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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第一章 始まりの地・ヒルマウント
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プリニースとの決戦の地・採石場

 博物館を出てさらに奥に進むと、横道があった。

 舗装こそされていないモノの、矢印がある事から観光ルートである事は分かる。雨の日には水たまりと泥だらけになりそうで、歩くのに苦労するだろう。

 幸い今日は晴れていたので、その不便はない。

 人の行き来もあり、何人かの観光客や地元の人達とすれ違う。

 矢印の下には文字が書いてあって、僕には『ユフ』と『プリニース』という文字しか読む事が出来なかった。

「この先が、ユフとプリニースの決戦の地です。洞窟手前にあった広場からこう……」

 ペンドラゴンさんは、広場があった辺りを指差し、森を横断させた。

「森を突破してのクライマックスですね。ラクストック村での最終戦です」

「洞窟で戦ったという、ダービーとやらはどうなったのかや」

「洞窟戦でダメージを負い、その修復の為グレイツロープに運ばれました。それに、プリニースにしてみれば、自分一人で充分だと踏んだんでしょう」

「……修復? 回復じゃなくて?」

「はい。ダービーはプリニースによる人造人型兵器。現代で言えば、サイボーグに当たりますからね。修復で合っているんです。つきましたね」

 到着した場所は、広い採石場だった。

 といっても、採石されていたのは遙か昔らしく、山を削ったそれにはかなり緑が伸びていた。

 そりゃ一応文化財だもんなあ、ここで石を切ろうとか罰当たりだろう。

 雑草は生えているが、伸びすぎているという事もない。想像だけど、おそらく手入れされて、当時を保っているんじゃないだろうか。

「そして、プリニースはユフ王を侮り、ここで負けてしまった……むう、今更じゃがこの時点で王、と名を付けるのは正確ではない気がするのじゃが」

 本当に今更、ケイが首を捻っていた。

 もっとも、言われてみれば僕も同感なんだけど。

「ああ、当時の段階ではただのユフ・フィッツロンですからねえ。ボクは呼び捨てでいいと思いますよ?」

「では、ユフで」

 ケイが頷き、僕は別の疑問を口にした。

「それにしてもプリニースってあれだろ? 存在自体を薄れさせるなんて力の持ち主に、どうやってユフは勝ったのさ」

「その手掛かりはお義父さん、つまりセキエン氏が遺してくれました。えーと……これです。この人形」

 ペンドラゴンさんは、博物館で手に入れていた冊子(パンフレット)を取り出し、その一点を指差した。

 モンスター召喚の依代となるという土で出来た人形は、セキエン氏の作だ。

 ただ、他のモノよりかなり荒くひび割れているのは、急いで作ったからだろう。それが保存されているだけでも、驚きではあるのだが。

 題名は『セキエン 最期の作』とある。

 形は長く身体を伸ばした蛇……じゃなかった。

「鰻?」

 背びれや鬚などから見ても、蛇ではなかった。

「そうです。ボクは……いや、この国の人間は最初、蛇の亜種だと思っていたんですけど、そういう魚だったんですね。この山には川もあって、そこでユフはお義父さんが召喚したこのモンスターと戦った事が何度もあります」

「…………」

「…………」

 僕とケイは、顔を見合わせた。

 念の為、確認してみる。

「大型の?」

 ちなみに、太照には、こんなでかい鰻は存在しない。いや、現代でこんなのいたら、大騒ぎだ。というか普通にこれは、モンスターだった。

「ええ、だから最初は巨大蛇かと思いました……と、それはいいんです。要はプリニースもまた自身を改造した、いわば改造人間だったんですよ」

「怪奇鰻人間……まるっきり太陽の日朝八時の世界なのじゃ」

「……同感。体内電気とか蓄積させてそうだ」

 なんて、太照の人間以外にはあまり理解されない共感を、僕達は育む事になった。って、疑問が解決してなかった。

「あ、でもそれでどうやって、勝ったんですか?」

「ふふふ、妾には分かったぞ。ユフはただ森で戦って、ここに辿り着いたのではない。ここにプリニースを誘い込んだのじゃ。山で訓練を積んでいたのならば、その土地の特性にも気づいておったのじゃろう」

「お察しの通り。さすがですね」

「ふははは、もっと褒めるのじゃ!」

 賞賛するペンドラゴンさんに、ケイは調子に乗りまくっていた。

 が、僕にはサッパリ分からない。

「どういう事?」

 すると、ケイは地面を指差した。

「この土地はどうやら昔、海にあったらしいの。貝殻が転がっておるのじゃ。そして、土には塩の成分がある」

 なるほど、言われてみれば足下には小さな貝殻があった。

 土地が海の底だった、というのも頷ける。

「……でも鰻は確か、淡水でも海水でも生きられたんじゃなかったっけ?」

 淡水魚なら、海水で苦しむというのは分かるけど、どうも僕の考えはピントがずれているようだ。

「そういう話ではないのじゃ。世界に溶け込むという力を有するプリニースじゃが、これはおそらく、鰻の特性である砂中や岩の隙間にヌルリと潜り込む性質を取り込んだものなのじゃな」

「おそらくは。ボクもその点詳しい事は知りませんけど、あの魚は泥の中に潜むのは得意でした……じゃなくて、ですよね」

「だから、その性質をそのまま活かした。鰻はヌルヌルするじゃろ」

「ああ、そうだな」

「つまり、滑り止めに塩を使ったのじゃ」

「ちょっ、そんなのでいいの!?」

「同時に塩には古くから清めの性質も持つと言われておる。神父であったセキエンの仇討ちとしては、よい意趣返しではないかの?」

 まだ、そっちの方が納得がいく。

「まさしく、それでした。ここまで誘い込むのが大変だったみたいですけど」

 ペンドラゴンさんの先導で、僕達は山の根元にある石碑に到着した。

 人の背丈ほどもあるゴツゴツした岩の表面を削り取り、文字が刻まれている。

 文字は読めないが、戦いの記念碑である事はケイに教えてもらった。

「そしてこれで、ユフ・フィッツロンの平穏だった日々は終わり、旅立つ時が来ました。宝玉に導かれ、彼女はまず西に向かいます」

「最初は、グレイツロープじゃな」

「待て待て、はやる気持ちは分かるけど、まだ寺院に行ってない」

「おお、そうじゃった。しかし不思議なモノじゃな。最初の戦いが終わり、その直後に冒険と続く治政をすっ飛ばして、彼女の最期の地に辿り着くのじゃから」

「言われてみれば、ちょっと面白いですね」

 ケイの感想に、ペンドラゴンさんもクスクスと笑った。

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