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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第二章 巨大都市・グレイツロープ
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食の続きと相部屋問題

 三食目は軽く、子ひつじ入り野菜スープを選んだ。

 コンソメ風味のスープの中に、細かく刻んだ子ひつじが混じっている。

 これをスプーン型に整形した乾パンで掬って食べるのだ。

 薄く感じたけど、これはさっきやたら濃厚な料理を食べたせいだろう。

 ケイはトマト味のスープで、こちらも酸味が利いていて、すぐになくなってしまった。

 トッピングでパスタ入りもあったが、さきほど食べたばかりなのでこれは諦めた。


 最初の場所に戻り、僕達は橋の方を見た。

 一旦、膨らんだ腹の休憩だ。

「ここが、あのアルファベルト橋か」

 橋の幅は、トラックが二台並んでも渡れそうなぐらい広い。

 そして、渡る人とは別に縁に沿って待ち合わせなのか立っている人達の姿も目立つ。

「待ち合わせとしては、さっきのドルトンボル人形と双璧といった感じかのう」

「目印としては、確かに二つとも分かりやすいな」

 そういえば、ドルトンボル人形の足下にも、人は多かった。

「お、見よ! 何かテレビの中継のようじゃぞ!!」

 ケイが指差した先には、大きなカメラや集音マイクを構えたテレビスタッフが通りすがりの人に取材をしていた。

 男性のレポーターだし、ニュースというより何かのバラエティっぽい。

 って、それどころじゃなかった。

「馬鹿、万が一僕達が映ったら、まずいだろ!?」

 僕は好奇心からテレビスタッフに近付こうとするケイを、抑えた。

「そういえば、そうじゃったの」

「……今、本気で忘れてただろ、お前。さっき警官で警戒してたばかりなのに」

 橋の手前には、石碑がある。

「龍神伝説じゃな。この川に龍が棲んでおったのじゃ。そして、地の神水の神と呼ばれてたそれと勇者ユフ、狼頭将軍クルーガーは戦い、力を示した。助力を約束した龍神は、グレイツロープ城攻略戦の時、その誓いを果たし、その一部を切り崩した――とあるの」

 ケイが、石碑の文を読み解いてくれた。

 僕は手を二度叩き、黙祷した。

「こういう場合って、この祈り方でいいのかな?」

「気持ちの問題であろ」

 ケイも僕に倣い、黙祷する。

 それを済ませると、僕達はテレビの取材を避けて再び歩き始めた。要するに買い食いの続きだ。


 最後に、鮭とポテトのタルタルピザのカットを買った。

 同じ物を買ってもつまらん、とケイは主張し、こちらはミートソースを下地にしたグラタンピザ。

 当然、どちらも焼きたてである。

 さすがに四食目ともなると腹も膨れてきていたが、チーズが垂れないように必死に食べていたら、いつの間にか食べきっていた。

 僕が買った方はオーロラソースが掛かっており、何というかピザ生地も悪くないけどご飯が懐かしい気分にさせられてしまった。

 思っていたよりもあっさり目の味で、これなら軽く一枚平らげられたかも知れない。多分錯覚だろうけど。

 ケイに分けてもらったグラタンピザは、僕のよりもチーズが多く細かなマカロニも混じっていた。

 マカロニ、ミートソース、かみ砕いた生地が溶けたチーズと一体となって、飲み物のように喉を流れる不思議な食感だった。


 そしてお土産というか晩飯用に、やたら肉の分厚いローストビーフのサンドウィッチと香茶のお持ち帰りで、この食べ歩きに幕を閉じた。


 そして。

「うう……」

 さて、これからどうするかと迷っていると、ケイが腹を押さえて僕にもたれかかってきた。

 まさか、食べ過ぎで腹に不調が……。

「眠いのじゃ……」

「って動物かお前は!? せめて宿を取ってからにしてくれよ!?」

「妾はもう駄目じゃ……」

 どうやら脳味噌に行くはずの血が、消化のために胃袋に行ってしまっているらしい。こんな街中で、本当に眠ってしまいそうだ。

「このまま寝たらビンタ百連発だぞ。言っとくけど、このサンドウィッチセット持ったまま、お前担いでいくとか体力的に無理だからな」

 僕はケイの腕を取って歩き出した。

「う~~~~~、頑張るのじゃ」

「そうだ、その意気だ。もうちょっとだけ耐えてくれ……っていうか宿、どうしよう」

 歩きながら、考える。

 宿を取ることは確定だけど、この辺りにはちょっと見当たらない。

 かと言って、当てもなく歩くのも効率的ではないだろう。

「もう一度南下して、ホクフィールドに行くのじゃ……確か、宿の看板があったぞよ」

「よし、それで行こう。幸い懐は暖かい。無駄遣いしなきゃ、金銭面の心配は殆どしなくて済む」

「妾の手柄じゃー……」

 ほとんど足が動かず僕に引きずられながらも、ケイは胸を張った。

「って、一応頑張ったのは僕なんですけどねっ!!」


 そして、ホクフィールド。

 南下したとは言え、まだまだ繁華街の中にある。

 大きな通りから少しずれた、やや汚れた路地にそのホテルはあった。

 名前をハリストホテルという。

 外ほど汚れた印象はなく、ちゃんとした宿泊施設だ。申し訳ないけど年齢の都合上、身分に関してはちょっと詐称させてもらった。

 それも問題だが、もっと直接的な難題が、僕には待っていた。

「……お前、安上がりな方法があるっていうから任せたけどさ」

「しっかり安くなったではないか」

「倫理的に問題あるだろ!? 年頃の男女が同じ部屋とか!!」

 そう、僕達の泊まる部屋は、いわゆるダブルだった。

 つまり、寝床は大きなベッドが一つあるだけだ。うん、シングルよりは確かに安いけどさあ……。

「ススムは妾を襲うのかや?」

「襲うか!!」

「ならば、問題なかろ」

「いやいや、大いにあるだろ!? どれだけ僕がヘタレでも、それとこれとは話が違う。大体寝るのはどうするんだよ!? ベッド一つしか無いじゃん!? 僕に床で寝ろって言うのか!?」

「騒々しいのう。料金的に考えて、おそらく壁は薄いぞよ?」

 その指摘はもっともだったので、僕は慌てて口をつぐんだ。

「それに、何故お主が床で寝るという発想になるのか、分からぬ。一緒に寝ればよいではないか」

「い、一緒にって……」

 コイツには、貞操の危機とかその辺の観念とかどうなっているんだろう。

 しかし、動揺する僕に逆に調子に乗るのがケイである。

「ふふーん? さてはお主、妾に欲情するのじゃな」

「な――」

「まあ、きゅーとな妾に淫らな劣情を抱くのは仕方がないかもしれぬが、駄目じゃぞ。妾の操は固いのじゃ」

「だったら一緒の部屋にすんなーっ!!」

 隣室の事など忘れて、僕は思いっきり突っ込んでいた。

 そして、諦めた。

 そもそも、同じ部屋を選んだのはコイツであり、僕は別に変なことをするつもりはない。ならば、何の問題も無い。ないのだ。

「……っつーか、そういうのはなしにして、同じベッドでは寝るぞ。僕だって疲れてるんだ。実際、床に入ったら睡眠以外の余裕なんて多分無い。つかさっきまでのお前の眠気は一体どこに消えた」

 要するに開き直った。

「歩いてたら、消えたのじゃ。……サンドウィッチを食べるには、もうちょっと我慢かのう」

「さすがに今はもう、食えないだろ……」

 呆れながら、僕は液晶テレビのリモコンに手を伸ばした。

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