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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第一章 始まりの地・ヒルマウント
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六禍選に関しての紹介(中編)

何か彼に関しては重要なので、一話使い切ってしまいました。

全三部に分かれます。

「次が青き翼のチルミーです」

 ペンドラゴンさんが紹介した絵は、他とは一線を画していた。

 晴天の下、どこかの峡谷を背景に、青い翼の青年有翼人が黄昏れている。

 半袖のシャツにハーフパンツ、サンダルという有翼人特有の簡素な服装だが、ビックリするぐらいの美男子だ。

 しかも使われている絵の具自体が違うのか、物理的に光っていた。

「絵描きが、贔屓しておらぬかこれ? 絵が輝いておるぞ」

 同様の感想を、ケイが漏らした。

「多分これでも控えめですよ。実物はもっとすごいというか、この世のモノとは思えない程の美男子です」

「む? 何だか実際に見たような口ぶりじゃの」

「び、美男子だったというお話です」

 何だか慌てて訂正する、ペンドラゴンさんだった。

 ふと、僕は数時間前の事を思い出す。

「そういや市内のパレードでも、ウーヴァルトの俳優がその役やってたなぁ。スキア・グランツ」

「誰じゃ?」

「誰です?」

 何と言う事、知っているのは僕だけだった。

「知らないの、映画俳優なんだけど」

「むぅ……芸能界には興味がないからのう。麦国ヒーロー物の実写映画に出演していたりしているのならば、憶えておるのじゃが」

「あー、そっち方面じゃないな。どっちかといえば恋愛系とかに出るタイプ」

「なら、憶えておらぬ」

 スキア・グランツ気の毒すぎる……。

「そ、そもそも、その、映画というのが何なのか、ボクにはよく……ああいえ、何でもないです」

 コホン、と咳払いをして、ペンドラゴンさんは説明に戻った。

「そしてこのチルミーは白々しきワルスと並ぶ、恐ろしい力の持ち主と伝わっていますね。その力は時間と空間を越えるというお話です」

「ふむふむ、時間移動と空間跳躍かや?」

「ええと、他に時間停止とか空間歪曲とかも」

 何だか、壮大な力を持つ、という事はよく分かった。

 何でそんなすごいのが、オーガストラ皇帝の下で働いていたのか、僕としてはすごい謎だ。それとも、皇帝自体に何か魅力でもあったのか。

 一方、ケイはしきりに感心していた。

「それはすごいの。時間空間なら何でもありという事かの。……だとすると、青羽教とも何か関係があるのかのう」

「はい? 青羽教は、もちろんチルミーを神と崇める宗派ですよね?」

「青羽教? あれ、どっかで聞いたような……」

「バスの中で見たニュースじゃ。やっておったであろう? 青羽教の幹部が逮捕されたのじゃ」

「へえ、今、そういう事になってるんですか」

「夕刊には間に合わぬの。多分夜のニュースでは流れると思うのじゃ。そしてその青羽教の神がチルミーなのじゃ」

「ま、とにかくそうですね。その美貌と能力で、宗教にまで昇華されちゃった有翼人です」

「チルミーが、神なんですか? 宗教興した教祖とかじゃなくて?」

「いえ、そうじゃないんですよ。実際、本人が現人神として崇められていたんです。本人の性格は基本、何事にも無関心というか無気力というか、そんな人だったようですからそんな宗教、自分で興すような人じゃないですよ。……それに、現時点まで唯一、生きているのか死んでいるのか分からない、というのも信者が多い理由の一つではないでしょうか」

「え、どういう事?」

「観測者の存在が関わる量子論かの?」

 僕とケイが首を傾げる。ケイの言ってる事は何だかよく分からなかったが、多分あんまり重要じゃないと思う。

「彼は帝都での決戦で、魔術師ニワ・カイチを巻き込んで消えたんです。ニワ・カイチはすぐに戻って来ましたが、チルミーとの戦いの結末に関しては言葉を濁しました。そして今日に到るまで、チルミーがどこかに現れたという話は聞いていません。だから、青羽教の信者達は、チルミーの帰還を待っているという事ですね」

「時間と空間の覇者であるからかの。その力は、崇めるに足るとも言える」

 うむうむ、と頷くケイに、ペンドラゴンさんはクスッと笑った。

「それもありますが、やはり美男子だったからっていうのも大きな理由でしょうね。そりゃもうあそこの宗派はものすごくて、まず第一に女性の信者がほとんどです」

「……まあ、男はあんまり、そういうのはちょっと」

「いえ、本当に時間と空間にまつわる信仰、という意味なら男性信者もそれなりにいたはずなんですけどね。ただ、それでもやはりその容姿から女性が多く、導いた教主も女性が主でした。それに、何だかんだで偉大な芸術家や作家が誕生しましたね」

「これとか?」

 僕が、輝くチルミーの肖像画を指差した。

「これも素晴らしいですが、序の口です」

「芸術家っていうのは画家とか彫刻家で分かるけど、作家って言うのは?」

「もちろん、チルミーの伝承や伝記を書き記した人達ですよ。……内容的にはほとんど、フィクションですが。あと、ボク……じゃない、ユフ一行の方が悪役にされての活劇譚などもあったはずですよ。中でもニワ・カイチの扱いは酷いです。もうどっちが魔王なんだか分かりませんってレベルで、当人が読んで爆笑してました」

「怒らないのか……?」

「戦った当人ですから、フィクションっていうのが誰よりも分かっているって事ですよ」

 そういうモノか。

 だとしても、別の疑問が頭に浮かぶ。

「それは、当時執筆されたんですよね? ええとつまり、ユフ一行の旅が終わって、その治政が始まった世って意味で」

「そうですね」

「ユフ王は、取り締まらなかったんですか、それ? 国王を悪役にしたりとかって、結構大問題だと思うんですけど」

「青羽教自体は過激だったのでもちろんユフ王は取り締まりました。でも、作品はまあ、自由でしたし。ああ、もちろん王様の誹謗中傷やらがあったりしたモノは、別ですよ? 明らかにフィクションなのは、という意味でそっちは自由でした」

「懐でかいな、王様」

「いや、それほどでも」

「ん?」

 そこでペンドラゴンさんが照れる意味もよく分からないんだけど。

「しかし、そういう点が鷹揚であったから、市内のパレードも続くのであろう。本来敵役までが派手な祭など、そうないであろ?」

 言われてみれば、それは言えているかもしれない。

 あっちはあっちで反英雄的というか、ある意味でユフ王一行よりもキャラが立っていた気がする。

「よくも悪くも、個性的な方々だった、というのもあると思います。思ったよりも長くなってしまいましたね。最後の一人を紹介しましょう」




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