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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第二章 巨大都市・グレイツロープ
39/155

継承の工房

「それでこの種は、どういうモノなんだ?」

「本物ならば魔法の種じゃの。一種の人工遺伝というか、例えば妾は蒸語が分かる。お主は分からぬ」

「ああ」

「ところがこの種に妾の言語情報を入れれば、この種を飲むと蒸語を憶えられるというのじゃ。そして体内にこの種は残り、その後の経験を積む。排出すれば、その経験も継承されるのじゃ」

「……本当なら、すごいな」

「本当ならの」

「すると、運動神経を情報に組み込むと」

「うむ、お主が飲めば妾と同じ運動音痴になる」

「嫌すぎるな、その効果!?」

 しかし、僕達二人の共通認識通り、あくまでそれが本当なら、の話だ。

「一応、実際に使われている描写は、伝承にはあるようじゃの。ほれ、例の将軍達の力じゃ」

「あ、狼頭将軍が受け継いだっていう」

 なるほど、能力を種に組み込んでいて、それを奪えばその力を継承出来るって理屈か。

「そう、それじゃ。それと……」

 むむ、とケイが珍しく口ごもった。

「ん、どうしたんだ? 言えよ」

「初代の狼頭将軍が死んで、二代目が引き継ぐ時じゃ」

「あー」

 ……二代目は、初代のそれまでの能力をすべて、受け継いだって話になる訳か。

「そしてこの城が攻略されて後、ユフ王の治政になってから、今度はこの工房を件のニワ・カイチが預かる事になる」

「へえ。やっぱり師匠の研究に興味があったって事かな」

「それはそうじゃろうのう」

 工房を見渡し、少し当時に思いを馳せる。

 そもそもオーガストラ帝国が侵攻してくるまで何に使われていたのか知らないが、敗北された将軍達はここで肉体改造と種の実験台にされた。

 やがて戦いが終わり、新たな住人であるニワ・カイチは、ここで師の研究を継承した。

 さしずめここは『継承』がテーマの工房ってトコか。

 別のガラスケースはやや大きく、やはりまた古ぼけた紙が広げられていた。

 ただし書かれているのは文章ではない。

「こっちの地図は、何だろう。……グレイツロープ城の見取り図、かな?」

 確かに城で間違いないとは思うんだけど、若干形が違うような、というかむしろ市内地図のようだ。

 そして、現在位置の辺りに、青い×印があった。

「……まさか、宝の地図!」

 さすがに、ケイに呆れられた。

「じゃとしても、それならばとうに、この国の人間が調べておるじゃろ」

「言われてみれば、千五百年前の地図だもんなぁ」

 それに見つかっていないなら、こんな地図公開しているはずがない。

「それとこれ、現代では城の敷地外ではないかの? 大分縮小されたのであろ?」

「……言われてみれば、そうだな」

 なるほど、微妙に外だ。

 ……歩いて、距離的にはさほどでもない感じか? 一応メモしておくことにする。

「にしても、わざわざ青い印ってのも珍しい気がする」

 普通、こういうのって黒か赤じゃないだろうか。

「深読みすれば、青でなければ意味がなかったのであろう」

「深読みしなければ?」

「単に近くに青いインクしかなかったのじゃ」

「身も蓋もないな!?」

 と、突っ込んでみたけど、冷静になってみると、案外それが一番当たっているような気がしないでもなかった。

 工房の展示を一通り眺め、ケイが小さく息をついた。

「……しかし、これがホラでなければ、この時代の技術はものすごい事になるの」

「そうだなあ」

 物語、伝承としては面白いけど、さすがに全部ガチだったらえらい事だと思う。

「妾も負けてはおれぬの」

「いや、対抗意識燃やすなよ。なんか大変なことになりそうで怖いぞ」



 そして工房から少し離れた場所に、また小部屋があり石碑が設置されていた。

 右の壁にイラスト付きの説明、そして石碑の後ろには肖像画があった。

 左は出口だ。

「また碑石か。今度は誰のだ?」

「六禍選の一人、白々しきワルスとあるの。当時のオーガストラ帝国侵攻で、活躍したとある」

 肖像画を見る。

 蝶ネクタイつきの白いタキシードのような服を着た、そばかす顔の少年だ。

 大変失礼な評価だけど、何だかインチキ臭いというか、貴族の格好をした農家の子供、という印象を受ける。

 おまけにこの二つ名である。

「何か、詐欺師みたいな二つ名だな」

 僕の感想に、石碑の説明を読んでいたケイが頷いた。

「口先三寸という意味では合っておるの。その力は喋ったことを現実にするとある。言ったことがすべて真実になる、という事かの。例えば槍よ降れとか言ったら、空から槍が降るとか、お前らみんな死ねと言ったら全員心臓麻痺で死ぬとか」

「チートキャラばっかりだなオーガストラ帝国!?」

 そしてよくもまあ、ホント勝てたもんだ勇者ユフ一行。

 と、僕は思ったけど、ケイは例によって違う意見を持っているようだった。

「しかし本当に万能ならば、皇帝の部下に甘んじなどせぬであろ。何となく、想像はつくのじゃが」

「それって、弱点があるって事?」

「うむ」

 僕もちょっと考えてみる。

 声に出したことが、真実になる。

 とすると、その手の弱点の定番は……。

「……効果範囲に、自分も含まれる系かな? ここにいる全員心臓麻痺で死ねって言ったら、自分も死ぬみたいな」

 RPGで吟遊詩人の歌に敵味方おまけに自分まで揃って効果を受けるみたいなもんだ。

「妾も、同意見じゃ。効果が絶大すぎて、扱いに困ったとかそういう線が強そうじゃのぅ」

「僕だと、やりたい放題やってバッドエンドな流れまで見えた……」

 いくら怖くてもそんなおいしい能力、調子に乗って使っちゃいそうだもんなあ。

「だとするならば、正しい文法の勉強が必須な能力じゃな」

「面倒臭いな、それも……」

 ただ、目的が明確である分、勉強は進むかもしれない。

「他に考えられるとすれば、能力のオンオフが出来ない。普通に喋ったことが、うっかり真実になっちゃうケースもあるかな」

「おう、それは妾は思いつかなんだ。確かにそれは厄介じゃ。迂闊に喋れぬ」

「ちなみに攻略語はこの研究施設で、洗脳の手伝いをしたとあるの」

「ああ、そういうのにはすごく向いてそう」

 例えば「お前は僕達オーガストラ帝国の味方だ」とか言ってしまえば、どんなに国に忠実な戦士でも、コロッと寝返らせてしまえる。

 右のイラストの説明を、ケイは指差した。

 城から逃げ出す、狼頭と羽を生やして飛ぶ鷲頭。

「抵抗出来た将軍は二人。内の一人が狼頭将軍じゃったようじゃの」

「もう一人は、この鷲頭か」

「見た限りでは、飛行能力じゃの」

「でも、結局捕まったのか」

 一旦城から出た、という事は別の場所になるけど。

「その詳細については、城の敷地の外にあると案内があるのじゃ。ふむ、勇者ユフとの邂逅の場、とも書いておる」

「……それは、行ってみるべきだよなあ」

「うむ」

 いく事になった。

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