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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第二章 巨大都市・グレイツロープ
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二人の狼頭将軍

 城内通路の左右にガラス棚が陳列され、中には剣や甲冑が説明と共に展示されている。

「ラクストック村の博物館っぽいなぁ」

 通路をゆっくりと歩きながら、そんな感想を抱く。

「そりゃ同じ、博物館じゃからの。順路があって展示品がある。似てて当然ではないかや?」

「……そう言われると、身も蓋もないな」

「それで、解説はいるのかや?」

「出来れば」

 ……っていうか、展示品の説明も蒸語なんで僕には読む事が出来ない。

「出来るのじゃ」

 むん、とケイは得意げに胸を張った。

「じゃあ、頼む」

「うむ。まず狼頭将軍クルーガーじゃが、ユフ・フィッツロンと出会ったそれと、最後まで旅を全うしたのとは別人じゃ」

「へー……」

 普通に、感心した。

 そのまま、危うくスルーしそうになったが、幸い何とか疑問を抱く事が出来た。

「……うん?」

「ほれ、甲冑も二種類あるじゃろ?」

「あ、うん」

 言われてみれば、そうだ。

 大きいモノと、やや小さなモノだ。

 注意してみると剣も二振り。ブーツも二種類。

 スペアとか、そういうのじゃなかったらしい。

「最初に出会ったのが、ハドゥン・クルーガー。これが旅の途中で死んで、その跡を継いだのが娘のケーナ・クルーガーなのじゃ。よって、展示品も大きく二種類に分かれておる」

「待て待て待て! それ、かなり重要じゃないか?」

「うむ、重要じゃの。試験問題なら必ず出る類の問題じゃ。しかも試験で言えば序盤で出て来る基本情報じゃの」

「えー……?」

 微妙に納得いかなかった。

「こんなの、昔話には書いてなかったぞ」

「必要ないからのう。主役はユフ王じゃし。ただ、ちょっとでも詳しい本ならば、普通に載っておるじゃろうな。もっとも妾も知らんかったが」

 でもまあ、海外の伝承なんて案外そんなモノなのかもしれない。

 麦国の連中なんて、いまだに太照にはニンジャがいるとか思ってるらしいし。

 ケイはというと、展示品の説明をメインに読んでいたようだが、その二人の継承については首を傾げていた。

「ふむ、その辺に関してはここよりも、実際に継承されたイフの方が詳しそうじゃの。確か明日の目的地であったか」

「あ、うん。要するに、このグレイツロープで狼頭将軍は仲間になったけど、その将軍はイフで死に、その跡を娘が引き継いだ、と」

「うむ、そう言うておる」

 確かにそれなら、ここで語られるよりも、出来事を旅と共に追っていった方がよさそうだ。

 ただ、お話としてはやや唐突な感じがする。

「その娘ってのは、それまでどこにいたんだよ。伏線も無しに登場じゃ、読者は納得いかないぞ?」

 魔法やモンスターとかはともかく、それを抜いた史実ならしょうがないかもしれないけど、だとしても一応の説明ぐらいはあってもいいんじゃないかと思う。

「ふふふふふ。既に出ておる」

 何故か、ケイは得意そうだ。

「女性キャラなんて、これまでユフ王ぐらいしかいなかったじゃないか。っていうかここまでの道程なんて、ヒルマウントから将軍と出会うまでしか辿ってないぞ? 他ほとんどオッサンじゃないか」

