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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第二章 巨大都市・グレイツロープ
48/155

青い羽根にまつわる収録されなかった短文(3)

 切り分けられた果実を囓った瞬間、風が吹いた。

 懐がわずかに熱を持ち、ジャンパーをめくると内ポケットから微かな青い光が漏れていた。

「どうした?」

 そんな僕の様子に、アヌビスが怪訝な顔をした。

「いや、その……」

 どう説明したものか困っていると、風が強くなりやがて景色が滲んできた。


 どこか色が淡いのは、前の幻視と変わらない。

 周囲には、ケイやアヌビスらも見当たらない……が、単に見えないだけで、近くにはいるんだろう……と思う。

 それよりも、気になったのは目の前の風景だ。

 木々があるという点ではほとんどさっきと変わってないが、微妙に風景が違うのは多分、生え方が違うのだろう。どこがどう、と言われると困るんだけど。

 そして最も大きな差異は、あの大樹がない。

 その位置には、一組の男女がいた。

 腹を少し大きくした犬耳の少女と、青いフードを目深に被り棍を持った、おそらくは男の魔術師、それも少年だ。

 犬耳、いや狼耳の少女はアヌビスにとてもよく似ていた。

「何でそんな目深にフードを被っている、加一。それでは、お前の素敵な顔が見れないではないか」

「素敵かどうかはさておいてだ」

「素敵だぞ?」

「そこは流せよケーナ!? 大人の事情っつーか用心っつーか……ほら、何だ。視線を感じたりとかしないか?」

「ああ、鳥達が私達の仲に嫉妬しているのだな」

「そろそろ本気で帰りたくなってきたが、そういう訳にもいかねえんだな。本っ気で面倒臭いんだが」

 加一と呼ばれた少年……いや、もうニワ・カイチでいいだろう。そしてケーナというのはつまり、二代目狼頭将軍、ケーナ・クルーガーだろう。

 加一は、唸っていた。何というかこの女性に振り回されてる感、とても他人のような気がしない。

「それで話というのは何だ。愛の告白か?」

「お前から胸焼けするほどされてるよ!?」

「私は一回しかされていないぞ。不満だ」

 ぷぅ、とケーナが頬を膨らませる。

 こうしていると、とても強そうには見えない。年相応な……いや、年相応ならちょっと妊娠するには早すぎる気がするけど。

「本来、そういうのは二度も三度もするもんじゃないんだよ!! ……ええと、あれだ。種に関しての話をしておく」

「種ならもうもらったぞ」

 ポン、とケーナは自分の腹を軽く叩いた。

「そういう話じゃなくてだな……いや、関係あるからややこしいんだ……」

「さっきから何を呻いているのだ? 風邪か? 看病するぞ? 一ヶ月ぐらいつきっきりで」

「どれだけ悪化するんだよ俺の風邪! ってそうじゃなくて、これだ」

 言って、加一は懐から革袋を取り出した。

 その口を開き、小さな種を手に落とす。

「食えと」

「食うな! ここに植えるんだよ! ほら、城にあっただろ。改造工房。あそこで作った種だ。お前にも協力してもらっただろ?」

 地面を指差しながら、加一は怒鳴った。

 ……何というか、うん、大変そうだ。

「ああ、あの血だの髪の毛だのを採取されたアレか」

「そうだ。いずれ、この種はここで大きな木になる。その種には、お前の力の鍵が宿っている」

「鍵?」

「単体では役に立たねーんだ。鍵はそれを開ける扉や錠があって初めて成立する」

「では、その扉はどこにあるのだ?」

「お前の中だ」

 ピッと、加一がケーナを指差した。

「中」

 ケーナは腹を見た。

「胎の子じゃなくてだな! いや、一応あってるんだが、より正確には遺伝子に組み込んだというか……遺伝子って分からないよなあ?」

 ガシガシと髪を掻きむしり、加一が唸る。

「加一は時々難しい事を言う。分からないから説明しろ」

 ……そりゃ、千五百年前の人間に、遺伝子なんて言っても分からないだろう。

 というかそもそも、この人、本当にこの時代の人間か? 実はタイムスリップしてきたとか、そんなんじゃないのか?

 しばらく加一は悩んでいたが、やがて頭の中でまとまったらしい。

「んー、まあ、親から子、子から孫に引き継がれる力みたいなもんだ。お前は親父であるハドゥン(オッサン)に似てる部分があっただろ?」

「そうだな。目元とかよく言われていた」

「そして、お前の胎の中の子は、お前と俺の特徴を引き継いでいる。その『力』が遺伝子だ」

「なるほど」

 大変大ざっぱな説明だが、ケーナは理解したらしい。

「その引き継がれる『力』に、宝箱みたいなモノを潜ませてある。宝箱の中には、お前のこれまでの戦闘経験やら埋め込まれた能力――加速装置やら飛行能力やら――が入っていると考えていい」

「私が、父から継承したような(モノ)か?」

「まあ、そんなもんだ。これはずっと開かないまま、遺伝子と共に子々孫々引き継がれていく。記憶は考えたが、今の時点で入れてしまうと、これから先のお前の人生は継承出来ない。だから……お前が死んだ時は、必ずあそこに入れ」

 加一が指差したのは、森の向こうに見える……墓だった。

「一族の墓か。元からそのつもりだぞ?」

「絶対だ。でないと色々困る。あっちでまだ生きてるチルミー守ってる青羽教が厄介そうでなぁ、俺とレパートだけじゃ手が回らないだろうし、何より()()()()()()()()()()、置き去りにされたくないっつっただろ?」

