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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第一章 始まりの地・ヒルマウント
21/155

六禍選に関しての紹介(後編)

 最後の絵は物理的に輝いていた。

 ……多分これ、金箔か何か貼られてるんだろう。

 中心にいるのは、黄金の青年だ。年齢は二十歳ぐらいだろうか。腰に剣を佩き、黄金色の鎧を装備している。

 肩には鳥が足を休めている。……ツバメだろうか?

 その自信に満ちた顔立ち、威風堂々とした佇まいは、さながら英雄譚に出て来る主人公のようだった。

 が。

「……顔も手も金ピカじゃの」

「……何かの間違いじゃないのか、これ?」

 瞳は宝石、おそらくルビーだろう。

 身体のあちこちにも宝石が埋め込まれていて、絵画全体が煌びやかだ。

「いえ、間違いじゃないんです。彼は、本当に全身金色なんです。名前は黄金の皇子オスカルド。オーガストラ皇帝の実の息子です」

「父親も黄金だったりするんですか!?」

「いや、父親の方は普通でしたよ!?」

「なら、母親の方じゃ」

「彼女も普通でした! ……そういやなんであんな怪人だったのか、ボクも聞きそびれてたな」

 額の汗を拭い、ペンドラゴンさんは疲れた様子で頭を振った。

「誰から聞いたのかの?」

「……え、えーと、その、オスカルドについて、教えてくれた人です」

 ケイの問いに、どこか明後日の方角を見ながら答える。

「ふむ、それにしてもこれはすごいの。人と言うより怪人じゃ」

「言っちゃ何ですけど、頭が牛のハイドラよりもすごいと思う」

「さ、散々な言われようですが、否定出来ません……」

 僕達は素直な感想を述べただけなのに、どこか彼女の顔は引きつっていた。

 小さく咳をし、ペンドラゴンさんの話が続く。

 何故か、絵の中のオスカルドが輝いたような気がした。まるで「さぁ、早く僕の説明をするのだ!」みたいな……多分気のせいだろうけど。

「気を取り直して、紹介の続きをします。六禍選の中では立場的にもリーダー格と言ってもいいでしょう。……まあ、あの集団ですから、あまりそれに意味はなさそうですけど」

 それには僕も同意見だった。個性、強そうだし、上の言う事を聞きそうな奴なんて、ほとんどいそうにない。

「うーん……そうだなあ。器的には何だか実質のリーダーはハイドラっぽいなぁ」

 前の六禍選、セキエンやプリニースを除けば、一番年長そうだし。

 いや、牛の年齢とか、顔じゃよく分からないけど。

「このオスカルド、強いのかや?」

「強いというか、まずあらゆる攻撃が通じません。剣も魔法もです」

「それは紅き魔女と同じって事?」

 ケイの質問に、僕も便乗してみた。

「ズッキーニは攻撃が透過してしまう類ですね。一方オスカルドは攻撃そのモノを受けても平気というか、この黄金の身体。これが厄介でした」

 黄金の肉体が、無敵の源だったという事か。

「貴金属の中でも王様じゃからかのう」

 うむうむ、とケイがしきりに頷く。

「そして攻撃ですがまずは、帝国式戦闘剣術を完全に修めていました。その太刀筋は光の如し。その中でも最大の威力を持つ攻撃は、秘剣『値千金(あたいせんきん)』と呼ばれていました」

「こちらの攻撃が通用しないって事は……思い切りもよさそうだなあ」

 ふと思いついた事を口にしたら、ペンドラゴンさんが理解者を得たかのように、瞳を輝かせた。

「そう、正にそれです! 人間ではありえない、防御を無視した攻撃法が地味に厄介だったんですよ!」

「まるで実際に戦ったかのような口調じゃの?」

「気のせいです!」

「身体が黄金じゃったから、動きも鈍かった、という事はないのかのう?」

「チルミーなどと比べると無意味ですが、戦士としては充分、非常識なレベルでしたよ。六禍選の中でも純粋な戦闘で彼と互角に戦りあえたのは、チルミー、ハイドラぐらいだったんじゃないでしょうか」

「……あの、ハイドラって、魔術師でしたよね?」

「魔術師でしたけど、戦士としても強かったんですって」

 牛面の武将の絵を見ながら、僕はしみじみと思った。

 ……この絵面からは、魔術師ってのが、やっぱり信じられない。

「速さではチルミー、力ではハイドラに譲りますが、トータル見た戦士としての強さではやはり、このオスカルドが一番だったでしょう」

「純粋な剣士だったって事ですか?」

「そうですねえ、自分が認めた相手には剣を抜く、というか」

「それまでは、素手で戦っていたのかや?」

「いえ、剣を抜く前から不可視の攻撃を使っていたんです」

「不可視って……見えない攻撃?」

「はい。腕をこう組んで、相手が攻撃してくるのを待つ訳です」

 ペンドラゴンさんは、実際に腕を組んで軽く胸を張って見せた。

「そうすると、彼に斬りかかろうとする人達が皆、バタバタバター……と、倒れていくんですよ、不思議な事に」

「それは、魔法か何かの?」

 ケイの疑問に、ペンドラゴンさんはクスッと笑って絵の中、オスカルドの肩に乗っている鳥を指差した。

「その正体は現在ではバレているんですけど、種はこの子でした」

「ツバメ?」

「はい、いわゆる使い魔ですね。見破られるまで、無数の人々がこの子の超高速攻撃の餌食になっていたんです。頼りになる仲間がいなければ、ユフ王も危なかったでしょう」

「他の六禍選もそうだけど、よくこんなのに王様達は勝てたなぁ」

「それなりに弱点はあったんですよ。無尽蔵に強い攻撃を出せる訳でもなかったというか……ああでも、ここには書いていませんね。でも、シティムにいけばきっと分かりますよ」

「え、シティムって言っても広いですよ?」

 もちろん、シティムは旅の最終目的地で行く予定だが、それにしたって手掛かり無しじゃきつい。

「オスカルド関連なら、金色城、セイスイバン大工房、皇帝城黄金の間。この三つのどれかを回れば、確実です」

「メモっときます」

 実際、手帳とペンを取り出し、書いておく。

 古物商で買っておいて、本当によかった。

「六禍選に関しては、ひとまずこんな所でしょうか。皇帝と皇妃は……まあ、最後の敵までここで語ると、旅の楽しみが減ると思うので出し惜しみしておきます」

「助かります」

 廊下の展示品を眺めながら進む。

 それは、かつて魔王城とも呼ばれていたオーガストラ皇帝城の紹介まで続いた。

 そしてここで前帝国を討ち倒し、勇者のユフは新たな王となり国を興した……という所で展示は終了した。

 遺言により、彼の遺骸はこの近くの寺院に埋葬され、いくつかの宝も収められた。

 故郷であるこのラクストックの村は、今もこうして存続している。

 ……博物館の巡回もほぼ一周し、進む先には入り口ホールの受付が見えてきた。

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