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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第二章 巨大都市・グレイツロープ
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アヌビス・クルーガーとの雑談

 バーベキューを食べながら、アヌビス・クルーガーと雑談する事になった。

 ケイの通訳は続いているが、いちいち伝聞形式で書くのも面倒なので、省く事にする。

「ふむ、観光か。私の先祖が件の英雄の一人だったと聞くが、なかなか大変だぞ。何ヶ月ぐらい滞在の予定だ?」

「五日」

「ぶふぉっ」

 僕の答えに、アヌビスは肉を噴き出した。

「うわ、汚いな!?」

「いや、あまりに予想外で驚いた。それはいくら何でも無茶ではないか?」

 口をゴシゴシと拭いながら、もっともな疑問を突きつけられた。

 それに対して答えたのは、ケイだ。

「まあ無茶ではあるが、不可能ではないと言ったところかの。特に今日は割と余裕があるのじゃ」

「市外にも沢山遺跡があるぞ」

 それは、僕も知っている。

「そこまで行っては、予算も時間もないのじゃ」

 要するに、そういう話である。

 そんな訳で、今回は市内限定だ。

「……ほう、それらの制限を設けた上で、可能な旅のスケジュールという訳か。それはそれで、賢明な方法ではあるな」

「いやあ」

 一応謙遜しておく。

「という訳で、今日の午後は純粋に観光なのじゃ。電気街やら繁華街に行くのじゃぞ」

「繁華街……ふむ、南の方かな?」

「そう、なるかな?」

 一応調べてはおいたけど、今のだけでよく分かるなあと感心する。

 まあ、地元だから当たり前なのかもしれないけど。

「食べ物がいっぱいある場所に行くのじゃ」

 そして相変わらず食い意地のケイである。

「言っとくけど、予算は限られてるからな?」

「うむ。厳選せねばならぬな」

「何か、食う事は確定してるんだよなぁ」

 あんまり高いモノじゃないと良いけど、と思う僕である。

「という訳でアヌビスや、何やらこの辺で美味いモノというのは何があるかの」

「何でも美味しいが、強いて言うなら粉物がオススメだ」

「粉物。……小麦粉か」

「直に食って美味いと思ってんのか、それ」

 そもそもそれは、料理ではなく単なる食材だ。

「パンかの?」

 一応、料理らしい発言が出た。

「ピザやパスタだな。あとショウガのジュースも美味いぞ」

「何だかしょっぱそうじゃのう」

 アヌビス・クルーガーの提案に、ケイが首を捻る。

 確かにしょうが味といのはちょっと、いまいち想像がつかない。

「百聞は一見に如かずと言うだろう。飲んでみれば分かる」

「ふむ、覚えておこう」

 ケイはメモも取らず、頷いた。

 僕も覚えていたら、挑戦してみよう。まさか、ネタで変な物を勧められている……という事も多分、ないだろう。

「という訳で」

 パンパン、とアヌビスが手を叩き、周囲の皆に声を掛けた。

 すると、飯を食べたり麦酒を飲んでいた人達が、ゾロゾロと集まって、何やら券を取り出した。

 それを、アヌビスが回収する。

「って、何だ何だ一体何したおい」

 全ての券を集め終わったアヌビスが、それを僕に突きだした。

「ドルトンボルで使えるクーポンだ。皆忙しいからあまり行く暇がなくてな。期限切れになる前に役に立ってくれ」

「ああ、ありがとう」

 ……ヤバイ、あまりの親切にちょっと泣きそう。

 と言いたい所だが、券を見てちょっと考える。

「……タダ券とかじゃなくて、割引券なのな、全部」

「そんなモノがあったら、自分達で使うとも」

 僕の呟きも、律儀にケイは翻訳してくれていた。

「ちょ、お前そこは訳さなくて良いんだよ!?」

「そういえば、ドルトンボルと言えば六禍選の一人と同じ名前じゃの」

 ケイはまったく聞いちゃおらず、別の疑問をアヌビスにぶつけていた。

「ああ、蟹だな」

「蟹?」

「武器が二つの鋏でな。しかも外骨格っぽい甲冑を着ているから」

 ラクストック村で見た絵を思いだし、動きを加えてみた。

 うん、蟹だ。

「……皆、同じような感想を抱くのじゃな。茹でられて死んだか」

「お前の想像は、どこまでも食に通じるのか」

 僕のツッコミを無視し、アヌビスは首を振った。

「いや、魔法使いにやられたはずだが……うん、これはここで話す事ではないな。イフの魔導学院まで楽しみにしてもらおう」

「焦らすのう」

 うん、焦らされた。

 けど、ここで聞いても多分、向こうに行った時同じ話を見るか聞くかする事になるのだから、コレでいいのだと思う。

「まあ、ドルトンボルと魔法使いニワ・カイチに関しての因縁はさておいて、蟹はこのグレイツロープ出身なのだ。文化的には、様々な料理を生み出したとして名が残っているのだよ」

「食いしん坊か」

「否定はしないな」

 お前(ケイ)と一緒だ、と僕は心の中で突っ込んだ。

「ここは、飯が美味くてよいのう」

「そうだろうそうだろう」

 バーベキューの櫛をまた一本頬張りながら、ケイがしみじみ良い、それに対してアヌビス・クルーガーは笑顔で頷いていた。

「あんまり食うと、そのドルトンボルであまり食えなくなるぞ」

「いっぱい食べるだけの金子はなかろ?」

「……それを言われると、かなりしょっぱいな」

 否定出来ないのが、悲しいところだ。

 その時、ふと風が吹き、ジャンパーの内ポケットから青い羽根が地面に落ちた。

「落ちたぞ、ススム」

 ケイが拾い、僕が受け取る。

「ああ、ごめん……って何この空気」

 何故か皆、僕達に注目していた。

 そして、アヌビス・クルーガーもどこか顔を強張らせている。

「まさか君は、青羽教の教徒なのか!?」

「え、いや、昨日俺達、ヒルマウントにいたんだけど、そこのパレードで振る舞ってたのを、拾っただけだけど……?」

 そういえば、昨日だったか幹部が捕まったとかいうニュースが流れていたっけ。

「……ああ、そうか。少し驚いた。今は、あのカルト教団の件で皆、騒いでいるからな。隠しておくといい」

「やっぱりそうか」

 内ポケットにはボタンも付いているから、今度からそれもちゃんとつけて、落ちないようにしておこう。

「それにしても、その羽根」

 アヌビスは、僕のジャンパーをジッと見ていた。

「ん?」

「いや、妙に見覚えがあるような気がしたんだが……まあ、証拠品として、青い羽根は何度も見ているから、多分そのせいだろうな」

「証拠品?」

 何だか刑事みたいな発言が出た。

 それに気づいたのか、アヌビスが言う。

「ああ、うちの道場は警察関係者も通っているし、逆にこちらが向こうに指導に行く事もあるんだ」

「ちとよいかの」

「何だ?」

 どうやら、僕と同じ疑問をケイも持ったようだ。

「確か皆、公務員と言っておったの」

「ああ、そうだ。警察官だぞ?」

 僕とケイは顔を見合わせた。

「ススムよ、これはちと拙くないかの」

「……さすがにお前も危機感を覚えたか」

 これでも一応、僕達は追われる身である。

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