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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第二章 巨大都市・グレイツロープ
33/155

列車にて

 目覚まし時計のスイッチを切る。

 時計は午前の五時十三分。

 ……どうやら、鳴る数分前に、目が覚めたようだ。

 カーテンを開くが、外はまだ暗いままだった。

 着替え、部屋を出て、共同の洗面台で顔を洗う。うん、途中で新しい下着は買っておいた方がいいな。今はまだ耐えられるけど。

 そして、ケイが起きてくる様子はない。

 部屋をノックし、返事を待つ……が、うん、これは寝てるな。

 しょうがないので扉を開き、ベッドに近付いた。膨らんでいるシーツが規則正しく上下を繰り返している。

「起きろー」

 シーツを剥ぎ取る。

「むにゃ……もう食べられないのじゃ……」

「何てベタな夢を見てるんだ……」


 何とか起こして、旅の準備を整えさせた。

 いやもちろん、着替えなんかは自分でやらせたのは言う迄も無い。

 ベッドのシーツも整えたし、飛ぶ鳥跡を濁さずという言葉は守れたと思う。


 朝靄が漂う中、僕達は神父に頭を下げた。

「お世話になりました」

「なりましたのじゃ……」

 まだ寝ぼけているのか、ケイのテンションはおそろしく低かった。

 が、それでも通訳を果たしてくれたのは、立派だと思う。

「いえいえ。よい旅をお祈りしていますよ」

 そう笑ってくれた神父に見送られ、僕達は駅に向かった。

 教会から駅までは近い。歩いて五分もかからない。

 ……考えてみれば、すごくいい立地条件だったんだよな、教会。

 ただ、商店街なんかは見当たらなかったから、生活の場としてはどうなんだろうなーと思わないでもない。まあ、余計なお世話なんだろうけど。

 ブックメーカーセンターの前を通りながら、横を歩くケイを見た。

「……まだ眠たそうだな」

「ZZZ……」

 コックリコックリと船を漕いでいた。

「歩きながら寝てるだと……!?」


「はっ!?」

 と声を上げて、ケイが覚醒したのはそれから三十分後の事だった。

「ど、どこじゃここは!?」

 慌てて、車内を見回す。

 既に僕達は、鈍行列車に乗っていた。

 二人掛け用の座席が向かい合わせになっている。

 外はうっすらと朝日で明るい田舎の風景が流れていた。

 空気は冷たくも、車内の暖房のお陰か心地いい。寒くなってきたら閉めよう。

 車内には、僕達以外にはまだ、乗客はいなかった。

「おはよう。電車の中だよ。はい、駅弁」

 僕はヒルマウント駅で買った、手作りサンドウィッチとジュースを渡した。

「ぬ、寝起きで飯は……」

 その途端、ぐぅ、とケイのお腹は正直な音を鳴らした。

「……むむむ?」

「寝起きっていうか、結構な時間が経ってるけどな。食べないんなら僕がもらうぞ」

 サンドウィッチは二つあり、一つはローストビーフを挟んだ白パン、もう一つはポテトサラダを挟んだ黒パンだ。それがロール型に巻かれケースに収まっている。

 ジュースはリンゴ味。ちなみに僕はホットの缶コーヒーである。

「た、食べるのじゃ! 妾の分なのじゃ!」

 ケイは、自分の分のサンドウィッチを死守する。

 まあ実際、取るつもりはないんだけどさ。

「本当なら快速で、もっとゆっくり起きられるんだけどなあ……」

 正直、僕も少々眠かった。自然、アクビが出てしまう。

「金銭面の不自由は仕方なかろ……むにゅ、まだねむい」

「あ、まあ別にまだ寝ててもいいんだけどね。ネオン・グレイツロープまでまだ相当時間あるし」

 数十分といっても、貴重な睡眠時間だ。どちらかが起きていれば、寝過ごす事はないだろう。

