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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第二章 巨大都市・グレイツロープ
36/155

狼頭神殿にて

 幅の広い階段を登り、大きな謁見の間に到着した。

 玉座の周囲にはポールが設置され、ロープで隔離がされている。

 ……いや、そんな事しなくても触ったり座ったりしないと思うんだけど。

「それは太照の人間の発想じゃ。椅子があるなら記念に座ろう、なんて考える人間の方が多いと思うぞ?」

「そういうモンか……? いや、うん、それはあるか」

 疑問を抱いたが、記念撮影をするアホな観光客の想像は難くなかった。

 ケイはもはやパンフレットを開かず、その内容を説明してくれた。

「当時の領主、つまり帝国の代官じゃの。これは先程も話した通り、黒猪族と呼ばれる種族じゃ。まあ、半分黒い猪の人型モンスターじゃの」

「そのまんまだよな」

 しかしイメージとしては何だか、前線で戦うようなタイプっぽいんだけど。

 猪って言うと、猪突猛進とも言うし、突進が得意そうな気がする。

「代官はグル、チャック、パーラという三兄弟という話じゃの。長男よりも次男、次男よりも末っ子の方が頭はよかったとあったのじゃ。城外や城内の罠のほとんどを、パーラが考案したという」

「罠なんてあったか?」

 少なくともここに来るまでの廊下や柱の間に、それらしいモノは見当たらなかったけど。

 という疑問に、ケイは難なく応えてくれた。

「……現代に仕掛けられておっては、妾達は死んでおるわ。第一、千五百年前からどれだけ代替わりしていると思っておるのじゃ」

「言われてみれば、そうか。でもせっかくだから、その跡ぐらい残してくれててもなぁ」

「一応、どういう罠があったかは、資料としては残っておるようじゃがの」

 再びパンフレットを取り出すと、ケイはそれを僕に預けてくれた。

 文字は分からないが、写真は理解出来る。

 …………。

「仮に罠が残っておったら、それがあると知ってて進んでも十回は死んでおったの」

「……うん」

 ぐうの音も出なかった。



 謁見の間を出て、今度は逆の外廊下に出た。

 すると、庭に倉庫らしき石組みの建物があった。これも順路か。

 近付くと、その施設が何か、ようやく分かった。

 倉庫じゃなかった。倉庫には門の左右に、剣を地面に差した大きな戦士の像なんてないと思う。

「城の中にも神殿があるとか」

「戦で籠もる事を想定しておるのじゃろ。小さな商店もあったそうじゃ」

「そして経理の人間が横流しを」

「打ち首並の不謹慎ぶりじゃの!?」

 宿舎もあったらしい。ケイの言う通り、この城のみで生活出来る環境が整えられていたって事か。

 そんな事を考えながら、オレンジ色の灯りに照らされた荘厳な神殿の奥へと進む。

 左右には戦がテーマの壁画が刻まれている。

 写真はオッケーらしく、観光客がパシャパシャとカメラを構えていた。

 神殿の奥には、神像が祀られていた。

 胡坐をかく狼頭将軍。その後ろで、立って剣を掲げる狼頭将軍。

 ふむ……。

「この神殿、あとで出来たモノだな。少なくともユフ一行の旅路より後だ」

「そうじゃの。生きている間に祀られるケースは皆無とは言わぬが、珍しいじゃろ」

 僕の推理はあっさりと看破されてしまった。

 ……でも、何で二つあるんだ?

 そんな疑問が、頭をもたげる。

 一方、ケイは神像足下にある泉に、コインを投げ込んでいた。そして手を合わせる。

「刻まれた文字には、戦神信仰とあるの。なむなむ」

「待て、それ何か違う」

「こういうのは気持ちの問題ではないかの?」

「せめて神殿の祈りにするべきじゃ……って、あった!」

 神殿の太い柱と柱の間に、長いテーブルとパイプ椅子だけの売店があった。

 うん、正直こう、神殿の雰囲気台無しだけど、抗議する筋合いでもない。

 売店では、ラクストック村と同じく、御守りが売られている。

 狼の横面が刻まれた、コインに似た銀円盤――タリスマンを購入する。

 それをバッグにくくりつけた。

「よし、ここでの最大の目的達成」

「あっさり終わったの」

 同じモノを、ケイも購入した。

「そりゃハードル高くする必然性がないからな。それでも、お前がいなきゃ相当きついミッションだぞこれ」

 そもそも、今朝の教会からのスタート時点でまだ、どこかの駅で足止めを食らっていた可能性もあった。

「ふふふ、頼りにするがよい」

「なむなむ」

 素直に僕は、手を合わせてケイを拝んだ。

「その祈りは違うと思うのじゃ!?」

「気持ちの問題だろ」

「ぐぬぬ」


 神殿を出て、公園のような芝生の庭を歩く。

 城内と言っても広大だ。

 近くにあった小さな丘の上にあった円筒状の建物を見た。

 何となくボードゲームの駒みたいな造りだ。塔にしてはやや背が低い。三階建てぐらいだろうか。

 例によって石造りだ。

 軒の部分に二本の剣が交差する鉄板レリーフがあったので、何となくこの建物が何なのか分かった。

「道場もあるんだな」

 訓練用と思われる甲冑を被った案山子みたいなのが何本か、表に立てられているし、間違いないと思う。

「あっちにもあるのじゃ」

「え?」

 ケイに言われてそちらに顔を向けるとなるほど、少し離れた場所にまるで双子のように同じような建物があった。

 目を凝らしてみると、鉄板レリーフには三本の斜線。これは何なのか、よく分からない。

 が、同じ造りならあれも道場だろう。

「……どうなってんだ?」

 そしてピンと来た。

「ハッ、これは二つの流派でどちらが優れているか、競い合わせているシステムか」

「いや、単に二種類全然違う道場のようじゃぞ。そっちは剣術道場、こっちは牙爪術道場とあるの。牙爪術は獣人族向けのモノじゃの」

 なるほど、剣用の道場と格闘用の道場だったという事か。

 中を覗き込む……前に、立て札があった。

 ケイに読んでもらう。

「見てみたかったけど、休業かぁ……」

 驚く事に、現代も使用されている、という事が分かっただけでも収穫だったかもしれない。

「どちらにしても、平日のこの時間では開いておらんかったじゃろ。古代や中世ならばともかく、外国じゃろうが平日は皆仕事や学校じゃ」

「言われてみれば、そうか」

 また、立て札には別の事も書かれていた。

 曜日と時間だ。

「体験道場とか、ちょっと興味あったんだけどなあ」

「お主、運動はからきしであろうが」

「僕より鈍臭い奴に言われたくないよ!?」



 庭から、再び城の中に戻る。

 ケイの説明によれば、次はいよいよ僕的にメインである、狼頭将軍関連の展示場があるらしい。

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