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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第二章 巨大都市・グレイツロープ
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草団剣実践編

 ところで、スポーツに置いて重要な事が一つあるらしい。

 そう、準備運動である。

「ぜはー……ぜはー……」

 まずは、というのでグラウンドの周りを十周走ることになった。

 その後、柔軟体操や腕立て腹筋背筋。

 普段、運動をしない僕達がどうなったかは、推して知るべしである。

「じゅ、準備運動で、死んでしまうのじゃ……」

「これは、きつい……」

 始める前から、汗だくになっていた。


 そんな準備運動を乗り切り、ようやく練習だ。

 球技で言えば、キャッチボールなどに当たる。

 僕とケイは、それぞれヘルメットとカイタイ製の剣を借り、打ち合う事になった。

 クラスはどちらもファイターだ。

「初心者には、妥当なところだな」

「うむ」

 ポコポコとへっぴり腰で剣を振るう。

 ケイも下手だが、正直僕も似たようなモノだろう。

 一方、他の選手達は……。

「……レベルが違う」

「たとえるなら妾達が村人なら、あれは戦士レベル20とかスカウトレベル18とか、そんなんじゃの」

 中途半端に具体的な数字を出してきたが、概ね当たっていた。

 何かもうすごかった。

 まず、気合いが違う。剣を振るう度に出る声が、リアルに()だし、同じカイタイ製なのに、実際に斬られてしまいそうな勢いだ。

 槍使いの人なんて、先端が残像持ってるし。

 こんな人達に混じって、いいんだろうかと腰が引けそうだった。

「が、まあ、足手まといなのは向こうも承知じゃろ。妾達は妾達なりに一生懸命やればよいのじゃ」

「前向きだなあ」

「こんなにいっぱいの人と遊んだ経験は、ほとんどないのじゃ」

 ぐ、とケイがいじらしいことを言う。

 ……こういう事を言われちゃうと、さすがに僕も多少前向きにならざるを得ない。

 ファイターは初心者向け、というが、まあつまりやる事が一番シンプルだ。

 武器を振るい、敵を倒す。

 また二種類の武器が使えるので、剣の他に弓手としてボールも扱えたりもする。ただ、ハンターとの差別化のために、ボールは一つだけだが。

 そういう意味では、次に難易度が低いのは、壁役のガーディアンだろう。こちらは盾で、相手の行方を阻む。もちろん武器も使えるが、主な役割はやはり足止めだ。

「ケイはイメージ的には、ヒーラーとかマジシャン辺りなんだけどな」

 相変わらずポコポコと互いの身体を剣で叩いたり突いたりしながら、僕はケイを評価した。

 頭の回転も速いし、そっちの方が向いていると思う。

RPG(ロープレ)ならありかもしれぬが、実際問題として無理じゃ。右往左往して、終わってしまう」

 ……まあ、現実はコマンド選択式じゃないからなぁ。

 そして、剣以外にも槍とか双剣とか試してみた結果。

「うん、自分達のへっぽこ具合が、よく分かるな。……こんなので、本当に大丈夫なんだろうか」

 そんな結論が出た。

「ま、下手は下手なりに楽しもうではないか」

 一方のケイは本当に、楽観的だった。


 そしていよいよ本番になった。

 さすが、というか草団剣の人達もよく見てくれていた。

 僕とケイは敵同士になり、しかも互いのライン上に配置されていた。

 要するに同レベル同士の戦いである。

 これでは練習と同じじゃないか、という意見もあるかも知れないが、それは違う。六対六のチーム戦である以上、僕が負ければ戦力は削られるのである。

 そのプレッシャーは嫌でも僕を真剣にさせてしまう。

「お前には負けないぞ」

「くくく、妾の超絶剣技、見せてくれるわ!!

 チーム全体での勝敗についてはさておき、ケイとの勝敗に関しては一応勝ち越した。

「リーチの差が不公平なのじゃ!」

 そんな事を今更言われても、である。


 その後、せっかくなので僕は色んなクラスを試してみた。

 草団剣の人達も苦笑しながら、任せてくれた。

 ファイターは剣を振るった隙に面を食らい、ガーディアンではタックルで倒れ、スカウトで自由に走れるようになったのはいいけど槍で背中から刺され、ヒーラーになってみたら倒れた人の所に辿り着く前にやはりファイターに倒され、ハンターをやってみたらノーコンでボールが尽きた瞬間スカウトにタッチされ、マジシャンはそもそもどういうタイミングで(ライン)を消したりして良いのか分からなかった。

 コマンダーに成り、死にものぐるいでボールを投げて、何とか成果を出す事が出来た。

「……かろうじて一人倒せた」

「お主、よう頑張ったのう」

 さすがの僕も、グッタリである。

 しかもコマンダーとしての成果としては、かなりしょんぼりだ。

「こういう機会だし、どのクラスが向いてるか試してみたかったんだよ。結論はどれも向いてない、だったけど」

「妾は、ガーディアンでなかなか楽しめたのじゃ」

「……お前、盾に身体全部隠れるもんな」

「持ち上げられてしもうたがの。それでもう、やめか?」

「んー、一つだけ、まだやってないというかやってみたいのがあるんだけど……まあ、駄目だろうな」

「む? やってみなければ、分からぬのではないか?」

「そういう話じゃなくて」

「むむ?」

 僕が提案したのは、クラスじゃなかった。


 そして勝負は三戦三勝。

 ぶっちゃけ、上手いこと行きすぎた。

 リーダーの刈り上げ金髪さんからも勢いよく背中を叩かれ、皆に褒められた。

 かなり、照れくさい。

「意外な、才能じゃ」

「……まあ、ビギナーズラックって奴だ。この辺で切り上げた方がいいと思う」

 僕がやったのは、言わば監督(ディレクター)だ。

 選手の人達とは一通り手合わせもしたし、その個性も大ざっぱだけど掴めた。

 あとはゲームと同じノリで配置し、作戦を立てる。

 対戦チームの選手の癖を説明し、攻略する。

 対戦チームの全滅が二回、旗のダッシュが一回。

 なかなかの成果だったと言える。

 こうやって、遠くから指示を与える分には、難易度が下がるんだよなあ。

「のう、うちのコーチになってくれないかという誘いが来ておるのじゃが……」

 何か自分を中心に取り囲まれ、すごい盛り上がっているのは分かる。

「行かないよ!? たまたま上手くはまっただけだし、こんなのでコーチになれるなら、ゲームのプレイヤーみんなコーチになれるって」

「じゃが、才能はあると言うておるぞ?」

「おだてても、何も出ないって伝えてくれ」

「妾も同感じゃし、お世辞ではないのじゃがのう」

「……ま、運動自体よりは、こっちの方が向いてるのは否定しないよ」

 身体を動かすのはこれはこれで楽しいと思ったけど、やっぱり僕は、考えたり悩んだりする方が向いていると思った。

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