「うむ、眠くなったら寝るのじゃ」

「ネオン・グレイツロープに着いたら次はグレイツロープに乗り換え、さらにそこから円環線でフォレストスライン? ああもう、ややこしいなあ」

 一応、グレイツロープ駅でルートはメモっておいたが、蒸語だったし、何度も確かめる羽目になったのは誤算だった。

 頼りの翻訳係は、その時、僕の背中で眠っていたし。

「そうかの? こう書けばシンプルであろ」

 僕の手帳を覗き込んだケイは、サラサラサラと手帳に書き込んだ。


 ヒルマウント→ネオン・グレイツロープ→グレイツロープ→フォレストスライン


「……確かに、その通りだ」

 いや、間に何々線、とかいうのがあって、それがゴチャゴチャしてた原因なんだけど。

 その辺は、ケイを頼りにさせてもらおう。

「まずは、巨大要塞グレイツロープ城じゃの」

「うん。そしてユフ・フィッツロンが最初に仲間にする人物、狼頭将軍クルーガーの故郷でもある」


 知っている範囲で、整理する。

 故郷を発ったユフ・フィッツロンは宝玉の導きで、僕達の目指しているグレイツロープに向かった。

 狼頭将軍というのはそのままの意味で、頭が狼の頭をしていたという。

 獣人達とは違うというか……人間でいえば、頭が猿みたいなもんだ。

 元々は、その地域――つまりグレイツロープ――を治める王に仕えていた将軍だったが、オーガストラ帝国の侵攻によって虜囚の身となり、魔法使いによって獣面人身の怪物に仕立て上げられた。

 その戦闘力は凄まじく、また神速の動きは他の追随を許さなかったという。

 そのまま本来なら、洗脳されてオーガストラに仕えるはずだったが、実験室から脱走し、放浪の身となった。

 何だか、まんま仮面ナイターの世界観だなあという感想である。

 確か、抵抗軍(レジスタンス)と連携を取っていたんだったか。

 グレイツロープ城の近くにあった森に潜み、虎視眈々と牙と爪を研いでいたが、ユフ・フィッツロンに敗れ仕えるようになり、国を滅ぼした当時の支配者を討ち倒した。

「……んー」

 つまり、要約するとすごく速い狼頭の将軍だ。

 我ながら頭の悪い整理を終えると、いつの間にかネオン・グレイツロープ駅が近付きつつあった。


 予定通り、ネオン・グレイツロープ駅からグレイツロープ駅に乗り継ぎ……そこで、僕達は唖然とした。

「でかっ! ひろっ!」

 天井が恐ろしく高い。

 屋根の梁まで、何階分あるのだろう。

 そして壁には幾つものテナント、どうやら商業スペースと一体化された駅らしい。

 視点をやや下げると、空中回廊もあった。

 下へ降りる階段もあるという事は、つまり上下から連絡が取れるという事か、この駅。

 そして、プラットフォームは一体幾つあるんだ? 六つ? 七つ? いやいやいや、何だこの馬鹿でかい駅。

「おおおおお、人工の迷宮だのうすごいのう」

 一方、ケイは駅の見取り図に興奮していた。

 立体図になっているそれは、ケイの言う通りまさしく迷宮だった。

 ……地下鉄との連絡口にもなっているプラムフィルド地下街は、何だか訳の分からない事になっているし、正直にいおう。僕は、地図を見ながら歩いても、これは迷う自信がある。

「って呑気に言ってる場合か! 円環線の場所を探してくれ! 乗り継ぎしなきゃ!」

 列車のアナウンスと出発のベルの音で我に返った。

「のう、進む。このプラムフィルド地下大迷宮、歩いてみぬか? 何とまだ改装中で、さらに広がるらしいのじゃ!」

「興味はあるけど却下だ! まずは南だ南! 行くぞ、フォレストスライン!」

 僕はごねるケイを抱え、円環線に向かうのだった。

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