 僕は、昨日の旅を振り返った。

「……いや、むしろオッサン以外、出てないんじゃないか?」

「性別不明なのが一人おったであろ」

「誰?」

「おう、あったあった」

 水袋だの鍵束だのの小物のコーナーを抜けると、そこには銀色に塗装された二輪車が置いてあった。

 ただ現代のバイクと言うよりは、まさしく鉄の馬に似せた二輪の乗り物、という感じだが。

「何でこんな所に、バイクが置いて――」

 ふと、引っ掛かるモノがあった。

「……ん、バイク?」

「銀輪鉄騎のダービーのモノじゃの。ほれ、封印の洞窟での戦いの後、こちらに調整を受けに戻ったという話もしたではないか」

「もしかして」

 確かに、あの騎士の性別は言及していなかったが。

「もしかしなくても、銀輪鉄騎のダービー=ケーナ・クルーガーなのじゃ」

「えええ……!?」

 大声を上げそうになり、僕は慌てて自分の口を手で塞いだ。博物館は、お静かにだ。

 ケイの説明は続く。

「つまりプリニースは、ハドゥン・クルーガー将軍を狼頭に改造する一方で、娘も弄っておったという事じゃの」

「き、鬼畜すぎる」

「それは、先刻聞いたのじゃ」

 ちなみにハドゥン・クルーガーの妻は実験に耐えきれず、死亡したとあった。それはそれでやりきれない。

「ほれ、これが銀輪鉄騎のダービーの素顔らしいの」

 そこには、肖像画があった。

 椅子に座っている軍服らしき服装の中年の男、その隣の貴婦人、さらにその後ろに長い銀髪を後ろでまとめた男装の、凛々しい少女が立っていた。

 おそらく、オーガストラ帝国の侵略を受ける前の、クルーガー家の絵なのだろう。とすれば、この男がハドゥン・クルーガー。隣がその妻。そして後ろに立つのがその娘であるケーナ・クルーガー、後の銀輪鉄騎のダービーという事になる。

「…………」

 さらにその隣、軽装鎧に身を包んだケーナ・クルーガーの肖像画もあった。前のと違う点と言えば、服装と狼耳、それにふさふさの尻尾だった。

 周りを見ると、狼頭の将軍の資料があちこちにある。これはつまり、初代の資料という事なのだろう。

 僕には、新たな疑問が芽生えていた。

「何で、父親は狼頭なのに、(こっち)は普通の獣人っぽいんだ?」

 すると、ケイは古めかしい紙が何枚も壁に広げられているコーナーに、足を伸ばした。

「ここに、プリニースの研究報告書があるのじゃ。うむ、解説によると」

「よると?」

「『萌えは大切に』だそうじゃ」

「本当のあのオッサンは、千五百年前の人物なのか!?」

 博物館であるという自重も吹っ飛んで、僕は大昔の人物に突っ込んでいた。

 そのまま、ケイはプリニースの資料を眺めていた。速読でも身に着けているのか、そのスピードは歩く速度と変わりがない。

「狼頭将軍父娘の性能は、どちらも速さを追求した改造とあるの」

「つまり、すごく速く動けるって事か」

「読んだ感じ、むしろ脳の処理能力を高めた風じゃが」

「ごめん、よく分からない。動体視力とか、そういうのじゃなくて?」

「それも含めるというかじゃ、そもそも動体視力というのも脳が処理するモノなのじゃよ? 見るとか聞くとか、その辺は全部脳じゃ。もちろん神経や筋肉も改造したのじゃろうが、その時代で脳に着目する辺り、やはりプリニースとやらは頭の配線がどっかイカレておったのじゃろうなぁ」

「褒めてないよな、それ」

 む、とケイは眉をしかめた。

「何を言う。メチャクチャ褒めておる。ただ、当時を生きておったプリニースはさぞやもどかしかったであろうな。自分の才に世間がまるでついてこれなんだのじゃから。案外、帝国に属しておったのもその辺かもしれぬ」

「…………」

 それってつまり……と、僕は自分の中でその理由が頭に浮かべていた。

 それを見透かすように、ケイが僕を見上げていた。

「申してみい」

「……帝国にプリニースの才の理解者がいたか、いなくても自分の力を可能な限り発揮出来る資金を持っていたか」

「うむ、よい答えじゃ」

 正直、正解でちょっと嬉しかった。

「話を戻すのじゃ。この場合の脳を弄ったというのはじゃなー……うーむ、あらゆる物事の処理が速く出来るという事じゃ」

「スパコンみたいなもん?」

「うむ。今お主が見ているモノや聞こえているモノ、そのすべてを今の何倍ものスピードで処理出来るとすれば、それは相対的に見れば、世界の流れがゆっくりになるという事じゃ。ぶっちゃけると、周りを超スローモーションに出来る。突き詰めれば時間が止まったようなレベルにも出来るじゃろう」

 もっとも、実行するには肉体強化は必須、服も空気の摩擦で燃えるので専用のスーツが必要になるじゃろうがの、とケイは付け加えた。

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