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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第三章 遺跡と聖都の地・イフ
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イフに向かって出発

 翌日。

 まだ日も昇っていない部屋で目を覚ました僕は、現状を認識した。

 寝ぼけた頭など、吹っ飛ぶ展開。

 ……というほど、大層な話ではない。

 幸いなことに、ケイは服を着ていたし、彼女の父親にぶん殴られるような展開にはならずに済んだ。

 と、思う、多分。

 困った点があるとすれば、僕が抱き枕にされているという事ぐらいである。

 身体の左半身に、しがみつかれていた。

「……これは、今起きられると、僕が被害者になるのか?」

 読んだことのあるラノベとかだと、大抵この後ヒロインが目を覚まして悲鳴を上げて何故か、主人公が引っ叩かれるのである。

 正直あれは理不尽だと思う。

 ホテル据え付けの目覚し時計のアラームが、甲高い音を鳴らす。

「んむ……?」

 そして、タイミングよくか悪くか、ケイもちょうど目を覚ました。

「先に言っておくと、僕は被害者側だからな――そしてこの展開も読んでいた!!」

 僕はとっさに、太股を締めた。

 そしてそこに硬いモノがぶつかってくる感覚。膝だった。

「あ、危なかった」

 もしもあのまま喰らっていれば、股間の急所が大変な事になっていただろう。

「お、おー……」

「って感心してないで、離れろ。そろそろトイレに行きたい」

 僕はケイを解き、ベッドを下りた。

「ぬぅ……妾も行きたいのじゃが」

「少しだけ我慢してくれ。僕の方が早いはずだ」

 なお、この時に触り心地などに関しては割愛させて頂く。

 っていうか書いても多分、チェックの時点でケイに削られてると思う。


 ハリストホテルから出たのは、朝の六時四十五分。

 昨日に比べれば、ずいぶんとのんびりしている。

 このホクフィールドの大通りも、夕方や夜の繁華街とは異なり、何というか祭の後か、さもなければ祭の前か、そんな雰囲気だ。

 明け方まで開いていた酒場の店員さんが、ゴミ出しなどをしている。

 石畳を走る車も、どこかのんびりしていた。

「ふああぁぁ……」

 そんな中、大あくびをするケイの手を引いて、僕は鉄道の駅を目指していた。

 私鉄のニアイアン鉄道というのが、イフまで一直線に行けて、しかも安上がりなのだという。

「別に寝ぼけてても良いけど、必要な時はちゃんと起きててくれよ」

「分かっておりゅ……」

「語尾からして、既に不安だ……!!」

 そしてホテルから歩く事五分、到着したのは地下への階段を開いているビルだった。

「えーと……確かここの地下を経由するんだっけか。ここでいいんだよな?」

 蒸語は分からなくても、読む程度なら出来る。

 ニアイアン、それに鉄道。

 大丈夫の筈だ……が、確認する相手が頼りにならない。

「うみゅ……」

「寝ぼけてるなら、駅弁はいらないな。向こうに着いてからでいいか」

「それは、駄目じゃ!」

 ケイは、一瞬で目を覚ました。

「……お前、ホント食に掛けては妥協しないよな」

「人生で食べれる飯の量など、限られておる。ならば、より旨いモノを食う方がよいに決まっておるではないか!!」

 一理あるようなないような、まあもしかすると人生的な格言を述べ、ケイは階段を駆け下りていった。


 駅の売店では、カップケーキ型のパイを売っていた。

 という訳で、ミートパイ、シーフードグラタンパイ、それにポテトサラダパイとトマトスープを二つ購入した。

 売っている新聞を見て、怪盗騒動の顛末も気になったけど、読めないので諦めた。

「買えば、読むぞよ?」

「それだけの為に買うのもなあ。政治や経済は、今の僕らには関係ないだろ?」

