰還する方法を仮に発見しても、隠蔽するかもしれない。

 そういう事なら、ハイドラに手柄を全部預けても、不思議はないか。

「でも、手柄を譲られたハイドラの気持ちはどうなんだろ」

「だから、直後にハイドラは魔導学院を出たんだよ。武者修行の旅だ。もちろん、無許可でな。そしていつか学院にいるニワ・カイチと戦う為、オーガストラ神聖帝国の幹部になった」

 ジョン・タイターは頭をボリボリと掻いた。

「ひとまずパロコは魔導学院が預かり、後にザナドゥ教団の元に届けられた。これでパロコの身は守られ、オーガストラ包囲網が作られようとした……訳だが、まあ、それから数年後、結局オーガストラ神聖帝国の侵攻は、止まらなかったって結末になるんだな」

「では、ニワ・カイチ達の行動は無駄だったという事かの」

 パロコは守れても、結末が同じなら……いやでも無駄な人死にがなかっただけ、よかったんじゃないかと僕は思う。

「ところが、無駄じゃなかったってのが人生の面白いところでな。この話の続きはまた、別の場所で……って事になるか。もっとも、タイミング的に俺が話す事になるかどうかは分からねえが……さて、次に行こうかね」

 ジョン・タイターはベンチから立ち上がった。相変わらず焦らす人だ。

「うむ。ちょうど足も休まった」

「って自転車漕いでるのって、殆ど僕だよね?」

 しかしケイは僕の話なんてまるで聞かずに、先を進むのだった。


 自転車で走る事しばし、それほど時間を掛けずにつぎの目的地に到着した。

 既に魔導学院の敷地内らしく、そりゃ確かに各遺跡の間隔が遠かったら不便だろう。

 到着したのは、大きな石を組んだ、建物だった。……まあ、建物と言っても、平たい岩を三方に立て、その上に屋根となる岩を置いただけの代物だけど。

「ここは、霊力を高める石室だ。ちゃんと中には入れるようになってる」

 唯一開いている、口に当たる部分は下り坂になっており、中には……何もなかった。

 ただ、薄暗い空間が広がっている。幸い昼間なので石で出来た部屋の全景を見渡せるが、夜になると完全に真っ暗だろう。

「おお、ちと寒いの」

「冷気が保たれてるのかな」

 夏だったらちょうどよかったかもしれないが、この寒さだと厚着をしていても少々きつい。

「地面の霊気をくみ取り、これを魔力にする装置だな。前の墓石群が人の体内から魔力を精製しようとしたのとは逆に、これは外の魔力を集めるのを目的としていると言われている。……まあ、これで賄いきれなくなったから、あの無残な光景が生まれた訳だが」

 平原に広がった墓石群を思い出す。

「発電機みたいなモノですか」

「その認識で、間違ってないな」

「人間から汲み取れる魔力とやらは、これと比較してどれほどなのじゃ?」

 ケイの問いに、ジョン・タイターは腕組みして唸った。

「これが一基の発電機として、人間の魔力ってのはそうだな……自転車タイプの発電機を想像してもらえれば分かるか。頑張れば車ぐらいは動かせるだろうよ」

「ニワ・カイチはどれほどの魔力を持っておったのかの」

「元々は、まあ平均的な魔力の持ち主……魔導学院の水準での話な。だからこそ、召喚されたって事らしいんだが……まあ、その後、自分で鍛えて、自力魔力精製では学院内でもトップクラスだったって事になる。電力で例えれば、高速列車走らせるぐらいは出来たかな。もっともこんな真似、誰もしなかったから、当然と言えば当然なんだがな」

「何故です?」

 自力で魔力を精製出来るのなら、便利だろう。

 なのに、何故誰もそれを試みなかったのか。

「だって当時は周りに魔力が満ちてるのに、わざわざ自分で魔力精製しようなんて思わないだろ」

 ふーむ、と今度はケイが唸る番だった。

「ニワ・カイチは……本来いる世界には、魔力が少なかったのかの? じゃとすれば、その行動も腑に落ちるの」

「何で」

「問答無用でこの世界に送られて、手土産も無しに帰れるモノかや?」

 言われてみれば、それはあるかも知れない。僕もちょっと似たような状況にあるけど、少しは得るモノを持って、国に帰りたいと思う。

 魔導学院で何かを習ったとしても、それを自分の国で使えないでは話にならない。

「ホント、勘の良い子だな。それが正かぃ……学者の間でも、それが妥当だって学説で納まってるぜ」

 何故か、ジョン・タイターは途中で言い直した。

「現代は確か、魔力が少ない……んじゃったかの」

「昔に比べれば、そうらしいなぁ。ま、俺も当時の事なんて知らないけどさ」

「ならば、例えば現代に魔術師がいても、魔術は使えるのじゃな」

「何でそんな話をする?」

「青羽教とか、不思議な術を使うと聞くではないか」

「ああ、なるほどね。青羽教は多くが有翼族だし、空を飛ぶ分には不都合はない。それに例えばこういう古い場所で、魔力を得るって方法もあるぜ」

「なるほどのう」

 ……何故だろう。この二人のやり取りが、妙に狸と狐の化かし合いみたいに見えるのは。

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