表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第二章 巨大都市・グレイツロープ
40/155

狼将軍の隠れ家

 城の外に出ると、何だかやはり解放感という奴か、妙にスッキリした。

 そのせいか、ふと思いついた事があった。

 疑問だ。

「んんんんんんん?」

「どうしたのじゃ、ススム。トイレか?」

 ケイの問いに僕は首を振った。

「違う。そうじゃなくて矛盾点に気づいた。今のこのお城は昔はもっと大きかったんだよな。そりゃもうこの辺りの都市まるまる、覆うぐらい」

 僕は、城を指差しそれから手を大きく広げた。

「そうだったらしいの」

「だとすれば、やっぱり変じゃないか。勇者ユフと出会ったのは、城の外じゃなくて中って事になる。現代でこそ敷地の外だけど、当時は敷地の中だろ」

「おお、よいところに気がついたのう」

 やっぱり、僕の疑問のピントはずれていなかったらしい。

 もし間違っていたら、こういう時ケイは割と論理的に、それを否定してくれる。

 つまり、当時の城の()で、勇者ユフは狼頭将軍クルーガーと出会ったという事だ。

「どういうことなんだ?」

「知らぬ」

 あっさりと言い捨て、スタスタと先に進むケイ。

「おい」

「妾とて万能ではないわ。第一、分からぬからこそ、それを知りに進むのではないのか?」

「……言われてみれば、そうだけど」

 あまりにまともな言い草に、僕はグウのでも出なかった。

「では、とにかく行こうではないか」



 程なくして、目的地に着いた。

 グレイツロープ城公園から、やや離れたところにある森の中にある静かな寺院。

 それが、勇者ユフと狼頭将軍クルーガーが出会った場所だった。

 さすが平日の昼前、自分達以外、誰も客がいない。

 そこの優しそうな中年僧職が、外国人は珍しいからと掃除の手を止めて、親切に案内をしてくれた。

 寺院はこじんまりとしており、その裏には大きな井戸があった。

 覗くと、中は空っぽだ。

 立て札があったが、そもそもその内容は直に僧職がケイに教えてくれた。

「なるほど」

「ふぅむ、そう来たか」

 僕達は唸った。

 つまり、昔はその井戸の底に横穴があり、ずーっと遠くにまで通じていたらしい。

 王族が、城のあちこちに抜け道を作る……なんて話は、僕も本やアニメなんかでよく聞いた事がある。

 つまりここもその内の一つだ。

 そして、勇者ユフはその逆を進んだ。

 脱出路を逆手に取り、自分の侵入路にしたのだ。

 そして、ここに出て、狼頭将軍と出会った。

「これ、ホントに敷地の外まで行けるのかな?」

「今では無理じゃ。何百年も前に、とっくに埋められたとある。そりゃ年代物の通路の途中で、崩落の危機とかシャレにならぬからの」

「そうか、残念。……まあ、通るつもりもなかったけど」

 何て感想まで、ケイはわざわざ僧職に通訳し、相手は苦笑して首を振った。

「通れたとしてもえらい事のようじゃぞ。中の通路は迷路になっており、下手をすればずっと外に出られぬとかいう話じゃ」

「ダンジョンか、これ!?」

「中には危険な生物もいたという話じゃのう」

「そりゃ、埋めるか」

「ところが噂によれば、まだ()()()()()通路もあるそうじゃの」

「いかにもな都市伝説だな、そりゃ」

「ちなみに実際にあった事件としては、プラムフィルド地下街の、あそこの拡張中にここの地下通路の遺跡とぶつかり、そっち方面での拡張を制限されたという話があったと、言うておるぞ?」

 ニコニコと笑いながら、僧職の人がそんな事を教えてくれた。

 本題に戻る。

 城の工房から逃れた改造人間二人は、この森で力尽きた。

 追ってきた敵を撃退したが、その際に狼頭将軍も鷲頭将軍も捕らわれてしまい、最終的に洗脳されてしまった。

 狼頭将軍はその後、この森の警備を担当したが、ひょいと井戸から出た勇者ユフとエンカウント。

 戦いの末、洗脳を解かれて、城の解放を契約に勇者の仲間になった。

「……という事らしいのじゃ」

「はー。勇者って、洗脳解いたりも出来たんだ」

「……何か、頭ぶん殴って解いたとか言うておるのじゃが」

 相変わらず、僧職はニコニコしているが、内容は割とトンデモだった。

「それは、単なるショック療法だ!」

「よいツッコミじゃと褒められておる」

「万国共通なのか、ツッコミ!?」



 寺院を後にして、僕達は次の目的地に向かう事にした。

 大きな川に沿った堤防を歩き、向かう先はもう一人の六禍選、紅き魔女ズッキーニの住処だ。

 眼下の原っぱでは、ジョギングをしたり、犬とフリスビー遊びに興じている人が見える。

 が、それよりも目を引いたのは、こちらに向かってくる黄色と黒の外套を羽織った集団だ。

 向こうも外国人は珍しいのか、こちらを見るが特に事件も起こらず、すれ違った。

「また、派手な外套(マント)だなあ」

「妾達の国で言う所の、法被に当たるのであろうな」

 旗やら太鼓やらをもっている所を見ると、あれは何かの応援団なのだろう。

 背中のロゴから察するに、団剣の地元チームである事が分かった。

「そういえば、本来の修学旅行だとどっかのスタジアムの観戦があったんだっけ」

「それには、行かぬのか?」

 ケイの問いに、僕は唸った。

 修学旅行のスケジュールに沿って動けば、それにも行くのが筋かもしれないけど。

「んー、スポーツ観戦はあんまり趣味じゃないんだよな。嫌いって訳じゃないんだけどね」

 それよりももっと切実な理由があった。

「何より個人で行くには、金がかかる」

「しょっぱい理由じゃのう」

 ケイに笑われた。

「しょうがないだろ、事実なんだから。そういや、こっちの応援団って何か過激なんだっけ?」

 ニュースで見たり読んだりしたような、記憶はある。

「妾もスポーツは詳しくないのじゃが、むしろ太照のサポーターが紳士的すぎるとか、そういう話は聞いたことがあるぞ?」

「いや、火炎瓶投げたりとかで事件になった事があるって聞くけど」

 そして、互いのサポーター同士の乱闘で、重軽傷者が何人も出た事がある。

「日常茶飯事でそれでは、えらい事じゃな!?」

 過激といえば、連鎖的に思い出した事があった。

「……あ、そうだ。アルファベルト橋から川に飛び込んだ集団があるとか、あれも団剣の地元チーム応援団じゃなかったっけ」

「ああー、妾も記事で読んだ記憶があるのじゃ。ついでに投げ込まれた唐揚げチェーン店の人形を探す探偵の話があったのじゃ」

 ……いや、僕が目にしたのは確か、その人形が発見されたというニュースなんだけど、コイツのニュースソースは時々、マイナーだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