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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第二章 巨大都市・グレイツロープ
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帰国のニュース

「まあ、今更部屋はチェンジ出来ないっぽいしなぁ……」

 当然ながら、テレビの音声は蒸語であり、僕には何が何やらサッパリだ。

「じゃが、代わりにノートパソコンを入手したのじゃ!」

 ケイが、銀色のノートパソコンを掲げてみせる。

 そして据え付けのデスクに置くと、LANケーブルと接続し、電源を入れた。

「正確にはレンタルだろ」

「一時期でも、妾のモノじゃ。……うむ、スペックはいまいちじゃのう」

 何か、僕には理解出来ないスピードでキーボードを叩き始めた。

 いやそれ、パソコンの方でちゃんと反応してくれるの? ってレベルの指捌きだ。

「ホテルのレンタルPCに高スペック求めるのは、酷すぎだろ」

「ぬぬぬ、これでは画面もせいぜい五つぐらいしか開けぬのじゃ」

 そういうケイが使っているパソコンの画面を見るとなるほど、ニュースっぽいページが五枚ほど展開されていた。

「参考までに普段は、どれぐらいの画面を使ってるんだ?」

「軽く三十じゃの」

「多すぎだろ!? 頭の中、しっちゃかめっちゃかになっちまうぞ!? しかも今軽くって言ったな!?」

 今更、ホラとも思えない僕である。コイツなら本当に、三十枚画面なのだろう。それも、ページではなくディスプレイの数でだ。

「まあよい。ひとまずは主要なニュースを見れればよいのじゃ」

 こちらの文章もやはり、蒸語で僕は写真で察するしかない。

「テレビも点けてるんだけど」

「うむ、六つに増えたの」

 テレビの画面は、ガストノーセンの政府だか何だかの話題が流れていた。

「政治はサッパリ分からないなあ。あ、通訳もいらないぞ」

「ま、今の妾達には関係ないの」

 そこで、僕はほとんど関係ないことを思い出した。

「あ、関係と言えばこういうホテルって、チップとかどうしてるんだろ。昨日は教会だったから、遠慮されたけど」

「妾達には縁遠い習慣じゃからのう。基本、自分達で殆どこなしておったし。チップならば、出発前に置けばよかろ」

「そういうもんか……」

 特に疑問の余地はない。この辺は、ケイの事を信用することにした。

 と、政治関連のニュースが終わり、百貨店の画面が映った。

 蒸語でも、泥棒とかそういう単語は分かるし、予告状っぽいモノも映っていた。怪盗ソンゴクウ、という人物に関するニュースだ。

「って、あ、怪盗のニュースだぞ、ケイ」

「むむむ。まだ現れぬのか」

 まだ、午後の七時だ。

 多分、閉店してからじゃないかなあと思う。

 画面は店内の展示品、ガラスケースに入った古い時代の武器を映していた。

 それが切り替わり、今度は建物の前の中継になった。通りは、怪盗を一目見ようという野次馬達なのだろう、人でごった返しているようだった。

「すごい人混み、行かなくて正解だったな」

「うむ。興味はあったが……」

「……賭けてもいい。僕らのどちらか、あるいは両方が迷子になってただろう」

「であろうなぁ」

 これが僕達が物語の主人公ならば、現場に居合わせひょんな事から怪盗だか探偵だかと出くわし事件に巻き込まれたりするんだろうけど、残念な事にただの一般人なのである。

 運動神経も特にない、せいぜいゲームが趣味の学生に、そんな華々しい逸話(エピソード)は存在しないのだった。

 一方画面は六車線もある巨大通りに長く黒い車が次々と止まり、人々が下りていた。

 格好は通常のスーツ姿のモノもいれば、何だか薄汚れたジャケットの人もいる。

 ひい、ふう、み……八人か。

 人混みが二つに分かれ、ビッグサークル百貨店の入り口に彼らは入っていく。

「で、何て言ってるんだ?」

「各国の探偵達が、次々と入場している……と言うておるの。世界中の探偵達が組んだという事じゃ」

 なるほど、電気街で出会ったハドック何たらって人も、友人と一緒にちゃんといた。

「へー。あの人、そんなにえらい人だったのか」

「ハドック・アパルト。ほう、これはなかなか立派な経歴じゃのう……依頼の数だけならばじゃが」

 ケイがPCを操作して、感嘆した声を漏らした。

「ど、どういう事?」

「結果として、事件の解決はしておるのじゃが、どうも眉唾っぽいというか、本人も言うておった通り、幽霊だのUFOだのが絡んでおっての。イロモノ探偵呼ばわりじゃ。そういう意味では、依頼者などをボカした半ドキュメンタリー小説である、ラフィーク氏の事件簿はなかなか売れておる。というかむしろ、それが主な収入のようじゃの」

「執筆業の方が売れてんの!?」

 そんな人が、今回の事件よく受けたもんだ。……ああいや、まあある意味、怪盗なんてアナクロな犯罪者相手なら、正しいのかもしれないけど。

 それに……と僕が考えていると、ケイが首を傾げていた。

「ま、しかしこの仕事、上手く行くかのう」

「っていうと?」

「船頭多くして船山に上るを地で行く展開ではないか。チームワークなど期待出来るとは思えぬのう。……まあ、かの御仁がそのようなモノに翻弄されるとも思えぬが」

 探偵が多すぎる、という訳か。

 確かにあれじゃ、誰がリーダーになっても揉めそうな気がする。

「マイペースっぽかったもんなあ、あの探偵さん」

「うむ……っと、おお、妾達に関わりのあるニュースが出たぞ」

「あー」

 怪盗ソンゴクウ関連のニュースが終わり、今度は空港に画面が切り替わった。

 空港内の長い通路を歩く、薄緑色の制服の一行……小兵地上級私塾の面々だ。これから帰国なのだろう。

 単に外国の修学旅行生の帰国がニュースになるはずもなく、つまり帰国せざるを得ない事件があったという事だ。

 つまり、僕達……というか主に僕の失踪な訳だが。

「これでもう、後戻り出来ないな」

「お主、今更であろ」

「まあそうなんだけど」

 ケイの通訳によると、自由時間の最中に学生が一人で行動し行方不明になった、と端的に言えばそういう事になっているらしい。

「やっぱりそういう扱いになってるかぁ……」

 生徒達へのレポーターの取材もあった。

 僕に対して自分勝手だと怒っているのはまだ分かるけど、心配そうな振りをするのはどうなんだろう。この取材を受けている子はクラスメイトだけど、多分僕の名前すら今回まで知らなかったと思う。

 K原達は……ああ、顔色が悪いな。ちょっとだけ溜飲が下がった。

 ただ現状、僕に全て原因があった、という事は覆っていない。

「ここで釈明する訳にもいかぬしのう」

「証拠ないもんなー。向こうは三人だったし、最良で相討ちだろうし」

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