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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第一章 始まりの地・ヒルマウント
23/155

寺院へ

 日は沈みつつあり、薄暗い道を歩く。

 採石場から寺院に到る道の左右には、細い石柱が街灯として立てられ、その頂点が輝いている。

 お陰で、足下は特におぼつかない。

 そして到着した寺院は、大きくはない……が、それでもこんな山の中にあるにしては立派な石造り建築だった。

 三階建ての長方形の建物に、鐘楼が高く突き立っている。

 完成当時はかなり煌びやかだったのかもしれないが、さすがに歳月が過ぎ、その眩さはない。

 が、その分歴史を重ねた重みのようなモノが感じられた。

 ……ただ、近付くにつれ、その足下に青色のランプが点灯しているのが残念だった。

 パトカーのランプだ。

「無粋じゃのう……」

「そうは言っても、あっちも仕事だろ。どういう内容か知らないけど」

 麓の広場でも警戒したけど、僕達関連じゃないよな……。

 この村に来て、結構な時間が過ぎているのだ。

 そろそろ塾の方も僕やケイの不在に気づいてもおかしくない。

 なんて警戒していたが、それはペンドラゴンさんの独り言に否定された。

「少なくとも人捜し……ではないようですね」

「何で、分かるんですか?」

 すい、とペンドラゴンさんの指が、警察官に向けられた。

「それならもっと、行き来する観光客に注意を向けます。目指しているのは奥の墓地ですね」

 ……よく見てるなあ、と感心する。

 言われてみれば確かに、人には関心を払う様子がない。

 これはつまり、現在進行形で誰かを追っているのではなく、奥の方で何かが起こっていてその対処に当たっている、という事だ。


 ――前にも記述したが、この時点での僕達は、墓地が暴かれた事を知らない。


「ゾンビ映画じゃ!」

「……まだ日は暮れてないし、だとしてもそれ死亡フラグじゃないか。大体死んだ人間が甦るとか、現実にあってたまるか」

「そ、そうですよねぇ」

 オバケの類が苦手なのか、顔を引きつらせたペンドラゴンさんと共に、寺院に入る事にした。


 幸いな事に、寺院の方は立ち入りを禁止とかはされていなかった。

 左右に長椅子があり、正面の通路を進んだ先には祭壇がある。ごくスタンダードな礼拝堂だ。

 人の入りは……十数人、といった所か。

 壁や天井の燭台の灯りが、内部をオレンジ色に照らしている。

「僧侶達も、何だか落ち着きがないのう」

 キョロキョロと礼拝堂を見回していたケイが、壁に沿って早足で裏手に向かう、僧侶に気づいていた。多分警察に呼ばれているのだろう。

「………………」

 何か小声で、ペンドラゴンさんが繰り返していた。蒸語だったけど、単語一つだったので、僕にも分かる。

「……何で、ペンドラゴンさんが、お坊さん達に謝ってるんですか」

「え、あ、その……聞こえてました?」

「割と、耳はいい方なんで」

 何て話していると、僕達の手をケイが引っ張った。

「ま、それはともかく見て回るのじゃ。それが目的であろ?」

「ああ、そうだった」

 通路を進み、祭壇の前に立つ。

 当然だが、手で触れるのは禁止だ。

 左手に剣を地面に刺した狼頭将軍の彫刻、右手に杖を持った魔術師の彫刻、天井付近に龍の彫刻、そして正面には剣を掲げるユフ王の彫刻があった。

「ふむ……当たり前と言えば、当たり前じゃが、やはり主役はユフ王じゃの」

 ここに納められた時には彼女は王様なので、ケイも名前の後ろに再び王をつけた。

「ここに納める為に、造られたようなモノらしいからな。普段の礼拝やら説法やらは広場近くにあったあっちを使うんだろ」

「こういうのは、どう拝むのじゃろ」

 周囲の観光客を見ると、何やら印を切っているようだが……。

「……別に僕ら、ザナドゥ教徒じゃないし、こっち流で拝む必要ないだろ」

 とりあえず手を合わせて、拝んでおいた。

 こういうのは、気持ちだと思う。

 何て太照流に拝んでいると、後ろでペンドラゴンさんが戸惑ったような声を上げていた。

「あ、あの、困ります……!」

 振り返ると、ペンドラゴンさんに、お婆さんが印を切っていた。それを焦った様子で、僕達と同じぐらいの年齢らしい孫娘が止めている。

「お婆ちゃん、しっかりして! 違うから! 国王陛下は千五百年前に死んじゃってるから! す、すみません、本当に!」

「い、いえ……って何か増えてるーっ!?」

 見ると老人達が次々とペンドラゴンさんの周囲に集まり、何か呟きながら印を切っていた。

 ああ、言葉が分からなくても、魂で理解出来る。

 あれ、絶対「ありがたやありがたや」って言ってる。

「……大変じゃのう、ペンドラゴン氏」

「……ああ、まったくだ」

 せっかくなので、僕達も拝む事にした。

「って二人も拝んでないで、助けて下さいよ!?」


 なんて騒動もあったが、ひとまず脱出する事が出来た僕達は、出入り口の脇に作られた売店に立ち寄った。

 といっても、長机に御守りと寄付箱を並べただけの、簡素なモノだが。

 御守りの種類はペンダント型やブレスレット型など、様々な形があった。

「ま、ここでの一番の目的は御守りの回収なんだけどさ」

「ふむ、何の御利益を求めておるのじゃ」

「へ?」

「色々ありますよ? 出世成功とか旅行安全とか厄除けとか武運向上とか安産祈願とか」

 御守りの下にある注意書きが、その種類に当たるらしい。

「待て待て待て……え、そ、そんなにあるの?」

 てっきり何か一種類だけだと思ってたので、僕は焦った。

「ユフ王にまつわる御守りならば、それぐらい当然であろう」

 確かに村娘から王様に出世しているし、厳しい旅路だったようだし、他もまあ分からないでもないけど。

「……安産祈願は、関係なくないか?」

「……あー、いや、その……五人ほど、産んでますよ、王様?」

 やけに顔を赤らめながら、ペンドラゴンさんが教えてくれた。

「五人産みながら王の仕事もしてたの!?」

 いや、例がないわけじゃないけどさ。

 どっかの女帝は十人越える数産んだとか、どっかで聞いたような気もするし。

 ただ、安産祈願は僕には必要ないと思う。

「まあ、ここは王様っぽく出世成功、かなぁ。これから先を考えると、旅行安全だとも思わないでもないけど」

「ならばそっちは妾が買っておくのじゃ!」

 という訳で、僕達は二つ、御守りを手に入れた。

 どちらもネックレスタイプだ。

「じゃあボクも、旅の無事をお祈りしておきますね」

 言って、ペンドラゴンさんが印を切り、何やら呪文を唱えだした。

「どうか、私達にも……」

 すると、僕達の後ろでお婆さんが印を切っていた。

「って、まだいたんですかお婆ちゃん!?」

「すみませんすみません!!」

 そして謝る孫らしい少女。


 国王陛下の墓所も見たかったのだが、それは警察に拒否されてしまった。

 事情は教えてくれなかったが、それが残念だった。

 ひとまず、墓碑だけは確認出来たので、それで納得する事にした。


 こうして、ラクストックでの観光は無事(?)終了した。

 山を下り、幸いちょうどバスが来たので、ペンドラゴンさんとそれに乗り込む。

 市内に戻れば、お世話になった彼女とのお別れが待っていた。

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