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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第一章 始まりの地・ヒルマウント
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明日の打ち合わせ

 食事が終わり、全体での後片付け。

 太照のように風呂はないらしいが、シャワーは借りる事が出来た。

 旅で教会にお世話になるケースが想定されているのか、部屋は幾つか空きが用意されているらしく、僕もケイもそれぞれ個室が与えられていた。

 それぞれ、ベッドとテーブルのみの簡素な部屋だ。

「うう~~~~~、眠いのじゃぁ……」

 白いダブダブの夜着で、ベッドに座ったケイがぐしぐしと目を擦る。残念ながら色気は皆無だ。

 ……いや、教会で不埒な事をしでかす訳にもいかないし、そんな度胸もないから、ある意味助かりはしたけれど。

 時刻は夜の九時前。

 寝るには早すぎるけど、昼からの旅に、予定外の奉仕(ろうどう)で疲れるのも無理はない。引きこもりだって言ってたしな。

「後もう少し、我慢してくれ。寝る前にやるべき事があるからな」

「むうぅ……歯磨き面倒臭いのじゃ」

「いや、それはやれよ!? 使い捨ての奴、もらっただろ!?」

 何というか、色々教会の人にはお世話になりっぱなしだ。

 本当にここまで、厚意に甘えていいのだろうかと、ちょっと不安になってくるほどだった。

「他に何かあったかのう」

「大ざっぱに今後の計画。それと細かく言えば明日の計画だ」

 僕は、手帳を広げた。

「むう、それは大切じゃの」

「だろ?」

「しかし眠いのじゃ……」

「なら、ちゃっちゃと片付けないとな。ここでくたばられても困る」

「くぅ」

 カクン、とケイの首が前に傾いだ。

「って言ってる傍から寝るなよ!? 寝るな! 寝ると死ぬぞ!?」

「救助犬ぷりーずなのじゃあ……」

 よかった。どうやら、まだ完全に眠ってなかったようだ。

「ああもうグダグダだなぁ。とにかく五日間の予定を話すぞ? そんなに難しくない。明日がグレイツロープ、一日順にイフ、ラヴィット、シティムって順番だ」

「……うーむ、土地の名前を言われても、ピンと来ぬのじゃ」

「一応地図も用意してある。というか、ラクストック村の博物館にあったパンフレットなんだがな」

「目敏いのう」

 今日歩き回ったのが、ヒルマウント。

 明日はその西にある大都市、グレイツロープ。繁華街に電気街、空港のあった都市でもある。大ざっぱに東西南北の区に分ける事が出来るが、全部回ると一日では済まないだろう。

 で、三日目はそこから南下して聖都のイフ。寺社や遺跡がやたら多い。遺跡は広く点在し、ガストノーセンの古代王朝遺跡とかも残っているとか。

 四日目、北東に登りラヴィット。ここの大峡谷は外せない。他にも五百年前にこの地であった群雄割拠の争いの中心地であり、歴史に名を残す王が何人も輩出されたとか、一大工業地帯であるとか……だが、これらはユフ一行とは関係ないな。

 そして最後が西に移動して皇帝城や大博物館のあるシティム。実はグレイツロープからシティムの方が相当近いんだけど、これはまあ、ユフ一行の旅と同じように進むのがいいだろう。純粋にユフ一行の足取りを追っただけでも、間違いなく一日では足りない。

「……とまあ、こんな具合だ」

 僕は手帳に書き込みながら、ケイに説明した。

 大分目も覚めてきたらしく、僕の言いたい事も説明する前からあっさり理解してくれたようだ。

「一日一都市とは、実に強行軍じゃのう。しかも盛りだくさんすぎじゃ。全部回れるとも思えぬ」

「そこだよ。だから、絞っていかないといけない。かと言って、僕だけの意見で通すとそっちが退屈するだろ。明日、行き当たりばったりで行く訳にもいかないから、出来れば今の内にスケジュールを固めておきたいんだ」

「ふむ、一応妾の意も汲んでくれると言うのかや?」

「そりゃ、一人旅なら好き勝手させてもらうけどな。大体君がいないと、看板一つ読むのもおぼつかないし、機嫌は取っておかないと」

「よかろ。といっても妾の要求は一つじゃ」

「何だよ」

「美味いモノが食べたいのじゃ!」

 実に分かりやすい要求だった。

 ただ、問題が一つあった。

「む、う……美味い店とか知らないぞ?」

 外国の、美味い飯屋さんなんてネットの口コミでもなきゃ、まず分からないだろう。

 そして現在、手元にネット環境はない。

 もしかすると神父さんは持っているかもしれないが、さすがにそこまで求めるのは図々しいにも程があるだろう。

 ただ、美味いモノではなく違うモノなら提案出来る。

「そこはこう、妥協じゃないけどあれだ。その都市の名物とかで、どうだろう。美味いかどうかは保証出来ないけど、こっちでしか食べられないって意味だとレアだろ?」

「ふむ、よかろ。して、ススムは何が希望なのじゃ」

「ま、僕の旅は最初から一貫して、ユフ・フィッツロンとその一行の旅路だからね。全部回るのは無理だとしても、ある程度は博物館で補完出来る」

 逆に言えば、その地にある博物館はまず外せない。

「明日、直接見てみたいのは、グレイツロープ城とその周辺かな。グレイツロープの遺跡は他にもあるけど、大抵郊外で遠いし、ユフ王関連で重要なのはやっぱりここだ。午前中にここを回って、午後は電気街と繁華街でどうだろう」

 幸いな事に、ユフ・フィッツロンが最初の仲間であるハドゥン・クルーガーと出会ったのもこの付近。

 博物館も城の敷地内にあるのだ。

 つまり、目的の方はほぼ午前中で片付いてしまい、午後には余裕が出来るのだ。

「悪くないの。金子に余裕があれば、電気街で少々買いたいモノもあるし、食に不満があれば繁華街で巻き返しが出来る」

 明日のスケジュールには、ケイも不満はないようだった。

「まあ、不安材料があるとすれば……」

「何じゃ。何故妾の顔を見る」

「……いや、多分明日、すごい早起きだから、お前が起きられるかどうかに今回のスケジュールの成否が掛かっているというか」

 現在、夜の九時過ぎ。

 なのだが、明日のスケジュールでは五時起きになっているのだ。

 もちろん、僕が寝坊するという不安もあるが。

「ふ、任せろなのじゃ! 妾は太陽の日とかの休みの日には大抵早起きなのじゃぞ!」

「威張れる話でもないけど、アテにさせてもらうよ。ちなみに起きられなかった場合は……」

「お、置いて行かれるのかや?」

「いや、それはない。単に寝床に押しかけて、強制的に起こすだけ」

「乙女の寝室を何と心得る!?」

 一応ノックはするつもりだが、その時点で彼女が起きて出迎えてくれると思えるほど、僕は楽観主義者じゃない。

「あと、寝る前にトイレには行っとけよ? 漏れそうならしょうがないけど、夜中に起こされるのは出来れば遠慮したいからな」

「……本気で妾を子供扱いじゃのう」

 ともあれ、話はまとまった。

 ケイが部屋を出、僕も寝床に就いた。

 ……さすがに疲れていたらしく、意識はあっさり闇の中に落ちていった。

でまあ、主人公サイドでの一日目は今回で終了ですが、白戸先生の視点での話がまだ終わっていません。

つまりもうちょっとだけ続くのじゃ、です。

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