ガストブリッジ電気街
大樹から少し離れた所に置かれてある、二つの墓に向かう。
正確には一つの場所に二つ墓石がある、要するに同じ墓所だ。
グレイツロープ城にあった石碑と並び方は同じだ。
一つは初代狼頭将軍、ハドゥン・クルーガー。
もう一つは二代目狼頭将軍、ケーナ・クルーガー。
手を合わせて拝む。
神父に案内されて、奥にヒッソリとあった紅き魔女ズッキーニの墓にも参拝させてもらった。
その後、寺院内で販売されている御守りを買う事になったのだが……。
「ここは、俺が出しておこう」
と言ってくれたのは、アヌビス父だった。
「え、いや、そんな悪いですよ」
「いやいや、君達には世話になったからね。これぐらいのお礼はさせてもらわないと」
そうは言われても、特に世話をした憶えはない。
さすがに、ケイもそこまで図々しくはなれないようだった。
「えーと、その何じゃ。妾達は娘と手合わせしたぐらいじゃぞ?」
「なあ?」
僕達は頷き合う。
が、アヌビス父もなかなかに押しが強かった。
「じゃあ、そのお礼で。これが武運が上がる狼の御守り。こちらが健康運の上がる紅き魔女の御守り」
と、勧めてくれたのを、結局僕達は手に入れたのだった。
狼の横顔の銀細工と、赤い宝石の御守りを、僕達はそれぞれのバッグにつけた。
「……攻撃力アップと体力がアップしちゃったよ」
その後、寺院を出た僕達はクルーガー家のみんなの案内で、無事地下鉄の駅に到着することが出来た。
まだ、グレイツロープ城は見上げるほど大きい。
が、これでひとまず、ここでの僕の目的は達することが出来た。
何となく頭を下げ、クルーガー家の人達にもお礼を言い、僕達は地下鉄に乗った。
時間は十三時半。
車内はそれほど混んでなく、半分がスーツ姿、半分が若者老人と言った感じだ。
学生はまだ、授業中なのが殆どと言うことなのだろう。
「さて、寝るなよ」
楽に座ることが出来たのはいいが、それが不安材料だった。
ケイは、すっかりおねむモードだったのだ。
「むむ……お腹ぽんぽこりんで眠気マックスなのじゃが」
「僕は電車のアナウンスが何言ってんのかほとんど分からないんだぞ。うっかり乗り過ごしちゃったらどうするんだよ」
「大丈夫じゃ。駅名ぐらい聞こえるし、電光掲示板にも書かれるのじゃ。という訳でよろしくすぴー……」
「寝るの早っ!? くそ、僕も眠いのに!!」
そして、僕のポカで結局一つ乗り過ごしてしまった。
着いた駅はズーロントという、ガストノーセン国営鉄道の駅でもあった。国鉄の駅名はネオン・ナウスラインと違うので、なかなかややこしい。
幸い、料金は同じだったので、追加は払わないですんだ。
まあ、一駅ぐらい、歩けば良いんだけどさ。
というか今思えば、そのまま反対車輌に乗ればよかったんじゃないかと思わないでもなかったけど、こういうのを後の祭という。
「おおおおおーーーーー」
「吠えるな」
ズーロントは思った以上に交通量と人気があった。
それ以上にケイが興奮していたのは、地面を走る線路だった。そしてその上を走る、バスのような一車輌の赤い列車。
「路面電車じゃ。浪漫じゃのう。ちと乗ってみようではないかススムよ」
そう言いながら、既にフラフラと券売機に向かうケイだった。
僕はそれを必死に食い止めた。
「って逆! 方向逆! 僕達が目指すのはあっち! あの塔のある方向だから!!」
「……ちょっとだけでも駄目かのう?」
「……終点まで行っちゃう未来が見えた。絶対駄目。それに向こうはお前も大好きなはずの、電気街だぞ? いいのか?」
僕は、反対方向にあるビル群を指差した。
「む、う~~~~~」
しばらくケイは唸っていたが、さすがに今回は理性が働いてくれたようだった。
「し、仕方がないのじゃ。我慢して向こうに進むのじゃ!」
「ホッ……」
という訳で、一駅分歩いての電気街である。
名前はガストブリッジ。
近代的なビル群、平日だというのに人は多く何だか独特の活気に満ちている。
大通りから一つ外れた通りを歩くと、どうやらこの辺りの社員用の飲食店が建ち並んでいる……が、昼食をデザートまで済ませた僕(というか主にケイ)に怖いモノは無かった。
そんな店達に挟まれるように、ジャンク関連の雑居ビルが幾つかあり、ケイはそんな所に躊躇なく飛び込んだ。
「っていうかお前引き籠もりだったって言うじゃないか。こういう場所は馴染みがあるのか?」
「ウチの部屋の一つにそっくりなのじゃ!」
「……部屋の一つね」
僕は店を見渡した。
ケーブル一つ取っても色や太さ、端子の種類が幾つもあり、僕にはもう何が何だか分からない。
店前に置いてあるプラスチックのケースには何だか分からない部品がジャラジャラと入っているけど、こりゃ一体何に使うもんだと思う。
が、ケイは慣れた様子でそれらを品定めしていた。
「ま、僕としては後でゲームショップとか回れればなと思う訳だけど」
そっちは僕の専門だ。
「何か買うのかや?」
「よほど珍しいモノがあれば考えるけど、多分買わない。ゲーム機ないし、余計な荷物にしたくないからな」
「うむ、ではその分妾が散財してくれる!」
買い物籠を持ち、ケイはやたら張り切っていた。
「いや、するなよ!?」
「せっかく昼食代が浮いたのじゃ! その分、使うのじゃ!」
「落ち着け! 貯金や節約という概念を理解しろ!」
「心配はいらぬ。安く仕入れ、良いモノを作ってみせるのじゃ」
「……言っちゃ何だけど、こんなジャンク品ばかりで何作る気なんだよ?」
まず、それがそもそも謎である。
あまり高価なモノは、部品でも買えるとは思えないんだけど……。
ただ、ケイはやたら自信満々だった。
「それは、揃えてからのお楽しみじゃ。ちと見て回って、予算と相談するのじゃ。なかなか悪くない品揃えなのじゃふふふふふ」
「おい、顔つきが邪悪になってるぞ。それに、工具とかもばかりならないんじゃないか?」
「確か近くにワンコインショップがあると、看板があったのじゃ。どうせ使い捨てるじゃから、安物でよい」
そう言って、ケイはひょいひょいと部品を籠に入れていった。
「ふむ、ここだけでは足りぬな。幾つかハシゴするぞ」
「……どんなモノが出来るか、期待せずに待ってるよ」