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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第二章 巨大都市・グレイツロープ
34/155

フォレストスライン駅からグレイツロープ城公園を巡る

 グレイツロープから円環線に乗り継いで十数分、僕達は目的地であるフォレストスライン駅に到着した。

 ただ、若干の不満がないでもなかった。

 いや、無駄はなかったんだけどさ……。

「あの駅名は絶対トラップだと思う。神父に教えてもらってなかったら、前の駅で降りてた」

「同感じゃ。……まあ、どこから入るか拘らぬならどちらでも、とは言うておったが、やはりここは堂々と正面から入るべきじゃの」

 ちなみにこのフォレストスラインの一つ前、北にある駅の名前をズバリ、グレイツロープ城公園駅という。

 ホント、そのまんまな名前な訳だが、実は正面から入りたかったらフォレストスライン駅(こっち)の方が早いというトラップが仕掛けられているのである。

 そしてケイの言う通り、入り口に拘らないならば、別に|グレイツロープ城公園駅《向こう》でもいいという……いやはや。

 つまり、お城なので入り口は複数あるのだ。

 更に言えばこのフォレストスラインとグレイツロープ城公園駅、実に近い。

 この駅前から、向こうの駅が肉眼で余裕な距離だ。

 神父曰く、どこかのテレビ番組ではこの二つの駅の間で、列車と人間、どっちが早く到着出来るか競争した事もあるらしい。……何というか、平和な国だなぁと思う。

「……それにしても、少々人が少ないと思わぬか」

 ケイの指摘で、僕は駅の周囲を見渡した。

 否、人自体は多い。

 スクールバッグを肩に掛け、自転車で通り過ぎる僕達と同年代の少年。

 または談笑しながら歩く、リュックを背負った女の子三人。

 忙しそうに早足で駅の改札を潜るスーツの男性。

 吸い終えた朝食らしき携帯ゼリーをゴミ箱に捨て、これまた早足で駆けていくキャリアウーマン風の女性。

 つまり、僕達みたいな観光客は、あまり見られないって事だろう。

「そりゃそうだ。曜日が世界共通なら、今日は平日だからな。こんな時間にのんびりとお城見物に来る人なんて、地元の暇人ぐらいのもんだろ」

 ジョギングをするジャージ服の人や、犬の散歩をしている老人ならチラホラと見受けられた。

「言われてみれば、忙しそうな人がチラホラと見えるの」

「時間的にはちょうど学生は登校時間、社会人は出勤時間ってトコだからな。さてま、観光客である僕達は、堂々と中に入るとしよう」

「うむ。……でっかいのう」

 やや斜面になった入り口をのんびり歩きながら、ケイが正面の城を見渡した。

 駅前はまだ外堀手前に過ぎず、王城自体はかなり遠くに見える。

 結構歩く事になりそうだ。

「神父の話じゃ、これでも五百年前の大戦の後、相当外堀を埋められたって話なんだよなあ」

「ふむぅ。それでこれか。攻めるのは大変そうじゃ」

 別に僕達は、この城を襲撃に来た訳じゃないんだが。

「ちなみに、城の開城時間までは実はまだ余裕があったりする」

 時計を見ると現在、午前八時十分。

 中央の王城が開くのは、午前九時。

 あと、五十分もある。……ちなみに早く来すぎたって訳じゃなくて、大体予定通りの時間なのだ。

「むむ……ならばどうする。かくれんぼでもするのか」

「何でそこでかくれんぼ」

「では、鬼ごっこか」

「どっちも二人じゃ厳しいな! 城に入れないだけで、周囲の公園は散策出来るんだよ。イベント開催用のホールもあるらしいし、せっかくだから外観だけでも見物しよう」

 僕は手帳を確かめながら、先を促した。地図がないのが悔やまれるが、その辺は標識でどうにかなる……や、読むのはケイなんだけど。

「よく調べておるのう」

「全部、神父からの情報だけどね。ホントすごくいい人だった」

「うむ」


 という訳で、公園内の散策を開始した。

 特に念入りに見て回ったという事はなく、単に歩きながら景色を楽しんだだけ……なのだが、まず噴水のある広場を通り、音楽堂(野外音楽堂らしかったけど門が閉まっていたので外観だけ見物)、やたら道の広い森の遊歩道を抜けるとまた広場に到着し……何だか気がつけばグレイツロープ城公園駅よりも更に北に進みそうになってて、慌てて引き返した。

 それなりに冷えるとは言え、歩き続けると汗が出て来る。

 あまり身体を冷やすのも具合が悪いので、歩きすぎるのもよくないのだ。

「……何というか、外を回るだけで一仕事になりそうなのじゃが」

「僕も思った。適当な所でやめよう」

「うむ。何か乗り物でもなければ、とてもではないが持たぬ」

「ひとまず内堀の中に入ろう。そろそろいい頃だと思う」

 ……何と、この城は中に神社や武道場もあるのだ。

 いや、僕が驚いているだけで、これが普通なのだろうか?


 そして王城の麓でしばし暇を潰す。

 間近に見る石造りのグレイツロープ城は、荘厳の一言だ。

 正確には僕のボキャブラリーが貧困なのが、問題なのだが。

 近くで見ると白に近い灰色だが、遠くから見た時には真っ白だった。

 形はというと、幾つもの四角いブロックや円塔が重ねられ、外から見ただけでもこりゃ内部は迷宮だなと感じさせられる。

 これがゲームなら、中に絶対ワープゾーンが設定されてるに違いない。

「立派な城だなぁ」

「壊すのには骨が折れそうじゃ」

「だから、何で攻略前提なんだよ」

 などと喋っていると、無事開城時間となった。

 いくら観光客とはいえ、朝一の人間はやはり少ないらしく、待つこともなく中に入る事が出来た。

 古い石造りの城内には、当たり前だが後で設置された受付や展示コーナーがあった。

 順路通りにいけば、最後にはやはりここに戻ってくるらしい。

 土産物コーナーは、その時に見ればいいのだろうが。

「……目を輝かせても、ダメだぞ。金がない」

 ケイが興味を抱いたのは、受付でレンタル出来る、イヤホンで聴くタイプの案内(ガイド)機器だった。

「ぬぬぬ、金子に余裕があれば、妾が自ら作るモノを」

「いや、ホントに作れるかどうかはさておき、結局金掛けてんじゃん、それ」

 高すぎる……という程じゃないけど、パンフレットでどうにかなるなら、我慢したい、という金額だった。

「まあ、太照語のガイドはちょっと惜しいけどね」

 結局、諦めることになった。

「じゃのう。まあ、そこは妾が無料のパンフレットから通訳してやるのじゃ」

「よろしくお願いします」

 素直に、僕は頭を下げた。……いやだって、実際ここはケイが頼りだし。

「よしよし殊勝な心がけじゃ! 任せるのじゃ!」

 そして張り切るケイ。

 僕達は、城の中を歩き始めた。

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