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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第二章 巨大都市・グレイツロープ
35/155

グレイツロープの魔城

 庭園に面した廊下を歩く。

 この辺りは、優美さよりも質実剛健なイメージの通路だ。

 庭の広さから考えても、おそらく兵士達の訓練場を兼ねていたんじゃないだろうか。

 色んな国の観光客の中に混じりながら、ケイがパンフレットを読み上げる。

「狼頭将軍クルーガーはかつてこの城に勤めており、帝国の支配後は逆に攻める事になった、とあるの」

 グレイツロープ城はかつてその地方を治める領主がおり、クルーガーは彼に仕えていた。

 が、オーガストラ帝国の支配によりこの城は魔城と化した。

 領主一族は皆殺しにされ、多くの臣下もその後を追うことになった。

 その一方、領主に代わってこの城を治める事になった黒猪族の三兄弟により、力のある兵士達は異形の兵に変えられたという。

「その、兵の改造にはプリニースの存在があったとあるの」

「またあのオッサンか!」

 ラクストック村の外れにある採石場で、勇者ユフに破れた学者だ。妙な所でその名前が出て来たというか、いやそんなオーバーテクノロジーぽいのが出て来た時点で、ある意味必然か。

 っていうかファンタジーならせめて、呪いとかにならないモノか。

「ん?」

 そういえば改造と言えば。

「もしかしてラクストック村で連れてた部下、えーと……」

「銀輪鉄騎のダービーじゃの」

「そう、それ」

 千五百年前の世界観のくせに、バイクかっ飛ばした甲冑騎士(かめんないたー)である。

「ここで、その調整を受けていたと考えるのが妥当じゃの。そして、洗脳を受ける前に狼頭将軍クルーガーは城から脱走した」

「ガチで仮面ナイターじゃないか!?」

 しかも元祖というか、一号ナイターである。

 ケイは、庭の向こうにある高い城壁を指差した。まあその向こうもまだ、城内というか敷地内の公園なのだが。

「……で、脱走したクルーガーは追っ手を倒しつつ城の周囲の森に隠れ、反撃の機会を狙っておった。獣人とは違い、本当に頭を狼にされたらしいからの。抵抗軍(レジスタンス)にも入れんかったようじゃ」

「不憫な話だな」

 異形である故に、人の群れには参加出来なかったと言うことか。

 確かにそんな頭の人じゃ、そもそも話し掛ける事も難しそうだ。僕なら逃げる。

「ちなみに、そのクルーガーの追っ手というのは、改造洗脳された将軍達、すなわちかつての同僚達じゃったらしい」

「オーガストラ帝国マジ鬼畜か」

 思わず将軍に同情してしまう、僕だった。こんな風に書いているが、修業や生活を共にしていた同胞を倒さなければならなかった当時の将軍の心境を思うと、その辛さは察するに余りある。

 ……なんて僕が感傷に浸っている横で。

「ふぅむ、ふむふむ」

 何かケイがパンフレットを見て、しきりに頷いていた。

「おい、そこで止めるなよ。一体何が書いてあるんだよ」

 どうも、ケイの琴線に触れる何かが、書かれていたようだが、あいにくと蒸語の長文なんて、辞書でもなければ僕には分からない。

「うむ、それはもう少し先にするのじゃ」

 ニヤニヤと笑いながら、ケイはパンフレットを閉じた。

「何で、焦らす」

「妾も、実物を見てからのしたいからの。旅の目的にも適う」

「……お前の目的?」

 そういや、プライベートに関わるからって聞いてなかったな。

「うむ。いい感じに脳が刺激されておるのじゃふふふふふふふふふ」

「おいおいおい……」

 不気味な笑いを浮かべるケイに、ちょっと僕は引き気味だった。


「それにしても」

 通路を曲がり、再び屋内に入る。

 力強い感じだった石造りの通路が、通路を曲がる度に繊細で優美な宮殿へと変わっていく。

「その、森でユフ・フィッツロンと出会った?」

「そのようじゃの」

「たった二人でこの城、何とかなるモノなのかねぇ」

 彫刻の彫られた柱が均等に並んだ通路を歩く。

 広い城には当然、それなりの兵士がいただろう。

 攻略するのに、戦力としてたった二人というのは、どうなんだろう。……まあ、RPGとかでも、そういう謎は常にあるんだけど。何でアレ、王様とか軍隊で支援しないんだよと思わないでもない。

「勇者ユフは確か不老不死じゃったの。そして狼将軍クルーガーは改造人間じゃったという」

「……まあ、そう聞くと、無双出来そうな気もするな」

 不死身の勇者に、改造将軍。

 フレーズだけだと何だか悪役っぽい気もする。

「あとは主人公補正じゃの」

「それ、現実(ガチ)にあるの!?」

「真面目な話をすれば、操られた存在は自律した存在よりも一段劣るケースが多いのじゃ。上位存在の指示というワンクッションがあるからの」

 したり顔で、ケイが講釈してくれた。

 やたら足音の響く、柱の回廊を進んでいく。

 灯りは壁の燭台に灯されているが、通路自体はどこか薄暗い。

「そういうもん?」

「もっと分かりやすく言えば、例えばロボットは行動を縛る分融通が利かぬという事じゃ。どこまでも追い掛けと指示をすれば、どこまでも相手を追う。例えば罠があってもどこまでも追って普通に引っ掛かる」

「……そう言われると、なるほどって気になるな」

 かといってこまめに指示するとなると、数に対し命令する人間の負担が増える。

 完全に自律させるなら、そもそも改造洗脳する意味がない。

「利点もその分あるがの。やる事に躊躇がない。命じられたなら、例えかつての仲間であろうと殺すじゃろう。要するに、そうした存在に対する戦い方を知っているかどうか、じゃな」

 そして、とケイは指を立てた。

「そういう意味では、狼頭将軍は逃走中に経験を積んだ」

 なるほど、追われている間の、かつての仲間(しょうぐん)達との戦いは、しっかり糧になっていたって事か。

「ユフ・フィッツロンは?」

「彼女もまた、経験を積んでおる。一度だけじゃが」

 どこ、とはケイは言わなかった。

 って事は、僕が知っているって事か。少し考え、思い至る。

「あ、銀輪鉄騎のダービー」

「そういう事じゃ」


 通路を抜けると、そこは食堂だった。

 ケイによると正確には、いくつかある食堂の一つ、らしい。

「他に、千年前にあったラヴィットはネモルドーム城の三魔王戦、第一回戦において活躍した暗殺姫が有名とあるの」

「三魔王戦? 暗殺姫?」

「うむ。冷酷王、狡猾王、統率王の三魔王……とあるの。この三代の魔王が順にネモルドーム城を治めたのじゃが、最初の冷酷王を倒したのが、このグレイツロープ出身の暗殺姫と書いておる」

「女性が、その、余所の王様を倒しちゃった訳?」

「盲点を突いたと書いておるが……んんー、この辺はむしろ、ラヴィットについてから調べた方がよいのかもしれぬの。そも、メインはこちらではないはずじゃ」

 開いたパンフレットとにらめっこしていたケイだが、やがて諦めたのか、再びそれを閉じてしまった。

「言われてみれば、そうだな。僕が知りたいのは、もうちょっと古い時代だし」

ちょっとだけ最後を手直し。

違う短編のネタバレになってました。

……いやまあ、うん、四日目のお話でどうしようかなってのもありますが。

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