表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第二章 巨大都市・グレイツロープ
47/155

私設展示室と庭の巨木

 六禍選の一人、紅き魔女ズッキーニ討伐に、狼頭将軍クルーガーと勇者ユフが乗り出した。

 発狂対策に用いたのは、森の茸だった。

 幻覚作用のあるこの茸を喰らう事で、()()()()()()()()()()()

 つまり、この状況で森の狂乱を受ければ、狂った精神が狂い、すなわち正常な精神に戻る事が出来た。

 そして、二人がズッキーニ、マット・ギーと戦って得た結論は、この二体の敵はそれぞれ実体がない、という事だった。

 まずズッキーニ。こちらは赤頭巾とローブを媒介とした幽霊(ゴースト)のような存在。

 そしてマット・ギー。これは使い魔であり、依代として使われたのは案山子(かかし)である。

 では、本体はどこにあるのか。

 狼頭将軍と勇者が導き出した答えは、森の奥。

 ズッキーニとマット・ギーに追われながら辿り着いた先は、一軒の小屋。

 そして、その家に本物の紅き魔女ズッキーニはいた。

 本物の魔女は身体が弱く、ロクに動くことも適わなかった。しかし代わりに彼女は自分の分身(アバター)を用いて、外の世界を見聞き出来ていた。

 その分身(アバター)こそが、これまで人々を脅かしてきた、仮初のズッキーニだった。

 狼頭将軍と勇者は真の紅の魔女を倒し、森に平和を取り戻した。


「なるほどのう」

 神父さんの話が終わり、ケイは深々と頷いていた。

「せっかくなので、遺された武器なども見ていきますか」

 そんな提案を神父さんがしてくれた。

 何でも、奥の部屋の一室が私的な展示室になっているらしい。

「いいんですか?」

「どうぞどうぞ」

 すごくいい神父さんだった。


 そして案内された部屋は、十畳ぐらいだろうか。

 壁には、赤い頭巾やローブが掛けられ、部屋の奥隅にはマット・ギーの依代なのだろう案山子が飾られていた。

 ガラスのケースには刀剣類が並べられ、中央の大テーブルには小屋を中心に下森の箱庭が設置されていた。

「しかしこういうのって、博物館に収められるもんじゃないんですか?」

「そちらの提案もかつてあったそうですが、特に強制という訳ではなかったですからね。それに、こうしてお話をする時の()にもなるというモノです」

 ……確かに、マニアじゃない僕らにしても、これはすごいと思う。

「へぇー……これも、プリニースの発明かな?」

 僕が目をつけたのは、マット・ギーが使ったと思われる先込め式の狙撃銃だった。

「その通りです。プリニースの名を知っているとは、ずいぶんと勉強していらっしゃるようですね」

「ああいや、ここまで順番に回ってきたもんですから」

「とすると、まだ旅は始まったばかり。先は長いですよ?」

 確かにまだ序盤といってもいいだろう。

 勇者ユフ一行の旅の仲間はあと二人残っているし、ゴールであるオーガストラ帝国の本拠地、現在のシティムに入るのには、あと三日待たなければならない。

「無事に済ませるのが、第一目標です。時間も区切ってますしね」

「それはそれは」

「これは当時の森の模型かの」

 大テーブルに置かれていた模型に、ケイは注意を奪われていたようだった。

「この箱庭の枠が、結界になっていたという話があるんですよ。入ったモノを発狂に追い込む仕掛けは、これだったとか」

「つまり、これはいわゆるマジックアイテム」

 僕の呟きに、神父さんは深く頷いた。

「その通りです」

「いや、んなゲーム用語までいちいち通訳すんなって!!」

 余計な真似をしたケイの頭を、僕ははたいた。


 それから僕達は、展示室にあった扉から庭に出た。

 庭の奥には、見上げるほど大きな木が生えていた。

「でかい」

 僕は素直に、感想を漏らした。

「ススムや」

 一方ケイは、大真面目な顔だ。

「何だよ」

「こういう木を見ると、無性に登りたくならぬか」

「落ちて首の骨折って死んでも、知らないぞ。あとお前、運動音痴だろうが」

「…………」

 ふむ、と少し悩み、ケイは僕を見た。

「ススム、妾を背負って――」

「断固お断りする!!」

 何てアホなやり取りをしていると、神父さんがその木について説明をしてくれた。

「この木は樹齢約1500年になります。つまり、件の戦いが終わり、オーガストラ帝国が倒れ、ユフ王の治政になった頃ですね。この寺院が建てられた時、魔術師ニワ・カイチが種を植えたという話です」

 その説明に、僕は引っかかりを覚えた。

 ケイに、尋ねてみる。

「種? 苗の訳し間違いじゃないのか?」

「いや、確かに種と言いおった」

 植樹なんて知識ロクにないけど、こういう木は種から生えたりするんだろうか。

「……いや、それより種と言えば何か、引っ掛かるんだけど……」

「グレイツロープ城の中にあった、種じゃの。能力継承の力を有するとかいうあれじゃ。ニワ・カイチが関わっているという所からも、記憶が刺激されたのじゃろう」

「あー」

 確か、そんな話もあったな、と僕もすぐに思い出した。

 さすがにたった数時間前の話だ。

「しかし、だとしても誰が何を引き継ぐかという話になるのじゃが……そもそも、食えぬぞこんな大きな木」

 ケイの疑問は、もっともだった。

「この木には不思議な力が宿ると言われております。たまに勘のいい人は、この木から声がするとかいいますが、私は修行が足りないのか、聞いたことがありませんな」

 神父さんが、そんな事を笑いながら言った時だった。

 ヒュッと風を切る音と共に、何かが降ってきた。

「わ」

 小さな影を受け止めたのは、ここまで黙ってついてきてくれていた、アヌビス・クルーガーだった。

 手には、リンゴのような果実があった。これが降ってきたのか。

「ほほう、これは運がよい。差し上げましょう」

 神父さんの言葉に、アヌビスが礼を述べる。

「む、ありがとうございます。そういえばここには幼い頃から何度か来たことがあるが、食べたことがなかった」

「滅多に実が成りませんからな。こればかりは運でしょう」

「普通、収穫時期とか、あるんじゃないんですか?」

 これだけデカイ木なら、さぞや採れる果実も多そうだけど。

「この木は普通ではないらしいですな。ごく稀に実がなり、それを食べたモノには力を与えるとか……それが、先程言った不思議な力なのですが。案外、本当にディーンだかニワ・カイチの遺した『種』だったのかもしれませんね」

 とすると、言い伝え通りなら、アヌビスの持つ果実には不思議な力が宿るという事か。

「わ、妾も一口欲しいのじゃ! 運動神経の向上を!」

 ケイが、必死すぎる。

「切り分けるには、ナイフが必要ですな」

 神父さんが寺院の仲に戻ろうとしたのを制したのは、アヌビスのお父さんだった。

「いや、そんなの必要ないですよ」

 そして、ヒュッとその腕が消失した。

 ――かと思うと、アヌビスの手の中にあった果実が八分割されていた。皮も綺麗に剥けている。

「……すげえ」

「これぐらい、娘も出来ますよ」

 何でもない風に涼しく笑う、アヌビス父だった。

 せっかくなので、僕もご相伴に預からせてもらう。

「……特に、力が付いたようには思えぬのじゃ」

「そりゃ、僕も同感」

 バーベキューのデザートとしては、なかなか適当だけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