龍の逸話と宝玉に関する仮説
「うむ。髪の質といい、顔や全身の骨格といい、肉つきといい、よく似ておる」
絵画を見上げ、ケイはユフ王を評する。
「どういう区別の付け方をしてるんだ、君は」
「むむ、そう思うのは妾だけか?」
「いや、まあ、そう言われると……」
確かに、絵の彼女と隣にいるペンドラゴンさんはよく似ている。
が、いくら何でも千五百年前の英雄がすぐ傍でニコニコしているとか、最近流行りのゲームじゃあるまいし、そりゃないだろう。
それに、絵だしなあ。国王陛下の肖像画を描くとか、絵師だって美化するんじゃないか……とか思うんだけど。
いや待て、そうすると美化した絵とペンドラゴンさんはタメを張るって事か?
「国王陛下に似ているとは、なかなかに光栄ですね」
「今、市内ではユフ王とその仲間とか、前の皇帝らの扮装パレードが行なわれているそうじゃぞ。お主が着替えれば、皆ビックリすると思うのじゃ」
「……ええ、まあ、そりゃすごくビックリされると思いますけどね」
ペンドラゴンさんは、何とも言えない笑みを浮かべていた。
パレードで見た甲冑を、ペンドラゴンさんに当てはめてみる。
なるほど、とてもよく似合いそうだ。
姿勢もいいし、何だか武道の心得がありそうなんだよな、この人。
なんて話をしながら歩いていると、目の前に長い通路が広がった。
通路の真ん中に長方形のジオラマが続き、壁には歴史の年表や地図などが飾られていた。もちろん、文章はほとんど読めないが、ジオラマの意味は分かる。
ところどころに、ユフ王を模した人形が立てられ、狼頭の人形やローブ姿の人形、龍の人形も設置されている。
「ここからは、ユフ王の旅の道程ですね。三人の仲間についてもちょっと触れてます」
壁を見ると、王の他、三人の仲間の絵が飾られていた。
「狼頭将軍クルーガー、劣等魔術師ニワ・カイチ、龍のルパート……龍?」
「はい?」
ペンドラゴンさんが首を傾げる。
そう、僕はパレードの時から、この違和感が気になっていた。
「ルパートは、龍なんですか? 有翼人じゃなくて」
「はぁ、そうですけど……それが、どうかしたんですか?」
「太照では、ルパートは龍ではなく有翼人と伝わっておるのじゃよ。子供でも知っておるお伽噺じゃが、どうやら本場では少し違うようじゃの」
どうやら、僕の記憶違いじゃなかったようだ。
ケイと顔を見合わせ、頷き合う。
大した問題じゃないのかも知れないが、どうしてこんな事になっているのかとなると、それは気になる。
「というか、太照がおかしいんだろうな。本場であるガストノーセンの伝説が正しいに決まっておる」
「そうですね。どうしてそういう事になったのか、何となく検討はつきますけど……あはは、まったく……見栄っ張りな種族だなぁ。恥の上塗りじゃないか」
「うん?」
クスクス、とペンドラゴンさんは苦笑した。
「相馬さんの話だと、ルパートの故郷であるラヴィットにも向かうんですよね?」
「ええ、まあ予算には若干不安がありますけど……多分、何とかなります」
「なら、その時のお楽しみですね。ここで明かすのは勿体ないです」
「宝玉に関しても、資料があるの。実物はないのかや?」
先に進んだ壁には、丸い宝玉とそれに関する文章が……ああ、読めませんとも!
ただ、実物の有無に関しては、推測する事が出来る。
「んー、この博物館は基本、村で過ごしてた時期のユフ王に関する資料が主なんだよな。剣と同じであるとしてもレプリカ。展示されているとすれば、シティムじゃないか?」
「鋭いですね」
どうやら、当たりのようだ。
一方ケイはまだ悩みがあるのか、うーんと首を傾げていた。
「しかし、この宝玉というのは何なのかや。王には不老不死を与えたが、他の仲間は別に不老不死ではなかったのであろ?」
「そうですね。それぞれ違う性質を持っていた……というか、宝玉は同じだった可能性もありますね」
「うん?」
ペンドラゴンさんが、何だかよく分からない事を言った。
「……む? 宝玉側ではなく、持つ人間の側によって性質が変わるという事かや」
「そちらは、ありえませんか?」
「じゃとすれば、元々ユフ王は不老不死で……あ、いや……宝玉は、むしろ対象の持っている異能の起動因子? それならば、辻褄は合うが……」
ケイは自分の頭の中で解決しているのか、僕には何が何だかサッパリ分からない。
「ごめん、何かえらく難しい話、してない?」
「さほどではないが、根拠も何もない与太話ではあるの。妾は歴史には詳しくないが、学説として今の話はあるのかの?」
「さあ? 僕も歴史学者じゃないですから。ただ、ありかなしかで言えば……」
ペンドラゴンさんとケイが、ニヤリと笑い合う。
「ありじゃの。その方が面白い」
「で、この宝玉は何なのさ」
最終的な結論を僕が求めると、うむ、とケイは深々と頷いた。
「不思議な玉じゃ」
「結局何も、分かってないじゃないか!?」
ちなみに宝玉の由来に関しては、シティムの大博物館にあるとペンドラゴンさんが言っていたので、しっかりメモしておく事にした。
通路を進む。
グレイツロープのジオラマに、赤い頭巾の魔女ズッキーニの人形が飾られている。
「皇帝直属の幹部・六禍選。物語には出て来るけど、詳しくは知らないんだよなあ」
「妾もじゃ」
「太照では、どのように伝わっているんですか?」
「いや、単純に宝玉に導かれて集まった四人の勇士を阻む、皇帝直属の六幹部って話でさ、バッタバッタと薙ぎ倒したっていうお話。強いって設定はあるんだけどね」
「具体的にどう倒したとかは、ないのう。いや、おそらくちゃんと読めばあるのじゃろうが……妾達のソースは基本、絵本じゃ」
「だよなあ。昔、映画にはなったらしいけど、観てないんだよ」
「ここは、映画の都ウーヴァルトですんごい予算を組んでじゃの、何部作かの一大絵巻とかやって欲しいの。大ヒットするのじゃ」
「需要はありそうだけど、すごい時間掛かりそうだな」
「CG編集の機器ぐらいなら妾が調達してやるのじゃ」
「何者だ、君は」
そんな僕達を見て、ペンドラゴンさんが先を促した。
「じゃあ、六禍選について、せっかくですからちょっと紹介してみましょうか」