「テレビ欄!」

「どこで見るんだよ、テレビ」

「ううむ……開発しておくべきじゃったか」

「電波法に普通に違反しそうだよな、それ。ま、ニュースなんてどこかで目にする機会もあるだろ。その時教えてくれよ」

「らじゃったのじゃ」


 一番出発時間の近い列車に乗り、向かい合わせの四人席を選ぶ。

 そこそこ乗客はいるようだったが、相席になるほどではなかった。逆に、グレイツロープで下りる人の数は、そりゃもうものすごい数である。


 列車は当然、地下から出発だったが、二駅ほど進むと地上に出た。

 まだ、頭の低いビルが並んでいる風景を眺めながら、僕達は朝食を取る事にした。

 パイは出来たて……というほど熱くはないが、充分に温かい。スープも程良い温さだ。

 ただ、不満がないでもなかった。

「そろそろ、米の飯が恋しくなってきたのじゃ」

「それに関しては、同感だね。これはこれで旨いけどさ」

 というのが、僕らの共通認識であった。

 太照人の主食は米なのである。

 人心地ついてから、僕は手帳を広げた。

「それじゃ、今日のスケジュールをおさらいするぞ」

「うむ。まずは古代遺跡群じゃったな」

「そう。イフ駅に到着してから、そのまままたバスに乗ってトモロカって街に移動する。でまあ、封印の巨大石や魔導学院の見学。それが終わったら?」

「イフに戻って近くにあるという、寺社施設の観光じゃの。フェアニクス大聖堂が一応、一番有名な観光地じゃの」

「そ。このイフにも国立博物館があるけど、これは時間があれば……ってトコかな。閉まるのが二十時だから、ま、十九時までに入れなければ諦めよう」

「うむ」

 そういう事になっていた。



 イフ駅に到着した。

 列車から降り、駅を出るとこう、とてもだだっ広い。

 多分石造りの広場が、やたら余裕があるせいなんだろう。

 それと、グレイツロープが雑然としていたから、自然とそれと比較しているのかもしれない。

 空気は気のせいじゃなく、澄んでいた。

 この広場は二階にあり、つまり駅の改札出口も二階にあった。

 これを縦断し、幅の広い階段の下を見て、僕達はさらに驚いた。

「ここは、グレイツロープほどじゃないにしても、ちゃんとした都会なんだよな」

「そのはずじゃが……ううむ、すごいの」

「ああ、すごい」

 階下には、公園が広がっていた。

 正面には石畳の並木道が一直線に進んでいるが、その左右は芝生が広がっている。

 これだけならまだ驚かないが、その公園には動物が放し飼いになっていたのだ。人ぐらいの大きさの草食動物で、頭にはたてがみと立派な二本の角が生えている。そのたてがみは背中を続き、尻尾の先端にも炎のように集まっていた。

 階段を下り、僕らはバス停を探した。

「野生の動物が放し飼いになってるとか、どうなってんだこの街」

「それにしても、ずいぶんと人に馴れた獣じゃのう。確かスークと言うたか」

 なるほど、行き来する人々にも僕らにも、まるで怯えた様子はない。

 のんびりと、芝生の草を食べていた。

 スークというこの草食動物は確か、この付近では神の遣いとして扱われているとか、何か昨日、ケイがネットで調べてくれていた。

「……背中に、乗れぬかのー」

「って神の遣いに気安く乗ろうとするな! 地元ニュースで悪く書かれかねないぞ!」

 僕は不埒な考えを起こしているケイを止め、ふと駅を振り返った。

 古城のようなビルの下、つまり大階段の裏側がバスのロータリーになっていた。

「ここからさらにバス乗り継ぎか……先に、寺社施設でもよかったかな」

「この時間ではまだ開いていない施設も多かろ」

「グレイツロープ城もそうだったし、それもそうか」

 バスは定期的に出発しているらしく、僕達はさして苦労することなくトモロカ行きのそれに乗ることが出来た。

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