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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第二章 巨大都市・グレイツロープ
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ゲームセンターにて

 喫茶店を出た僕達は、この界隈で一番大きなアミューズメント施設、砕いた言い方をすればゲームセンターを訪れた。

 大きな建物は、多分八階はある……まあ、上の方は飲食店のようだけど、少なくとも一階から四階、それに地下はまるまるゲーセンのようだ。

 太照ならば真新しいビルディングなのだろうが、この国は景観を守る法律でもあったか、とにかくどこか古めかしい。

 ……少なくとも、中程に時計台とか、ないよなぁ。

 何て心配しながら、石造りの建物に入った。

 いや、入りかけた。

「にょわっ!?」

 という悲鳴と共に、ケイがこっちに弾き飛ばされてきたのだ。

 幸い、僕でも軽くキャッチ出来たが、何が起こったのかと思えばどうやら、出て来た人達にぶつかったらしい。

 相手は三人組、中央のサングラスを掛けた金髪の青年が、リーダー格のようだ。歳は、よく分からないけど多分大学生ぐらいだろうか。派手な赤いコートも妙に輝いていて、何だか僕はクジャクを連想した。

 左右にいるのは、どちらも黒のジャンパー。右が四角く左が丸い印象だ。双子という訳でもないだろうけど、とてもよく似ていた。

 そしてケイはといえば、そんな赤コートに威勢よく怒鳴っていた。

 それに対し、赤コートも怒鳴り返す。

 ただ、身内のひいき目から見てもさっきのは、向こうがぶつかってきたように見えた。非は向こうにあったように思える。

 と、言葉の分からない二人のやり取りが白熱してきた。左右の角丸コンビが止めようとするが、赤コートの頭は相当に血が上っているようだ。

 ……想像だけど、相当ケイは口汚く罵っているようだった。

 そして、赤コートはいよいよ拳を振り上げた。

 何となく、そうなるような気がしたので、僕は二人の間に割って入った。

「言ってる事は分からないけど、ぶつかってきたのはそっちですよね」

 ちなみに普段ならこんな事、ビビってまずしない。出来たのは、言葉が分からなかったお陰だった。

 すると赤コートは、今度は僕の胸倉を掴んで来た。

 顔を真っ赤にして怒鳴っているが、サッパリ理解出来ない。

「だから、何言ってるのか分からないんですよ。ケイは訳すなよ。逆にビビッちゃうから」

 周囲に人が増えてきたのを見て、角丸コンビが赤コートを諫めた。

 ようやく赤コートは僕から手を離し、舌打ちをして去って行った……やれやれ。

「マナーがなってないな」

「ゲームセンターが恐ろしい場所というのは、噂通りじゃのう……」

「何十年前のソースだよ。あれは希少種だと思うぞ? ……いや、外国だと普通なのかもしれないけど」

 ちょっとしたケチが付いたけど、どうやら災いは去ってくれたようだ。

「とにかくま、気を取り直して入るとしよう。連中は出てったんだから、もう安心だろ」

「な、何か活力に満ちておらぬか」

「ああ、この不健康な空気、久しぶりだ。安心する」

 中から聞こえるジャラジャラというメダルゲームの音やチープな電子音が、懐かしくてたまらない。

「なるほど、ジャンル的にお主のホームグラウンドであるのじゃな。ならば、止められぬわ」

 というケイの台詞を後ろから聞きながら、僕達は中に入った。

 人の入りは平日だけにあまりない……かと思ったら、一角に集っているようだった。

 この雰囲気は、知っている。

「何かイベントか」

 ちょっと背伸びをしてみたら、インカムをマイク代わりにしている司会者らしき人もいるようなので、間違いないようだ。

「ゲームの大会らしいの。ハイブリッド・ナンバー。知っておるかや?」

「格ゲーか。しかし平日の昼間にやるかね」

「よく分からぬの。しかし、このイベントが今から行われるのも事実のようじゃ」

「今から?」

「今から」

 多分、僕の顔は相当渋くなっていたと思う。

「うわ、面倒臭いな。人が増えるじゃないか」

「では、もう出るかの?」

「いや、やる。せっかく昼飯分浮いたし、その分楽しむ」

 なるべく、あの集まりから離れたゲームを見ていく。

 通常のゲーム筐体の他に、部屋の隅にはビリヤード台やピンボールも置いてある。なるほど、ああいうレトロなゲームも、この国では需要がある訳か。

「ふむー……妾は見に回らせてもらうとしよう」

「お前はやらないの、ゲーム?」

「嗜む程度じゃの。他の趣味や仕事の方が楽しいのじゃ」

「そうか。……ならまずはあっちのをやらせてもらう事にしよう」

 僕は部屋の一角を占める、大型のゲームコーナーを目指した。

 まさか、外国に、このゲームがあるとは。

 トレーディングカードアーケードゲームの7THソード・チャンピオンズリーグ。今年始めに出た、団剣のゲームだ。

 観覧者用の大型ディスプレイも付いている。

「む、知らぬゲームじゃ」

「大型筐体専用だし、引き籠もりは知らなくて当然だろな」

 筐体は正面がゲーム画面、テーブル部分がカード操作用のディスプレイとなっている。

「団剣のゲームじゃの」

「ああ、ただしプレイヤーは監督だ。ああやってカードを動かす」

 僕はテーブルでカードをスライドさせている、他のプレイヤーを指差した。

「ふむ。しかし七年目、というのはいささか古すぎやせぬか?」

 ゲームの説明は、もちろん蒸語だ。

 このゲームは団剣世界大会の、第七回を舞台にしている、というのをケイも読んだのだろう。

「七年目の世界大会は歴史上存在しない。大戦があったからな。ナンバーこそあるモノの、公式大会は六年から八年まで跳ぶ。これは架空の七年目。最初の大会から最新の第二十五大会までの選手の組み合わせで、最強のチームを作って戦うゲームだ」

「そりゃまた壮大じゃのう」

「さっきみたいな実際にやるゲームより、僕としてはこっちが専門でね。……カード持ってくればよかったな。こりゃ選手は完全に運次第だ」

 筐体の横には、カードの販売機がある。他国のマイナー選手が出ても困るので、太照スターターパックを選択した。

 封を切ってみると、もちろんこれも蒸語だ。

 ……蒸語のカードってのもある意味、記念になるかもしれない。

 自国の選手は何となく把握しているし、特殊能力はケイに説明をしてもらったので、つつがなくプレイすることが出来た。

 ゲーム自体は太照のと同じだし、少しずつ勘を取り戻していく。

 と、何だか後ろが騒がしい。人が集まってきたようだ。視線も感じる。

「ギャラリーが増えてきたな」

「……今振り向かぬ方がよいぞ。多分ビックリする」

 大したプレイもしてないのになーと思いながらも、何とか試合終了。

 うん、リョーマ国相手に3-0のストレート勝ちとは、我ながら頑張った。

 と、自己満足に浸っていると、後ろから盛大な拍手が響いてきた。

「うわ……っ!?」

 振り返ると、想像以上のギャラリーが観覧用ディスプレイや僕らの周りに集まっていた。口笛を吹くモノや、あ、ブックメーカーの管理者らしきお兄さんまでいる。

「この国の人間は、ノリが良いなぁ」

 そんな感想を抱きながら、席を立つ。

 ケイも寄ってきた。

「大もうけしたのじゃ!」

「ってお前も賭けてたのかよ!?」

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