「その通りだ」

 この話が本当なら、ニワ・カイチは異世界の人間と言う事になる。

 ……元の時間、と言わない辺り、時間を移動している訳じゃないのか。

 この辺は後で、ケイに聞いてみよう。

 そして、その世界に帰る時、ケーナは一緒に行くと約束している。ただ、それが何故か、この時代では無理だという事なのだろう。

 ええい、本当に訳が分からない。何で(この時代)じゃ駄目なんだよ。

「ユフに関しちゃ一時期宝玉を俺が預かり、墓ん中で仮死状態にするって簡単な手で何とかなったんだが、お前の場合こういう回りくどい方法になっちまった」

 ユフ王の墓。

 何だか、気になるフレーズが出て来た。

 確か、詣でようとしたら、警察に止められたんだっけ。

 え、ちょっと待って。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? ()()()()()()()()()()()

「そうすれば、私は今の記憶や力を継承したまま、いずれ未来でお前と会えるのだな?」

「まあ、そういう事だ。一種の転生術だな。正確には、お前だけじゃないんだが」

「ん?」

「いずれ、覚醒(めざ)めた時に分かる」

「よく分からんが、承った。必ず、お前の言葉を守ろう。これから続くお前のいない人生も耐えてみせる」

「ん。それじゃいずれ来世でな」

「うむ。だが、出発は明日にしてもらおうか」

 こちらに向かってくる加一を、ケーナの手が引き留めた。

「あ? 何で」

「今生の別れだぞ。私とてそれは惜しみたい」

「……まあ、そりゃ分かるが」

 何だろう、妙に加一の力が入っているというか、それをケーナが普通に押しとどめているというか、そんな見えない力のやり取りがあるように見える。

「あと医師に聞いた話では、安定期に入ったらしい。ギリギリ間に合ったな」

「何がギリギリなんだよ!?」

 やがて景色が再び滲み始めた。


 景色が元に戻ると、風も弱まっていた。

 そして。

「コントかよ!?」

 思わず突っ込んでいた。

 周りを見ると、皆不思議そうな顔をしていた……ということはやはり、皆で見ていたと言う事なのだろう、多分。

「……何というかこれまでとは少々毛色が違うというか、それともこれが普通(デフォ)なのか、よく分からんのじゃ」

「い、い、い、今のは一体……?」

 ケイはさすがに僕と同じ体験をしているだけに慌てふためかず、一方神父さんはオロオロと狼狽えていた。

「何でしょうね」

 ……多分、僕の持っている青い羽根が原因なんだろうけど、とぼけておく事にした。

 そして、その僕の肩をポンと後ろからアヌビスが叩いた。

「礼を言うぞ、ススム」

 直後、彼女の姿が消えた。

 次の瞬間、何枚か降ってきていた落ち葉が一気に弾き飛ばされ、大樹の傍にいつの間にかアヌビスが立っていた。

 そして、彼女の服はボロボロになっていた。

「うん、なるほど。加一の言っていた通りだな。性能に問題はない。ただ、着替えは必要か」

「え、何。今、何が起こった? 瞬間移動?」

 戸惑う僕に、ケイが説明してくれた。

「……加速じゃ。服がボロボロになったのは、空気の摩擦が負担になったのじゃな。しかしあの程度で済んでおるとは、まだ加減しておるという証拠じゃ」

「マジか」

「マジじゃ。今視たモノが真ならば……つまり、そういう事じゃ」

 えっと、うん、種から育った大樹の果実をケーナが食べ、その結果、鍵と錠が揃った。

 彼女の中に眠っていた()()が開き……。

「えー……?」

「妾達、どうやらこの旅を絶対に全うせねばならぬようじゃぞ。想像するに前のセキエンとプリニースの戦い。共にいたペンドラゴンはおそらく……」

「言うな。プレッシャーに押しつぶされるし、荒唐無稽すぎる。誰にも信じてもらえないよ、こんなの」

 だとすれば僕らは、すごい人に案内(ガイド)してもらっていたという事になる。

 そりゃ、詳しい訳だよ当たり前じゃん。

「うむ。まあ、誰かに頼まれた訳でも無し、妾達は妾達なりの旅を続ければよいであろ」

「さっきと言ってること違うじゃないか」

「中途半端に済ませるのはよくない、と言うておるのじゃ。どうせ最後まで行くつもりであろ?」

「そりゃま、そうだけど」

 何か別の意思が働いているみたいだけど、そんなの僕の知ったことじゃないし、巻き込まれるのも迷惑だ。

「ならば、こちらの都合が最優先じゃ」

「でもさ、アヌビスが記憶の継承とかそういうのしちゃったら、両親はすごく困るんじゃないか? ラノベとかだとそういうの大抵無視されてるけど」

「ふむ」

 ケイの視線に釣られて、僕もそちらに視線をやった。

 アヌビスの両親は、特に動転もしていないようだった。

「事情はよく分からないが、どうやら加一の奴が気を遣ってくれたようだ」

「どなたですか?」

「後で話すよ」

 アヌビス父が、奥さんの頭を軽く撫でていた。

 もしかして、ニワ・カイチは初代狼頭将軍とその奥さんの記憶を……?

「……問題ないようじゃな」

「……そ、そう来たか」



 絶対これ、掲載出来ないよなあ……。

 あまりに非現実的なので、旅の最中もなるべく忘れるようにしてるんだけど。

 あくまで本の方は純粋な紀行文だが、こういう事があった以上、心情的に実は相当複雑な気分になった部分もかなりあるのだ。

 例えばこれまでのニュースだと、()()使()()()()()()による青羽教の幹部逮捕の一件とか、この時思い出していた。

 そして、六禍選の一人()()()()()()()()()()()()()()、とか。

 ……なお三度目の羽根の力が発揮されるのは三日目、イフの遺跡トモロカでの事になる。

週末ですし、キリの良い所までちょっと頑張ってみました。

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